毒の対処はモザイク入りで
「どうぞ」
ノックをしたのはシルヴァインだろう、と予想しながらマリアローゼは応えた。
果たして、シルヴァインが颯爽と部屋に入ってくる。
「無事だな?ローゼ」
確認するようにじっと見て、シルヴァインはほっとしたように微笑を浮かべた。
マリアローゼはそんな兄を見上げながら質問を投げかける。
誰より先に駆けつけそうな人物が、不在だったのだ。
「どこに行ってらしたのですか?」
「知り合いに毒の鑑定と解毒薬の精製を頼んできた」
行動が早い。
確かに毒は持ち込まれているので、解毒薬はあるに越した事はない。
即効性があり、致死性も高そうな毒ではあるが、
リトリーは事前に知っていたから光魔法で毒に対抗できたのだろう。
「で、ローゼは何故大丈夫なのか聞かせてくれ」
「それは事前に、中和する薬を飲んでいたからですわ」
それらしい言い訳をして、澄ました顔でシルヴァインを見るが、笑顔なのに笑っていない。
「俺は本当の事を話しているのに、君は嘘をつくのかい?」
「そ、そんな卑怯な仰い方は、おやめになって」
うう、とマリアローゼは手元にいるロサに目を落とす。
やはり兄からの追及は厳しい。
「……ロサですわ。ロサを口に忍ばせて行きましたの」
「スライムをか」
「ですわ」
完全予想外の答えに、シルヴァインは笑顔のまま固まった。
「乙女のする事ではありませんので、内緒にしたかったのに……」
ぶつぶつ言いながら口を尖らせるマリアローゼに、シルヴァインは声をあげて大声で笑い出した。
天井を仰いで、目には手を当てて。
「ほらね。笑うと思いましたわ」
つん、と唇を尖らせたままマリアローゼはそっぽを向く。
笑いながら、シルヴァインはマリアローゼを見下ろした。
「ロサは平気なのかい?」
「大丈夫ですわ。マリクに毒薬をもらって耐性もつきましたし、その後は色んな薬草を食べさせたので。
それに中和薬を飲んだのは本当ですわ」
もちろん同じ薬をロサにも与えてあった。
全ての毒に有効と言う訳ではないが、少なくとも少しは耐性があがる代物だ。
「分かった。父上には俺から話をしておこう。…で、父上は?」
一瞬、乙女の恥を父上のお耳にまで入れないで、と思ったものの、矢張り父にも娘の無事の理由を知る権利はあるし、隠し立ては出来ない。
ほんの少し乙女の矜持が削られるだけだ。
マリアローゼは抗議を諦めて、質問に答えた。
「わたくしのお願い事を叶えて下さる為に、陛下に会いに行きました。
許可が出たらリトリー様と話しに行って参ります」
リトリーの名を聞いて、シルヴァインは目を細めて笑顔を消した。
底冷えのするような冷たい声で紡がれる言葉には棘しかない。
「毒殺女に何の用があるんだ?」
「色々とございますけれど、成功するかどうかはわたくしにも分かりませんの」
ふむ、と兄は顎に手を当てて考え込む。
「何となく予想はついた。牢には俺も付いて行こう。勿論彼女の目に入らないところで待つ」
「それならば構いませんわ」
詳しい事情はまだ話したくないので、兄の言葉にマリアローゼはほっとした。
まずはリトリーとの交渉を成功させないとならない。
交渉、というか一方的に条件を飲ませるのは脅迫かもしれないが。
今頃父とモルガナ公爵が行っている事と同じだ。
こちらは断られても失うものは何も無い。
ただ、少しばかり良心が痛むだけだ。
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※下記のひよこのPixivから飛ぶと、自作のAIイラスト(未熟)で作ったキャライメージイラストがありますので、宜しければご覧になって下さいませ。