チョコレートと王子達
マリアローゼはとてとてと急いで席に戻り、椅子に座ると、目の前に用意された菓子を見詰めた。
まだトマトのないこの世界に、チョコレートは存在する。
王妃が言った珍しい菓子というのは、チョコレートではないのは確かだ。
だが、見た目や味を考慮しても、簡単に作れるものではない。
チョコレート大好きな転生者が、血眼で捜したのだろうか。
口に入れると、甘く溶け出して、マリアローゼは幸せそうに両頬に手を置いた。
「気に入ったようですね。よかったこと」
「ええ、とても美味ですわ」
蜂蜜の香りに混ざって、柑橘系の良い香りがするので、甘いのにくどくない仕上がりだ。
やはり無香料の甘味料が欲しいところである。
「こちらの原料はどちらから仕入れておりますの?アルハサドでしょうか?それともグーラで…」
「そうですわ。大半はアルハサドから、グーラからも輸入しておりますわね。
フィロソフィ公爵家の領地でも栽培はしていたはずよ」
「まあ……」
スラスラと答える王妃はやはり優秀だし、常に勉強や情報収集を欠かしていないのだろう。
王妃は王妃で目を細めて、マリアローゼに優しい眼差しを向ける。
「良く勉強しているのですね」
「いえ、まだ足りませんの。原料となる植物が南方で育つと知っていただけでございます…」
「その歳でその事を知っていて、輸入先も見当がつくのでしたら十分よ」
マリアローゼは、それ以上否定する事は出来ずに、ニッコリ微笑んでから、他の菓子に手を伸ばした。
公爵家の領地でも、カカオを育てているとは知らなかったが、育てたのは十中八九ジェレイドだ。
だとしたら、このチョコレートの件も彼が関わっていてもおかしくはない。
もしかしたら、予想以上に彼の個人資産は莫大なのではないだろうか。
そしてやはり、転生者なのだろう。
長谷部という転生者と付き合いがあったとはいえ、言動にそれらしい兆候が多く見えることもその理由だ。
一度ゆっくりと話してみる必要がありそうだ、とマリアローゼは美味しい菓子に頬を膨らませつつ思った。
考え事をしつつも、すっかり菓子を食べるのに夢中になっていたマリアローゼはハッと手を止めた。
ミルリーリウムとカメリアの会話の隙を窺いつつ、マリアローゼは質問する。
「あの、今日殿下達はどうされていますのでしょうか?わたくし、ロランド殿下にお返ししたい物がございまして…
出来ればアルベルト殿下にも改めて御礼を申し上げたいのですが…」
「まあ……では此処に呼んでも良いかしら?二人とも平素と同じ予定で動いているけれど、
今頃落ち着かない気持ちで過ごしている筈だもの」
カメリアとミルリーリウムは意味深な目配せをして、くすくすと笑い合う。
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※下記のひよこのPixivから飛ぶと、自作のAIイラスト(未熟)で作ったキャライメージイラストがありますので、宜しければご覧になって下さいませ。