兄達の励まし
モルファにもう少しで着く、という所で全員が馬車から一旦降ろされた。
まだ町は影すら見えていないが、街道には1台の豪奢な馬車が用意されている。
幌がついていない、前後に三人がけの椅子がある、お披露目用の馬車だった。
前にはミルリーリウムと身体の大きい二人、ノアークとシルヴァイン、シルヴァインの膝の上にマリアローゼが座り、
後部座席にはミカエルとジブリール、キースが座る。
「ああ、本当に似合うよ、我が天使。天から舞い降りた天の御使いよ!」
相変わらず大袈裟に、今朝から何度目かの賛辞を聞いて、マリアローゼは疲れた顔でジェレイドを見上げた。
「お言葉は嬉しゅうございますけれど、恥ずかしいのでお慎み下さいませ。そんな風に身内を絶賛するものでは
ございませんわ」
指摘されても、ジェレイドは屈託無くニコニコと笑っている。
「これは失礼。君を恥ずかしがらせるつもりは無いんだが、恥ずかしがっている君も、愛らしいよ」
聞いてくれない。
大仰な素振りで、胸に手を当てて嬉しそうに微笑むジェレイドは、何時もどおり訴えを聞き流すだけである。
マリアローゼはスッと目を逸らして、前を向いた。
「ルーナ達は旅馬車で移動しますの?」
シルヴァインを振り仰ぐと、笑顔でシルヴァインは頷いた。
「側道から先回りして、合流する予定だよ。使用人や荷馬車まで見せる必要は無いからね。町には寄らないし」
「緊張いたしますわ」
少し眉根を寄せて困った顔をするマリアローゼに、シルヴァインはふふっと笑った。
「神聖国で大演説をする方が、普通は緊張するものだよ」
「あら、あの方達には嫌われても構いませんけれど、領民の方々には嫌われたくありませんもの」
ほっぺをぷくりと膨らませて言う言葉に、シルヴァインはふむ、と頷いた。
「確かに、それはそうか。だが、心配しないでいいよ。俺の自慢の妹が領民に愛されない訳が無い」
「……俺も、愛されると思う」
思わぬところからも援護射撃があり、真摯な瞳を向けるノアークと目が合って、マリアローゼは微笑んだ。
「お兄様達のお墨付きを頂きましたから、安心致しました。ありがとう、ノアークお兄様。シルヴァインお兄様も」
二人の言葉に勇気付けられて、マリアローゼは再び前を向いた。
馬車が移動し始めて、すぐに町が見え始めた。
町に入る直前に、先頭の騎馬隊が、ラッパを吹き鳴らして到着を告げると、町の外まで歓声が聞こえてくる。
まるで、熱気まで押し寄せてくるような、そんな空気が感じられるほどだった。
町に入ると街道沿いには二階建て以上の建物が続き、窓から花弁が撒かれている。
街道脇には色々な場所から来たと思われる旅装の人々と、町に住む人々が手を振っていた。
マリアローゼも、にっこりと小さく手を振り返す。
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※下記のひよこのPixivから飛ぶと、自作のAIイラスト(未熟)で作ったキャライメージイラストがありますので、宜しければご覧になって下さいませ。