陽だまりの国
蛇足ながら、その後の国のことなど
その後、新国王の戴冠の儀を祝福した聖女アミナ・ラ・ラーナは、建国から連綿と受け継がれてきた聖女の力が地上から失われたことを告白し、聖女の賜るべき褒賞を断って表舞台から姿を消した。
狼騎士と称されたルーディウス・カスティラは、王宮を辞してこれに付き添い、ラ・ラーナ公爵領の湖の辺りで二人暮らしたという。
この新王家初代国王の治世の特筆すべきこととして、歴史の再発見がある。
由緒正しき王宮の広間にて崩落事故があり、古の天井画が現れた。新国王は周辺国から学者を招聘し、建国の逸話に隠された、失われた歴史を明らかにすることを宣言した。これを機に、各地に遺されていた遺構や遺物が掘り起こされ、精霊多き土地としての忘れられていた姿が徐々に浮き彫りにされていく。王位を辞退したケルヴィン王子は、希望して一学徒としてこの研究に加わり、歴史の真実と、聖女の祈りの真実を生涯追い求め、精霊の存在の証明を目指した。
やがて、かつての精霊との共存、土地の力に注目が集まるようになると、王宮の祈りの鉱石が開放され、大貴族からこぞって鉱石に祈りを捧げた。貴族の間ではこれが暗黙のうちに義務となり、日々祈りの鉱石の前に列を作った。この政策には、ケルヴィン王子による研究の成果と、アミナ・ラ・ラーナ改めアミナ・カスティラが明かした聖女に語り伝えられる伝承が裏付けになったと言われる。三年祈り続けて、各地で落ち込んでいた農作物の収穫量が回復し、十年祈り続けて、国の各所に現れるようになった異形の動物が再び減った。
これが本当に祈りによる効果かどうかは、長く議論が続いたが、その祈りを一人で引き受け続けてきた聖女の貢献を見直すべきだと言う意見が強くなり、アミナ・カスティラが国王の嘆願を受けて叙爵された事実は、当時の人々が祈りをどう受け止めたかを推測する指標となるだろう。この時、アミナ・カスティラは二児の母であった。
祈りの鉱石はの開放は、徐々にその範囲を広げ、国民であれば誰でも祈ることができるようになっていく。
新国王の即位十五年目、聖女の祈りを体感して、聖女に心酔したと主張する軍崩れの男たちが、聖女を引っ張り出し、強国施策への転換を要求する人質とするために、オイケアナ伯爵領の邸を急襲した。これは、ラ・ラーナ公爵領からカスティラ伯爵家が譲渡された領地であり、かつてのラ・ラーナ領内の湖の周辺にあった。これをオイケア伯爵配の騎士ルーディウス・カスティラとその息子が、力づくで下したと言われているが、真偽は定かではない。
だが、前国王の退位に結びついた戦場その他における活躍を惜しまれ、何度も王宮への出仕を求められ、幾度かは応じていたルーディウス・カスティラが、この頃から完全に出仕を断り、妻の元に留まったことが、状況証拠の一つに数えられることが多い。
その数年後、アミナ・カスティラとその夫は、爵位を子に譲り、国内各地の礎石跡を巡り始め、十二の礎石が機能を回復あるいは維持していることを発見。これが、ケルヴィン王子の研究を引き継いだ後世の研究者による、祈りの鉱石と組み合わせた循環の仕組み、〈祝福の輪〉構築の足場となる。
この国が、その完全なる循環の恵みによって、祝福の国、陽だまりの国と呼ばれるようになるのは、さらにもう少し後のこと。
今も国民の愛読書である「金の狼」の作者として知られるケルヴィン王子には、優秀な兄王子がいたが、崩落事故の折に行方知れずとなり、長く惜しまれたと語り継がれる。その遺骸はついに発見されることはないまま、前国王がひっそりと死すとともに、崩落した広間は、崩れたそのままに前王家の遺産として保護されることが決まり、今も、不可侵の領域となっている。
これで、手持ちのお話は全て出し切りました。
本当に、ありがとうございました!
星評価いただけると、執筆の意欲が湧きます。どうぞ
よろしくお願いします。




