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【完結】孤独な狼は愛を返す:たとえ惨めに打ち捨てられても、貴方のために祈ります  作者: 日室千種
狼は陽だまりに微睡む

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狼は陽だまりに微睡む4

番外編四話目(最終)

 逃げ道を、塞がれた。

 初めて。


「あ……」


 けれど、アミナがきゅっと膝を寄せると、ルーディウスは手を膝の横に下げて、言ったのだ。


「もし、少しでも怖いなら、やめよう。ゆっくりでいいんだ」


 全然よくない顔をして。

 笑いながら泣いているような、そんな。


「あ、洗ってほしい」


 ルーディウスに、それ以上何も言わせないように、アミナは自分で寝衣の裾を少し持ち上げて、白い足を差し出した。


 室内に、水音が響く。

 湯はぬるい。ルーディウスの手は、熱い。

 足を一周してしまいそうな手のひらが、つま先、踵からふくらはぎまで、優しく撫でて、時に強く揉みほぐされる。

 気持ちいい。

 足に施されているだけなのに、全身がぽかぽかと温まった。


「アミナ、俺が怖い時は、言ってくれ。……俺は、あなたに焦がれている。多分、あなたの想像を超えて」


 水音とともに染み入って来るルーディウスの声も、心地いい。


「どんなふうに? わからないから、聞かせてほしい」

「……あなたの足は、俺が洗いたい」

「ふふ、洗ってくれてるわ」

「朝も、昼も夜も、顔が見たい」

「私も、見たい」

「あなたが笑いかけるのは、俺だけがいい」


 アミナは少し驚いて、それから、くすぐったい気持ちで笑った。


「そうする」


 今度は、ルーディウスが驚いたようだった。信じがたいという顔を見て、ついつい、笑いが止まらなくなる。

 片足はもう水気を拭われた。

 もう片足は、まだルーディウスの手の中だ。その足が揺れるほどに笑ったので、水がぱちゃぱちゃと跳ねた。


「ふ、ふふふ、他には? ルード様が私に何か求めてくれるのは、嬉しい。もっと言って」

「……ずっと、隣にいて欲しい」

「うん、いたい」

「傷つかないで欲しい。兵士たちがいかにあなたに感謝をしても、俺はあなたが祈りで損なわれるのは、嫌だ」

「うん、よくわかった。もうルード様の許可なしには、祈らない」


 ルードがアミナの足を桶から出して、自分の腿の上に置いた。優しく布で包まれる。足首、足の裏、足の指も。


「……アミナ、俺は、独りよがりにあなたに婚約破棄を突きつけた。そんな俺が、望んではいけないことだが。アミナ、あなたがあの時俺の手の中から去って、俺は、暗闇に落とされた。あなたを失うのが、俺の前に戻ってきてくれた今だって、怖い。

 ――だから俺は、ずっと考えてしまう。あなたを閉じ込めて、風すらあなたに触れられないように、決してあなたが逃げられないように、俺だけのものに」


 アミナの両足をそっと寝台に上げて、膝下に掛け布をかけてくれた手つきには、そんな激しさは何も感じられないのに。


「俺は、どうやら果てしなく臆病なんだ。それをあなたに知られてどう思われるかも怖くて、この頃は気持ちを抑えるのに必死になっていた。意気地がないと、思うだろう?」

「ルード様」


 するりと逃げ去ろうとする大きな手を、両手で捕まえた。

 その気になれば簡単にアミナを避けられるはずの手は、どちらの手も、おとなしく指を掴まれてくれた。

 掴んだ両手をアミナが引くと、ほんのわずかな抵抗の後、立ち上がって寝台に乗り掛かる。

 その素直さに、愛しさが増した。


「怖いのは、私も一緒です。だから大丈夫。ルード様が不安なら、私を閉じ込めて。今からでもいい。もっと言って、何でも」


 アミナを見つめる青い目に、水底の炎のように、揺れるものが浮かんで来るのを、目を逸らさずに見つめた。

 その目に、私以外は閉じ込めないで欲しい。そんな、焼けつくような強い気持ちが溢れて来る。


 この人は、私のもの。


「――その代わり、置いていかないで。私はルード様に置いていかれたら、きっと弱って死んじゃうから。ルード様も、そうでしょ? だから、一緒にいて。何あろうとも」


 私は、あなたのもの。


「もし捨てる時は……私を捨てる時は」

「捨てない。アミナ、俺はあなたを手放さない。髪一筋、眼差しひとつ、その、吐息すら」


 青い目が、もはや青い炎のようだ。

 けれどまだ、ルーディウスは探っている。アミナの怯えを。アミナがいつか逃げ去ることを、警戒している。アミナが、彼の元を一度去ったから。傷ついた心は、アミナを信じきれていないのだ。

 その気持ちが、鏡合わせのようにアミナの中にもある。

 抱いた傷が深いだけ、信じることが、怖い。

 失った時の絶望を思うと、信じることが、怖い。


 それほどに大切な人と二人でいるのに。

 怖がってばかりなんて――。

 アミナは両手に握った指をさらに引いて、寝台に置いた。


「ルード様、怖がらないで。何があっても、私、また縋るから。しがみついて絶対に離れないから。大丈夫。覚悟して……」


 青い炎が、滴るように上から近づいて、アミナは目を瞑った。隠れた琥珀の目にも、同じ熱が揺らめいているはずだ。

 二人の怯えが無くなるまで、いく日か、いく年か。

 それまでずっと、お互いに閉じ込め合っていたらいい。


 もうこの国から、聖女はいなくなったのだ。


二人のその後、というか直後でした。

甘々な空気に押されて、ほとんど勢いで書いたものです。見直しはまた後日!


オルヴェルトのその後も気になると言っていただけて、嬉しいです…!好きな人物なので、いつか、もう少し自信をもって送り出せる頃に、書けるといいな…。


ここまでありがとうございました!


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