これもまた1つのボードゲーム
「これより!学年別対抗戦を開始する!今回は1年と2年の対抗戦である」
まっさらな黒い軍服に身を包んだ着慣れていない少年たち。1年すぎて既に経験したと慣れている少年。そして厳しい顔を見せている教官たちである。
「喜びたまえ、諸君たちが本校に入学する前にも経験したゲームを楽しんでもらうだけだ。だが、忘れるな。この駒は兵士の命を示す。むろん、必要に応じて部隊を切り捨てる覚悟が必要だろう。しかし、捨てる命は大事に捨てる必要がある。諸君たちは本校を卒業したならば、ある者は士官学校に進み、士官候補生となる。ある者は技術将校課程を履修するために技術研究本部直属の技術士官教育隊に入隊していく。とはいえ、最低限度の軍事的知識を持っていないとならない。よって基本となる知識をここ、幼年学校で得てもらう」
そういうとディスプレイが変わる。
「今回は第1回目として次のルールを選択する。
1:1年生が防衛側、2年生が攻撃側とする。
2:防御側勝利条件は20ターンの拠点防衛か敵の3割を戦闘不能にすること。攻撃側勝利条件は敵防御拠点の制圧、または敵戦力の5割撃破。
3:敵の初期配置などは見えないものとして、毎ターンの行動結果によって発見されたか、出来たか判定する。
4:なお使用するユニットは今回は歩兵、戦車、車両牽引式榴弾砲とする。防御側の一年はこれに追加して対戦車砲陣地を置ける。陣地は設置した場合、移動不可能な固定砲台として機能する
5:そして、双方、セッション中、1度だけ列車砲による間接砲撃支援を要請できるものとする。列車砲は調整、装填に時間が掛かり、発射後、着弾するのは1ターン後とする。ここまではいいか?」
子どもたちにそう説明する教官たちは全員に地図を配布していった。
「地図の内容は見ればわかると思うが、海に囲まれた拠点だ。侵攻ルートは山に囲まれており、防御しやすそうに見えるが、山のせいで陸軍主体での侵攻路は数少ない。逆に侵攻も見つかりにくいという状況だ。本来なら航空機や対戦車ヘリ、海からは艦砲射撃が想定される場所。実際、この基地は現実にはわが軍の空挺部隊とその輸送機、随伴戦闘機、対戦車ヘリの拠点であり、首都防衛航空団の拠点の1つだ。実際の地図で実際の兵士を運用できるか、訓練という名の遊びだ。難しく考える必要はない。演習に慣れるためのリクリエーションと思え」
そう、軍事的要所を制限されたルールの下で如何に守り、如何に攻め落とすかというシミュレーションゲーム、それがこれだった。
生徒たちはランダムに選ばれた対戦相手を相手に手を考える。ある者は歩兵を山に登らせて陣地などの場所を確認して榴弾砲で間接砲撃をもって侵攻を食い止めたかと思えば列車砲で山ごと吹き飛ばすという荒業で観測兵を無力化していく者もいる。逆にワザと山を通らせて、侵攻ルートを確認してから列車砲と榴弾砲の雨で進撃を食い止める物もいれば、対戦車砲陣地を基地の傍に作り、対戦車砲陣地と戦車と榴弾砲で時間稼ぎという無謀な戦いをする者もいる。
いずれも創意工夫、まだ入学したてということもある新人には時間を稼ぐことを選ぶものもいれば、逆に敵を撃滅することで勝利を得ようとする者たちがいた。
その行動判定は生徒のふるダイスと判定役の教官の振るダイスで決まっていく。
列車砲が戦車の真上に着弾するのも、榴弾砲の砲弾が命中しないのも、古めかしい対戦車砲が見事に隠され、敵の戦車が何も知らずに近寄り痛打を食らうのも、すべてはダイスの結果だった。
ダイスの目に一喜一憂する少年たちは遊んでいるように見えるだろう。だが、教官たちは真剣な眼差しで、彼らを見ていた。
すべての試合が終了すれば教官は重い口を開く。
「諸君たちは今、人を殺した。ゲームの駒という形だが、君たちの命令1つで敵を倒し、味方が死ぬ。それがこのゲーム、図上演習という物だ。地図の上だから関係はない?それは違う。地図の上でも想定できる頃はいくらでもある。さらにランクが上がれば陸海空すべてに加え、輸送の概念も加わる。効率的な兵員と兵器の運搬、使用する弾薬と燃料に食料医薬品。それらをすべて対処できるようにするのが最終的な君たちの役目だ。君たちがその制服を脱ぐその日まで、毎日研鑽し、考え、決断する。将来的には君たちの父親みたいな年齢の部下を指揮するだろう。経験豊かな下士官に任せる所は任せ、現場で教えを請い、そして指揮官らしく、ふるまい導く。戦争は避けねばならないが、避けられないなら被害を抑えることと、目的を果たすことを忘れないように。今日の授業はここまでだ」
教官の締めの挨拶に起立し、一礼する。今はまだ実感はないだろう。それでも、最悪を想定し、そういう不幸なこと、戦争を避けるために、ここ、国軍参謀本部直属の幼年学校では志願し、選抜された優秀な学生が日々、訓練と勉学に勤しんでいる。遊びにしか見えない図上演習もまた、その1つだったりする、
はい、ひねくれた私はミリタリーな作品ということで図上演習を取り上げてみました。
図上演習というと古臭いとか思われるでしょうが、今でも日米合同訓練での部隊展開模擬訓練とかで指揮命令系統の確認ということでパソコンとかを駆使してやっているようです。
基本はウォーゲーム全盛期のシミュレーションボードゲームみたいですね。
家庭用だと、ゲーム機ではファミコンウォーズに始まり、大戦略系のリアル派などが有名ですし、今でもボードゲームの名作としてバトルテックなどもあるようです。
ただ、ボードゲームというジャンルは専門誌のトレーディングカードゲーム推しに負けて今は下火みたいですが、アナログゲームというジャンルでみると、まだまだ、評価が高いジャンルです。
特に本場アメリカなどでは下手なテレビゲームよりも人気の作品があるみたいです。
私も何度かセッションに参加しましたが、このコロナの影響で運営しているチームが開催できないと嘆いていました。