第6話 スザ、大地に立つ③
パチリとスザの目が開いた。
「おー、お目覚めだね。使い方はわか・・・」
起き上がったスザは、そばについてくれていたイズを抱きしめていた。
「ありがとう、いつも見守っていてくれて。この恩は一生をかけて返しきるよ」
「な・な・な・・・」
イズの顔はゆでだこのようだ。
「こ、このスケコマシ!」
イズはスザを引きはがし、脳天に拳骨をぶち込んでいた。
頭を抱えて涙目のスザに、
「あ、あんた、ちゃんと使い方を理解したんでしょうね!」
涙目のままスザは首を横に振る。立ち上がって拳骨を構えるイズに、手でけん制しながら、
「そんな説明映像なんて見せてくれてないよ!ずっとこの塔の最上階の映像だけだったよ!本を渡してくれる映像だけだよ!」
「へ?」
イズは一時停止した。なぜ・・なぜ・・・だから、あんなスケコマシの言葉を吐いたの?なんで意図しないデータがロードされたの?え?え?またイズは意味不明な言葉を吐いて首を何回もひねっている。
「ん・・・まあ、いいわ」
コホンと一つ咳払いをし、両手を腰に当て、大きくないが大きく胸をそらす。仁王立ちだ。
「このイズが、基本的なことを教えてあげるわ!とりあえず、もう一度“ブック”!」
はいはいとつぶやきながら立ち上がり、スザは胸の前に本を召喚した。
「はい1枚目。あんたの基本情報が載ってるわ」
凝った意匠の表紙をめくる。
名前:スザ 種族:人 性別:男 年齢:15歳
「ん?なんか見たことも聞いたこともないことが書いてある」
「読み上げて」
「えっと・・等級:1 補正:0 力:2 生命力:3 気力:5 魔力:1 知能:5 体力:2 技巧:3 均整:5 機敏:5 徳:1 運:10」
本から目を上げてイズを見ると、肩をがっくりと落としていた。
「運だけのゴミね、ゴミ。助けに行くどころじゃないわ。出た途端に死ぬ」
聞かなかったことにしよう。
「でも等級を上げていけば・・・補正の高い職業を設定して・・・」
イズは一人の世界に入っている。どうすればいいのか・・・と思っていると、イズと目が合った。
「その下と右には何か書いてない?」
「えっと・・・右には何も書いてなくて、下には配下:0/10 配下による補正:0って書いてある」
「よしよし・・・じゃあ、手っ取り早く等級を上げて誰かを配下にしちまおう」
ニヤリと笑うイズは、なんかの悪だくみを楽しそうに準備している感じの表情をしている。なんか怖い。
「なに腰が引けてんのよ。そうそう、今言った等級からすべて、誰にも話してはダメよ」
「・・・なんで?」
「当たり前でしょ。あんたも知らなかった様に、普通の人間は自分の能力が数値化されるなんて知らないのよ。誰もあんたの能力なんてわからないから、自分の低い能力をわざわざ教える必要なんてないでしょ。それに数値化された情報は、現時点において“ブック”だからこそわかる情報よ」
「現時点において?」
再びニヤリと笑う。
「まあ、次にめくって」
どうしようもないので、2枚目へとブックをめくる。
目を合わせると、イズは顎を小さくしゃくった。
「はい。選択可能職業:1 なんかたくさんの職業が書いてある」
そりゃそうか・・・今まで関与した戦闘データの蓄積があるものね・・・またぶつくさ言っていた。
「スザって、さっきのステータスから考えると、まあまあ頭のいい安定した小回りの利く運だけの男よね」
「ステータス?」
イズは、おおぅとつぶやきパシッと自分のでこを弾く。
「まあ能力ってことよ。たぶん等級を上げて“ブック”の熟練度も上がるともっと選べる職業の数も増えるだろうから、とりあえずまずはこの街の解放ができそうな、あんたの能力に合っている職業にしましょうか。だったら補正も高くつくだろうし」
「はあ・・・」
そりゃ、はあしか言えないわね、うんうんと頷き、
「暗殺者、盗賊、狩人、弓兵・・・って職業ある?」
「なんか物騒な職業なんですけど・・・」
イズはキッと睨む。
「うるさいわね、あるの?ないの?」
美少女の睨みは、氷の刃。スザはすぐさまブックに目を落とし、一生懸命探した。
「全部あります」
敬語になってしまった。
「じゃあ一つひとつ職業を設定していって、1枚目の補正値がいくらになるか言って」
はい!と言いながら、一つずつ設定していくと、
「暗殺者が補正値:10で一番高いのね。じゃあ職業は決定」
じぃーっとスザはイズを見つめる。
「何?」
「職業によってどうなっていくのかと補正値について教えてよ」
「よ?」
「教えてください、イズ先生」
めんどく・・・イズが睨むので考えるのはやめました。
「職業を選んで等級が上がっていくと、通常よりも職業にあった能力値の上昇幅が大きいのよ。暗殺者だったら、技巧、均整、機敏の上昇幅が大きいわ。でも職業柄上昇しないものもあるのよ。魔力や徳なんてほとんど上昇しないわ。だから本来はなりたい職業を選んで、そのまま等級を上げるのがいいのだけど、今回はあんたが死なずに、この街を解放しなくちゃいけないので、補正値が高い職業を選んだってわけ」
イズの言葉にスザはうんうんと頷いている。理解はしているようだ。
「補正値は、その名の通り、あんたの能力値を補正するもの。あんたのすべての能力に10が足されるわけね。力も2が、12になるのよ。すべての能力が底上げされるので、ゴミなあんたも一般兵士レベルにはなるのよ」
すごいでしょ、これも“ブック”のおかげよねとイズは拍手する。睨むのでスザも拍手した。
「じゃあ、3枚目も進めましょう。3枚目は・・・」
この後二人はスザが死なないように、仲間たちを救出できるように、街を解放できるようにスザの能力を整えた。
「さあ、あとはこの箱を開けて」
スザは、示された箱を開けると、中には装備一式が入っていた。
「抜群の装備よ。暗殺者の短剣、暗殺者のマントに胸当て、ブーツ、手甲。完全暗殺者装備でまた補正値が上昇よ」
そそるわねと言っているけど、スザはよくわからない。身に着けていくと、
「すげえ。体が軽くなった感じがする」
スザの言葉に、そうでしょ、そうでしょとイズは大きく頷いている。
「あとは食事ね」
イズは右手を出して、手のひらを広げた。小指の爪くらいの白い塊が2粒ある。
「体力と栄養を与える薬ね。かみ砕いて、水もある程度飲んでおきなさい」
バリバリと薬をかみ、イズの差し出した水筒を受け取りゴクゴクと水を飲み干す。そういえば昼飯から今まで水も飲んでいなかった。
「さあ、あとは街の状況ね」
部屋の壁の一部が一瞬のうちにスクリーンに代わり、街の様子を映し出した。
もう夕暮れも終わり、夜のとばりが下りようとしていた。塔の上部から見ている映像なのか、街を俯瞰で映し出したものだ。
その映像に言葉が矢印と共に次々と足されていく。
スクリーンの前に移動したイズの表情はさっきまでとは全然違った。笑顔もなく、きりっとした顔だ。まるで司令官だとスザは思った。自然とスザの背筋も伸びる。
「敵は門と、中央広場の警備に分散している。中央広場に人質が集められているので、騒ぎを起こすと分散した敵が中央広場に集まり、囲まれ、さらに人質を取られて打つ手がなくなる」
スザは頷く。
「で、まずスザは門の警備兵を倒し、経験値を積んで等級を上げること。そして物音を立てて中央広場の警備兵を何人か引き付けて、倒す。あとは混乱する警備兵を一人ずつ暗殺していく。途中で倒した兵士の武器を手に入れて、この広場に集められた少年たちに渡して、騒ぎを起こさせなさい。人質に目が行った警備兵を背後から暗殺できるわ。これが大まかな人質奪還と街解放の流れ。いいわね?」
「はいっ!」
スザはグッと引き締まった表情へと変化した。
「大丈夫そうね。私はここからあんたに指示を出していくわ。さあ、反撃開始よ!」
「おう!」
スザは出口に向かって走り出した。
階段を上り、扉を開けた先は、地上の部屋。スザはよく知らなかったが、クシナの父の執務室であった。
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