優しい兄達とカレー
「ところでお兄様達は何の御用でいらっしゃいましたの?」
「ああ……今日君が、商会に行っただろう?その後すぐメイヤールが訪ねてきてね」
「商品を増やしたいと言って来たんですよ」
そういえば、そんな話も致しましたっけ。
他人事のように思い浮かべながら、マリアローゼは頷いた。
「出来なくても問題は無いと思うのですが、一応提案だけさせて頂きましたわ」
「何としてでもやり遂げるって言ってたけどね。彼はすっかり君に心酔していたんだけど」
(はて……?)
マリアローゼはこてん、と首を傾げた。
確かにメイヤールのやる気は感じられたが、心酔された覚えは全く無かった。
「特別なお話などは致しませんでしたわよね?ルーナ」
「はい。いつも通りの素敵なお嬢様でございました」
それは否定なのか肯定なのか、悩む所である。
が、商品に対してと、孤児院の労働についてだけだし、たいした事は言っていない。
それでも、孤児院や救護院をのんびりと働ける場にして、資金を得る事は大事な一歩である。
彼らは労働できないと見做されて、社会から弾き出されているのだから。
「将来的に孤児院と救護院の方々にも、簡単なお仕事をして頂いて、自分達の手で生活を向上出来る様にしたいのです。今日の事は始まりのほんの一歩でしかありませんのよ」
にっこりと優しく微笑むマリアローゼを見て、何故かシスネとラディアータが驚愕の表情を浮かべた。
シルヴァインもその反応に一瞬だけ目を向けたが、マリアローゼの頭を優しくぽんぽんと撫でる。
「うん、分かっているよ。工房にも発注したから近いうちに形になるだろう」
「商会の仕事の支援は、こちらに任せておいてください」
優しいシルヴァインとキースの申し出に、マリアローゼはふふっと嬉しそうに笑った。
二人はわざわざ、マリアローゼに報せに来てくれたのだろう。
それだけでマリアローゼは幸せな気持ちになれたのだ。
「お嬢様、煮えました」
ユグムが、会話の途切れ目にそっと申し出る。
肉と野菜の香りが漂う鍋に、マリアローゼはテーブルに並べたままの調味料を手にして、鍋の中に幾つも振りかけた。
足りない調味料を追加させて、更に煮込むように言うと、部屋中にスパイスの香りが広がっていく。
「カレーだ!カレーの匂いがする!!」
と一番最初に騒いだのが、勿論ユリアである。
もう完全に、マリアローゼ=転生者という図式は分かってしまっているだろう、と思いつつ、マリアローゼはこくん、と頷いた。
「カレーという料理なのですね。この香りは独特ですが、アルハサドの料理でしょうか?それともグーラか…」
「もしかしたら、外国にはあるかもしれませんね。貴重な香辛料を20種類以上使えるかどうか、ですけれど…」
ふむ、とうなずいたユグムは、副料理長に命じて、早速同じ配分の調味料を作成している。
マリアローゼは、その行動の速さと正確さを見て思った。
(わたくしよりも遥かに優秀ですわ!)




