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肖像画へのお供え物

「さて、すぐに帰りたいところですが、滝汗でユリアびっしょりなので、着替えてからお迎えに来ましょうか?」

「あ、いえ、ユリアさん、併設の兵舎に湯浴み用のお風呂がありますし、私の着替えが置いてあるので、

 それをお貸ししますよ」

「じゃあ、ひとっ風呂浴びてきますか。有り難く拝借しますね、カンナさん」


マリアローゼは普段の仲の良い二人に戻った事に安堵して、嬉しそうにこくこくと頷いて握っていた手を離した。


「では、わたくしここで待っておりますわ」

「はい。では行って参ります」

「すぐ戻ってきますね!」


良かった、と思いつつ、椅子に戻る時に、ずっと静かにしているルーナを見れば、何だか元気がない様子である。

マリアローゼはそんなルーナを見詰めた。


「どうか致しまして?ルーナ」

「あ、いえ、失礼致しました。二人がお強くて、馬にも乗れて、羨ましいのです」

「まあ……」


まだ子供なのに、そんな事を気にするなんて。


と涙ぐましく思うが、隣に立っているノクスもこくりと頷いている。

マリアローゼは、ルーナをぎゅっと抱きしめた。


「ルーナもノクスも十分すぎるくらい成長していましてよ。わたくしは誇りに思っておりますの。

馬術も武術も、これから一緒に学んでいくのですから、気を落とさないで。

お二人だって、幼い頃からいきなり出来た訳ではありませんのよ」


「はい、お嬢様。ご心配おかけしました。もう大丈夫でございます」


ランバートがいたら叱責されていたかもしれない、とルーナは思いながら笑顔を浮かべた。

使用人が主人に気を使わせて、慰められるなど以ての外なのだ。

マリアローゼは優しくて責任感が強いから、少し沈んでいただけでも心を砕いてくれる。

それは嬉しい事であると同時に、自分の責務を全うできていない証でもある。

強くなる以前の問題だ、とルーナは自戒した。

私情で優しいお嬢様を煩わせるなど、あってはならない。

じっ、と窺うように見てから、マリアローゼも柔らかく微笑み返した。


「分かりました。ルーナ、一緒に頑張りましょうね」

「はい、ルーナはお嬢様が大好きです」


ぎゅっと抱きしめると、マリアローゼは安心したように肩に頬を寄せてくる。

この柔らかく温かい大事な温もりを守り抜くためには、心も身体も強靭でなくてはならない。

改めて決意したルーナは、ノクスに力強い眼差しを向けた。

ノクスも、静かにこくりと頷き返したのである。



部屋に戻ったマリアローゼは、一目散にまた刺繍を始めた。

午前中みっちり刺繍に勤しんだお陰で、大分手馴れてきている、と実感していた。

晩餐の時間になると、父も母も出かけていたシルヴァインも戻っていて、賑やかな食事が始まる。

主に興奮した双子の兄が、カンナとユリアの強さを絶賛していて、更にグランスへの褒め言葉が続く。

両親も満足そうに頷きながら聞き、シルヴァインは、ほう、と感心したような声も漏らした。


「そういえば、今日、用事のついでに王城へ立ち寄ったのですが」


とシルヴァインが話し始めると、ジェラルドはふむ、とシルヴァインに目を向けた。


ついで、て。

王城はそんな気軽に行ける場所だったのかしら。


マリアローゼはジト目でシルヴァインを見つめる。


「エネア殿下がそれはもう、ローゼの肖像画に夢中になっていて、お気に入りの玩具を絵の前に置いたり、お菓子を貰うと、ローゼの肖像画にまず分け与えるそうですよ」


「まあ……」


マリアローゼはそんな事になっているとは思わず、絶句した。

すごく可愛らしい、のだが、同時に切なくもある。

会いに行きたいが、会ってしまえば別れが辛くなりそうだ、としょんぼりした。

読んでくださり、ありがとうございます。

お陰さまで240万PV到達致しました。

少しでも、楽しんで頂けたら嬉しいです。

ブクマ・いいねもとても嬉しいです。励みになっております。

※下記のひよこのPixivから飛ぶと、自作のAIイラスト(未熟)で作ったキャライメージイラストがありますので、宜しければご覧になって下さいませ。

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