跪かせるお嬢様
ぐつぐつと煮えたぎった赤い液体は、そのままケチャップにも見えるが、小皿に取り分けてマリアローゼは味見をした。
(甘い…これはジャム……ジャムとして美味しい…!)
マールのジャムとしては完成してもケチャップとしては未完成だ。
マリアローゼは塩と果実酢をそこに追加した。
レモーヌでもいいかもしれない、と思い立ち、レモーヌも絞って入れる。
かき混ぜてから、再び口をつけていない匙を使い、一掬い味見した。
ケチャップですわー!
レモーヌの香りが付き過ぎないように、皮を剥いて絞ったのもあって、マール特有の味と香りを損なわずに酸味が加わり…とにかくケチャップになったのである。
思い切り料理人達が、その赤い液体に鋭い視線を注いでいるのに気付いて、マリアローゼはたじろいだ。
料理人達の背後ではユリアがハムスターの如く頬を膨らませて、揚げたてうにせんを勢いよく食べている。
「あ、あの、ユグム、オムレツを作ってくださる?」
「畏まりました」
さっと一礼したユグムが、調理台に立ち、早速プレーンのオムレツを焼き始める。
他に簡単にケチャップと合う料理が思い浮かばなかったのだ。
味見したい部下の調理人達もユグムに続いて、自分達の為のオムレツを急いで焼き始めた。
暫くして、ユグムのオムレツが出来上がり、マリアローゼはケチャップを掬って、その上に垂らした。
「はしたないけれど、少々失礼を致しますわね」
可愛らしい断わりをいれて、マリアローゼはスプーンでケチャップがけのオムレツを食べた。
おいしーーーい!
ぱああ、と懐かしい味に顔を綻ばせたマリアローゼを見て、何故か全員がぱああと釣られて微笑んだ。
「ユグムも味見なさって」
幼女の可愛らしい命を聞いて、ユグムも会釈してオムレツを食べた。
今までに無い味に、ユグムは目を見張った。
(この方は料理の女神かー…!)
何度も思い浮かべては否定して、思い直していた事が、ここで確信に変わってしまったのである。
その心の声を聞いたら、全力でマリアローゼは否定していた事だろう。
ユグムが、跪いた。
「お嬢様、この城、いえ領民全ての料理人の頂点として、慢心しておりました。この様に素晴らしい味覚に才覚をお持ちとは、このユグム、我が身を恥じるばかりです」
(な、何を仰っていらっしゃるの!?)
マリアローゼは突然の事に、思わず足置き台から足を滑らせそうになった。
「い、いえユグム、これは、ですね…」
転生者とは言えないし、と思って調理場を見渡すと、調理人達が全員跪く事態となっていた。
そこへ、調理場の扉が開き、呆れたような声が降って来た。
「……またなのかい……?」
見目麗しい兄のシルヴァインとキースがそこに立っていた。
勿論、一瞬でそうなったのだろう、遠い目をしながら。
落ち着いた料理人達と、理由を聞いたシルヴァインとキースがオムレツの味見をして、にっこりと微笑んだ。
「うん、美味しいね、これは」
「ええ、子供が好みそうな味付けですね」
(確かにそうですわね……!
今まさに子供ですものね……!)
マリアローゼは二人の兄の満足そうな顔に、こくん、と頷いた。
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※下記のひよこのPixivから飛ぶと、自作のAIイラスト(未熟)で作ったキャライメージイラストがありますので、宜しければご覧になって下さいませ。




