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最終話 俺達の戦いは、これからだ!

 狂気と狂喜に()ちた目。フロッグが、そういう目でホーネッツを見ている。そのフロッグの顔を目掛(めが)けて蜂が飛び、爆発した。


()かねぇよ、知ってるだろ?」


 フロッグの周囲を、彼の口から飛び出した赤いスライムが瞬時に(かこ)んでいた。バリアのようなもので、重火器の攻撃をも防ぐ。ホーネッツに取って相性が悪い男だった。そのフロッグの前から、(すで)にホーネッツは離脱(りだつ)している。


 蜂でできたベッドの上に、ホーネッツが仰向(あおむ)けのような態勢で寝ている。背面飛行をしている機械蜂の集団が、上にホーネッツを()せて飛行していた。高度は五ヤード(ほど)で、ちょっとした自動車くらいの速度で彼はフロッグから遠ざかっていく。


「逃がさねぇって言ってるんだよ!」


 フロッグの周囲に居たスライムが形状を変える。板のような形で地面へ広がって、その上にフロッグが乗る。その板が走り出した。板の下は車輪になっているようで、板の上で椅子の形になったスライムにフロッグは腰かける。簡易のゴーカートだ。ハンドルもアクセルもブレーキも無いが、フロッグは操縦できるのだろう。


「これだから非常識な奴は!」


 高速で追いかけてくるフロッグを見下ろしながらホーネッツが(どく)づく。今は蜂の数が()りないので、とにかく一旦(いったん)、フロッグからは逃げるしかない。反撃は蜂の数を増やしてからだ。しかし速度は、ホーネッツを持ち上げて飛んでいる蜂よりも、フロッグのゴーカートの方が上回っているようだった。距離が(ちぢ)まってきている。


 フロッグの攻撃手段をホーネッツは知っていた。スライムが触手(しょくしゅ)を伸ばしてくるのだ。(かえる)が舌を伸ばしてくるのに似ていて、捕まったらどうなるかは想像もしたくない。そして悪い事に、今やホーネッツは触手攻撃の射程(しゃてい)範囲内(はんいない)に居るようだった。


「……あん?」


 フロッグが上空(じょうくう)を見上げる、ホーネッツが飛んでいるよりも高い空の位置を。遅れてホーネッツも見上げると、そこには黒い翼を持った上半身が半裸(はんら)の男が居た。つまりは飛んでいるのだ。


(ぬえ)……」


 ホーネッツが、そう(つぶや)く。日本の妖怪の名称らしいが、そこまで彼は知らない。知っているのは、そう呼ばれている正体不明の殺し屋が居るという事だけだ。キメラというのか、合成生物のような外見だそうで、そしてアメリカ国内で最強の殺し屋。そういう存在なら、きっと翼で空も飛ぶのだろうとホーネッツは思った。


 鵺との距離は百ヤード程度か。「邪魔するな!」とフロッグが、スライムのゴーカートから大砲のような弾を()つ。赤いスライムの砲弾で、そんな攻撃手段を知らなかったホーネッツは戦慄(せんりつ)した。


 その砲弾は、鵺の前で瞬時に焼かれて消えた。何が起きた? ホーネッツの目には、鵺がかざした手から稲妻(いなずま)が走ったように見えた。もし鵺が雷を操るのなら、電子回路で動く蜂はコントロールを失うかも知れない。


 ホーネッツに取って幸運な事に、鵺はフロッグを攻撃対象に決めたようだ。上空からスライム車を目掛(めが)けて滑空(かっくう)してくる。フロッグのスライムも、その場に停止した。「来いよ、コウモリ野郎!」とフロッグが上空を(にら)みつける。


 そんな二人には、もう目もくれずにホーネッツは蜂に()って逃走した。これは戦術的撤退(てったい)だ。今は、とにかく逃げて逃げて、距離を取らなくてはならない。この二人が相討(あいう)ちになれば万々(ばんばん)(ざい)だが、幸運にばかり期待する訳にも行かないだろう。


 もうホーネッツに迷いは無い。アメリカ全土の『蜂の巣』から、可能な限り多くの蜂を呼び寄せる。スライムを操るデブも、雷を操る合成人間も確かに強敵だ。だが生きていて実体がある。つまり生物である限り、必ず殺せる。そうホーネッツは信じている。


 俺が()()()の蜂を呼び寄せれば、その攻撃に耐えられる者など存在しない。それだけの蜂を用意するには数日、掛かるだろう。それまでは逃げて、逃げて、逃げるのだ。そして蜂が(そろ)った時には……俺だけが生き延びる。


 史上最高額の賞金。何と素晴らしい響きだろう! その金を得るためにも、俺は逃げ延び、殺し()くし、そして生き抜く。アメリカでベストの殺し屋という称号が待っている。そう呼ばれる瞬間を想像して、ホーネッツの(たましい)は震えた。




 こうしてアメリカを震撼(しんかん)させる、殺し屋達の死亡賭博は始まった。生き残りと、金と名誉を掛けた争い。その決着がどうなるかは、まだ誰も知らない。

完結です。

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