姉の抱擁
目の前にある、筋肉質な身体を幸せそうに眺めながら、マリアローゼは微笑んだ。
「お元気そうで何よりですわ。此処はどう?困ったことはありませんこと?」
などと、マリアローゼは早速姉貴風を吹かせ始めた。
エレパースは、周囲を見回してから、またマリアローゼに視線を落とし、ゆっくりと頷く。
「はい。……でも、此処には、お、多くの知らない、……植物が、ありまして。べ、勉強が必要…です」
「まあ、そうですのね!勉強に必要な本や図鑑等はありまして?」
マリアローゼの問いかけに、エレパースは何度かこくこく頷いた。
「じゅ、住居にも、此方にも、資料をご用意、…頂きました」
「そう、それなら宜しいですけれど、もし必要なものがございましたら、わたくしに伝えて下さいませね!だって、わたくしはエレパースのお姉様なのですから」
腰に手を当てて胸を張り、やや反り返った姿勢でマリアローゼは最大級の嵐くらいの姉貴風を吹かせた。
もはや姉貴嵐と言っても過言ではないだろう。
ノクスやルーナは動じないが、ウルススとグランスは、そんなマリアローゼの小さな背中を見詰めて微笑んだ。
そして、言われた当人であるエレパースも、それは嬉しそうに破顔する。
「はい」
素直な返事に気を良くしたマリアローゼは、ふんふんと頷いて申し出た。
「何かお手伝いする事はございまして?わたくしも手伝って差し上げますわ!」
ふんす!と力強く言うが、エレパースはふるふると首を横に振るルーナを見て、マリアローゼを再び見た。
「ま…まだ、慣れて、……いないので、その内に、お願い……致します」
「そう?でもそうですわね、慣れるのは大事な事ですものね」
出鼻を挫かれたマリアローゼは、少し残念そうな顔をしたものの、納得してこくん、と頷いた。
「此処が、貴方の安心して落ち着ける場所になる事を、わたくしは願っておりますわ」
(安心できる場所)
少しだけしか自分には与えられなかった時間と、場所。
それを思い出して、エレパースは胸に温かいものが込み上げるのを感じた。
エレパースは涙が出そうになるのを、笑顔で誤魔化す事にした。
「い、今は…優しい姉が、居りますから」
「ま、まあ、エレパース。わたくしも姉として、これからも頑張りますわね!」
思いも寄らないエレパースの言葉に、マリアローゼは感激して筋肉質な太腿に抱きついた。
ぎゅっ、と抱きついた後で、慌ててマリアローゼは身体を離す。
「はしたない事を致しましたけど、姉としての抱擁なので、大丈夫ですわ!」
何が大丈夫なのかは分からないが、とりあえず言い訳をして、マリアローゼはふんぞり返った。
エレパースも思わぬ抱擁に、赤面しつつ動揺しながらも、何度も頷く。
読んでくださり、ありがとうございます。
少しでも、楽しんで頂けたら嬉しいです。
ブクマ・いいねもとても嬉しいです。励みになっております。
※下記のひよこのPixivから飛ぶと、自作のAIイラスト(未熟)で作ったキャライメージイラストがありますので、宜しければご覧になって下さいませ。