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神聖国の魔手

本日のみ、2回目を21時に更新します。

宜しければまた見に来て下さい。

足を運んでくださった全ての方に感謝します。

そして、その日の執務室では、ジェラルドがうーんと唸っていた。

とうとう、ルクスリア神聖国からの、招聘の手紙が届いたのである。


「ローゼの手腕を見たかい?あの双子をいとも簡単に…」

「諫める事をせずに、方向転換させてみたのには、感銘を受けました」

「神聖国に行かせたくないな…」

「僭越ながら、私も同じ思いにございます」


コンコン、と小さなノックがあり、暫くぶりにマリアローゼが顔を出した。

そして、挨拶を終えると、執務机に背伸びをして紙の束をドン、と載せる。


「これは……え?」


パラパラと捲ってみたが、キースとシルヴァインの筆跡だ。

軽く目を通すと、商会立ち上げの計画書である。


「マリアローゼが何でこんなものを持ってきたんだい?」

「わたくしの商品を売りたいからですわ」


ふんす!と胸を張って主張する娘に、父の眼が点になる。


「商品」

「工房から報告は行ってませんでしたか…ええと、クリスタさんとレノさんに、

一財産築けると言われまして、信頼出来て有能な商人さん達も紹介して頂きましたの」


「ふむ、商品の説明は彼らから聞くとしよう」

「まだ量産体制も整っていませんし、貴族向けと庶民向けの商品を作るので、

両方仕上がりましたら、改めてお父様にお願いに参ります」


にこにことしながら言う末恐ろしい5歳児である。



「本当は、したくない話なんだけど、今してしまおうか…」


優しい目で見つめていたジェラルドの瞳が悲しげに翳る。


「実は、君が聖女としてルクスリア神聖国に招聘される事になった」


聖女?初耳なんだけど?

それはヒロインのお仕事では??


頭がハテナで一杯になり、マリアローゼは首をこてんと傾げた。


「でも、わたくし聖女じゃございませんのに?」


「椅子に座ろうか。少し説明するよ」


机から顔を出すように立っていたマリアローゼを抱き上げて、ジェラルドは長椅子に座った。

マリアローゼを膝に乗せてから、肩口に顔を埋めたまま、ジェラルドが呟く。


「リリィを」

「承りました」


ランバートが出て行き、暫くするとミルリーリウムが部屋に入ってくる。

ミルリーリウムはジェラルドの隣に座り、寄り添うように、マリアローゼとジェラルドを抱きしめた。


「まずはノクスとルーナの話をしよう。

彼らを癒した事が、直接「聖女」だと判断された理由だ。

ノクスとルーナを傷つけた連中の一人が、貧民街の神父だったんだよ。

彼らは身寄りのない子供を、養子に出す傍ら、奴隷としても売っていたんだ。

それを暴こうとした二人を、殺そうとした。

瀕死にしたのに、死ななかった。

それで、神父は我々に捕まる前に、君を聖女として推薦したんだ。

もし聖女として君が認められれば、罪が免除される上に、地位も上がる。

君は聖女として認められてしまうと、神聖国から出られなくなる」


「分かりました」


マリアローゼはこくりと頷いた。

何が分かったのだろう?とジェラルドが顔をあげてマリアローゼを見詰めた。

マリアローゼは強い意志の宿った目で父を見つめ返す。


本当に何を勝手な事を言ってやがるのか。

聖女じゃないし。

それに人を殺したり、犯罪に手を染めた奴が無罪放免だと??

それは絶対に許されてはいけない。


「叩き潰してみせますわ」


キッと眉を寄せて、力強く言う娘に、ジェラルドは悲しみよりも驚きが勝ってしまい…

掌を顔にあてて、笑い出した。


「さすが、私とリリィの娘だ」

「わたくしも一緒に神聖国に参りますわ」


決意を聞いたミルリーリウムもふんす!と胸を張って言う。


「えっ。でも君にも予定が…」

「予定は未定というではありませんの。ローゼの方が絶対的に優先なのですわ。

それに聖女でも聖女じゃなくても、わたくしはローゼを手放しません」


「そうか、そうだな。参ったな、ひよっていたのは私だけじゃないか」


泣き笑いのような表情を見せて、父が母ごとマリアローゼを抱きしめる。


「王妃から、マグノリア・フィデーリス聖堂騎士の同道を許可されている。

直下の部下5名と公爵家の護衛騎士3名、王城からもアケル・フォルティス第一騎士団長と部下3名が同行する。ノクスとルーナも連れていくように神聖国側から要請があったので、彼らも一緒に行く。

それからカンナにも同行してもらおう」


「承知致しました」


「それから不測の事態を加味して、別途冒険者も雇う事にしよう。

神聖国から迎えの護衛も来るし、あまり大所帯では行けないのが通例だからね」


「十分ですわ。安心致しましてよ」


「わたくし、絶対にお母様と戻って参りますから、お父様も無理はなさらないで」


ミルリーリウムは十分だと太鼓判を押しながら力強く微笑み、マリアローゼは心配までしてくれる。

自分が思うよりも強い意志を宿した愛しい女性達に、ジェラルドは心を新たにして二人をぎゅっと抱きしめた。


「ありがとう。ローゼ、リリィ、愛しているよ」

読んでくださり、ありがとうございます。

楽しんで頂けたら嬉しいです。

ブクマ・いいねもとても嬉しいです。

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