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【完結】孤独な狼は愛を返す:たとえ惨めに打ち捨てられても、貴方のために祈ります  作者: 日室千種
 

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まっすぐな心

 このオルヴェルト王子の無体には、アミナよりも侍女たちが強い拒否感を示し、結束して、アミナを王子たちに近寄らせないよう徹底したようだった。

 そのため、次の邂逅までは間が空いた。


 祖母にも、事情は知らされたらしかった。


「アミナはどうしたいか、自分でわかる?」


 日差しから熱が失われ、影が長く長く伸びるようになってきた頃。

 サンルームですこしうとうととしていた祖母に、獣毛を紡いだ糸を織った膝掛けをかけたとき、ぽつりとそう問われた。


「もう、王宮に来たくなくなったかしら?」

「そんなことないわ」


 アミナにしては、素早く返事が出た。


「殿下はちょっと、ご機嫌が悪かったのじゃないかしら。どうしてあんなことをされたのか、わからないのは嫌だけれど、でも王宮には来るわ。お祖母さまにも、皆にも会いたいもの」


 素直な気持ちを吐き出したのに、祖母は目尻を下げて、たまらない、というように吹き出した。


「アミナはいい子に育ったわね。無闇に人を恐れないし歪めない、まっすぐな心、私はとても好きよ」


 どうやら、オルヴェルト王子を捕まえて機嫌が悪いのだろう、で済ませる人間は、王宮には珍しいらしい。そういえば侍女たちに同じ推測をぶつけてみた時も、皆がぽかんと、毒気の抜けた表情をしていた。

 ただ、それも一瞬のこと。皆がええ、ええ、と頷いて、アミナ様が傷ついてらしたらと心配しましたけれど、ご機嫌の悪い殿方の振る舞いなど、忘れてしまうのがよいですわね、とほんわかと微笑んだ。そのわりに、今だに凄まじい緊張感で日々の王子たちの行動を確認していると、薄々察してはいる。


 アミナが王宮に来ることで、皆には負担をかけているかもしれない。

 けれど、眠ってばかりで、起きている時間がとても短くなってきた祖母の顔を、できるならば毎日見に来たいのだ。


「ごめんなさいね。私のわがままで」

「お祖母さまの、わがまま?」


 アミナは首を傾げた。


「先代の国王陛下とは、とても仲良くさせていただいたから、今の陛下は、まるで息子みたいに親しくしていて。だから、わがままをきいていただいたのよ。祈りの間の鉱石と、各地の礎石。それがどうしても気になったから、王宮に住まわせていちょうだいって」


 祖母が研究と言っていいほどに聖女の歴史や鉱石、礎石について調べていることは、アミナも聞き知っている。けれど、それが謝るようなわがままだとは思えなかったのだが。


「私は、陛下にはもっと違うわがままを言うべきだったわ……こんなに、耳触りの良いことだけを聞く人ではなかった……のに、気がつかなくて。言い訳かしら……」

「お祖母さま?」


 また、夢現つになっているようだった。少し苦しそうに、大きな息を吐くのに、胸が痛む。


「お祖母さま、もう何も心配しないで」

「アミナ。次の聖女。……王家に兄弟がいる……こんな試される時に、聖女なんて」

「兄弟?」


 祖母が眠ってしまいそうなのを察したのだろう、離れていた侍女たちが静かにやって来て、唇の前に指を立てて、控えめに会話を打ち切るように示す。

 確かに、あまり無理に話しかけては、休めない。

 アミナは祖母の手をそっと持ち上げて、暖かな膝掛けの下にそっと入れた。


「お祖母さま、大丈夫よ。ゆっくり休んでね」


 聖女の祈りは、老いには効かない。そう知っていながら、心の底から、祈った。





 アミナがオルヴェルト王子と睨み合うように対峙することになったのは、このひと月後。灰色の重たい雲が空を覆って、地表の生き物たちが皆、そっと息を潜めている頃。


「視界に入るな。目障りだ」

「なるべくそうしています」


 その日は祖母の具合が悪く、喉に絡んだ痰が息の道を塞いで、頻繁に咳き込み苦しんでいた。宮廷医師の診察を受けたのだが、話をいくら聞いても安心できないのが辛くて、アミナは何か手がかりはないかと、医師を見送りつつ、国外での治療方法などについて思いつく限りの質問をした。その帰りだった。


 医師の常駐する建物は、王子たちの宮殿の向こうにある。道のりの途中は、どうしても共有の通路を使うことになる。普段であれば、慎重に迂回をしたかもしれない。

 けれど今日は一刻も早く戻りたかったので、侍女たちの心配も押し切った。

 医師を送って行く時は人の気配がなかった宮殿に、帰りはざわざわと気配が動いていると、気がついてはいたのだが。


 王子たちはこの時間はいつも学修だと聞いているから、と言い訳をして、アミナはほぼ走るようにして、通り抜けようとしていたのに。

 脇目も振らず歩くアミナの前に立ち塞がったのは、オルヴェルト王子だ。見つけてわざわざやって来たのだろう。周囲には誰もおらず、またも一人だった。

 一瞬見ないふりをしてくれれば、それで全ては収まるのに。

 そんな気持ちが表情にも出て、アミナは不服げに言い返したのだ。


「なるべく、というのは都合がいい言葉だな」


 きつい言い方ながら、かんがえてみれば確かにそうだな、とアミナが噛み砕いている間に、背後の侍女たちの方が衝撃を受けたらしい。まだ背の伸び切らないアミナの肩を二、三人で思わずというように抱いて庇おうとした。けれど前に出るわけにもいかず、気の毒なほどに青褪めた手で、アミナの肩や背を撫でた。



全体を見直して、あまりに説明が乏しかった前半に、説明を追加しました。

エピソードも話の流れも変更はありません

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