ドレスの活用法
引き止められている間に、男爵令嬢を泣かせた少女は、次の標的を罵倒し始めていた。
「そんなみすぼらしいドレスでよく公爵家のお茶会に参加出来ますわね。何年前のドレスかしら?」
「……お金がありませんので」
言われた方の令嬢の一人が、淡々と言い返していた。
ティリア・アークレ子爵令嬢という、飄々としたプラチナブロンドの少女で、挨拶の時も兄達に全く動じる様子も興味を示す様子すらなかったので、珍しいなとマリアローゼは感じていた。
「ふふっ、惨めですわね」
心底嬉しそうに、顔を歪めて笑う少女に、罵られた一部の令嬢は泣いてしまっている。
「ドレスが必要なのでしたら、わたくしが差し上げますわ」
と声をかけると、泣いていた少女達が顔を上げる。
「わたくしは物乞いではありません」
淡々とした様子で、ティリアは言う。
怒ってはいないが、少しばかりの敵意は感じる。
「勿論ですわ。わたくしも、折角買って頂いたのに活用できなくて困っておりましたのよ。
貰って頂けるのなら有り難いと思いまして」
要らないと言う人に押し付ける気も、矜持を汚すつもりもない。
真っ直ぐに見詰めて言うと、ティリアはふ、と笑った。
「貰ってくるといいよ」
と周囲の令嬢に優しく言う姿は、何というか……王子様然としている。
女子高に一人はいそうなモテる女子である。
「ルーナ、用意をお願いしますわ」
「畏まりました」
「わたくし、どんなドレスにしようかしら」
嬉しそうに、挨拶すら交わせず退場した少女が言い出した。
「いえ、貴方は遠慮してくださる?」
「何故でございますの?」
振り返って言うと、苦笑するシルヴァインと目が合ってしまった。
マリアローゼはゆったりと微笑んで、少女を見詰める。
先程泣かせた少女達の中に、この少女を招き入れるわけにはいかないのだ。
「貴方には素晴らしい意匠のドレスに、裕福な財がございますのでしょう?
そんな方にわたくしのドレスをお見せするなんて、恥ずかしゅうございますわ。
それに、貴方が物乞いだと、周囲に思われたらお可哀想ですもの」
困った様に言うと、先程淡々と少女に言い返していたティリアが続けて言った。
「子爵令嬢なのに物乞いするんだ、ふうん」
「し、しませんわ!物乞いなんて!」
少女は顔を赤く染めて、その場をまた令嬢らしからぬ足取りで歩き去って行った。
そしてマリアローゼは、加勢してくれたティリアに目礼すると、一旦男爵令嬢の元へと歩いて行った。
「ウェスティス嬢…先程お話が聞こえて参りましたけれど」
「あ、は、はい…」
名前を呼ばれた少女はふくよかな身体を縮こまるように、竦ませた。
「貴方のお父君は功績があったから、叙爵されたのでしてよ。今の時勢でそのように爵位を賜ることは滅多にございませんわ。誇りに思ってくださいませね」
「あ、あ、ありがとうございます、フィロソフィさま……」
あの少女の厚かましさに涙さえ引っ込んでいたスピカ・ウェスティスは再び泣き出してしまった。
そして、何時もの如く、マリアローゼは困った様に慰め始める。
「あ、あら、わたくし当たり前の事を申し上げましたのよ。お泣きにならないで…」
「は、はい…はい」
スッと近づいてきたティリアが綺麗なお辞儀をする。
「後はわたくしにお任せくださいませ、フィロソフィ嬢はあの子達にドレスを選んで差し上げてください」
「そうですか、それではアークレ嬢、ウェスティス嬢をお願いしますわね」
「ティリア、とお呼びください」
「わ、わた、くしも、スピカと…」
「分かりました。わたくしの事も是非名前でお呼びくださいませね。それでは行って参りますわ」
優雅にお辞儀をして、マリアローゼはくるりと部屋の方へ向き直った。
更なる悲劇が起きる事を知らずに、マリアローゼはルーナが用意している部屋へと向かったのである。
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※下記のひよこのPixivから飛ぶと、自作のAIイラスト(未熟)で作ったキャライメージイラストがありますので、宜しければご覧になって下さいませ。