第76話 イの国の南側⑧
「えっ!?」
驚くスザを見るクシナとミナミの目が険しくなって、その包まれたスザの両手を見ていた。
「こら!マリカ!客人がびっくりするだろう!」
ハッとしたマリカは、スザの両手を放し、すみませんと謝った。
「どういうことか教えてもらえますか?」
顔を赤くして椅子に座り込むマリカを横目に見ながら、スザはマスオに頼んだ。
「このマリカは私の弟できつねの村村長の娘なんですが、30日ほど前にきつねの村が魔物に襲われたのです。マリカの父は住民を逃すために村に残って戦っていたのですが、ここ10日くらいからきつねの村方面から大量の魔物がこの二つ川の村に襲ってき始めたのです」
ハルはマスオに続いて、
「そのせいで、周辺で栽培していた食料を荒らされ、収穫量が減り、さらにきつねの村から逃げてきた人たちの食料も準備しないといけないため、備蓄していた食料がどんどん減ってきて・・・」
ハルがそれ以上言うのをやめた。あの元気のない、暗い、訝しむ表情はこの辺の状況が影響を与えているのだろう。
「私たちがきつねの村を取り返せればいいのですが、逃げてきたのは女性や子ども、老人が主で、父たちの応援にも行けない状況なんです」
マリカは顔を上げずに、うつむいたまま話す。
「おじさまを頼って、この村に居候させてもらってますが、そのせいでこの村の人々にも迷惑をかけているし、でもどうしていいのかわからず・・・」
マリカは顔を上げて、姿勢を正した。
「でも今、私は、あなた方を見つけることができました」
そしてゆっくりと椅子から立ち上がり、スザの前へ進んで、ゆっくりと膝をついて土下座した。
「どうか私と一緒にきつねの村に行ってください。報酬はありませんが・・・いえ、私です。私のすべてを捧げます。一緒に行って、戦ってください」
「いいですよ、行きましょう」
マリカのお願いに、スザは間髪入れず了承の返答を返した。
「スザ!」
「スザ様♡!私という者♡がありながら!」
クシナとミナミが同時にスザの両腕にしがみつく。
「えっ!?」
スザはびっくりして腕にとりついたクシナとミナミを交互に見る。
「スザ様♡は、こういう人が趣味なのですかぁ♡!」
まあ、なんということでしょう。土下座から心配そうに見上げるのは、黒髪の短髪、丸顔の美少女です。ミナミよりも身長はありますが、クシナほどでもなく、マリカのマリカもクシナやミナミほど主張はしておりませんが、なかなかのマリカです・・・って、違う!
「あ、すべてを捧げるとかはなくていいんで、きつねの村に行きましょう」
ネッ!ネッ!とスザは両腕のクシナとミナミを見るが、2人は真顔にじとーとした目でスザを見ている。
「大丈夫なのですか!?私は反対です!」
マスオは肉親だけに、マリカの案もスザの言葉にも拒否反応を示した。
「心配はごもっともです。では、少し外に出ましょう」
スザは全員と外に出て、ミナミにマリカを入れて風の防御をするようお願いした。ミナミは膨れていて、首を縦に振らない。
ミナミはじっとナギを見る。ナギはため息をつき、ミナミに近づいて、こそこそと内緒話を聞き頷いた後、スザの元に行き、再び内緒話をした。
スザは、はあぁぁと深くため息をついた後、頷く。それを見たミナミは笑顔になって、マリカを連れて風の防御を唱える。
「ちょっと!スザ!どういうこと!何を頷いたの!?ナギさん!ちょっと!」
クシナの言うことを無視して、スザはハルに剣で切りつけるように言う。ハルは最初ゆっくりと剣を振り下ろしたが、その跳ね返りに驚き、どんどん力を込めて剣を振り下ろしていく。が、ことごとく跳ね返され、最後は疲れて終了した。
マスオはマリカの願いに首を縦に振ることしかできなかった。
出発は翌日になった。今日中にマリカは準備して、明日午前中に出発の予定だ。もちろん、スザたちはいつでも出発できるが。今日は村長宅に泊まることになった。
「で、どういうこと?」
クシナは不機嫌だ。なぜなら、スザの足の間にミナミが座っているからだ。手が離れる度に、ミナミはスザの両手を持っておなかの前に回して両手を組ませる。スザが常にミナミを後ろから抱いている形だ。
スザは目線を下げた。ミナミですか?ということだろう。
「違うわよ!なんであのマリカって娘を連れていくのかってこと!」
そりゃ、そんなダッ○×なんてゴニョゴニョと何か小さく呟いていたが、スザはよく聞こえなかったので、聞こえたことに答えることにした。
「簡単。イズが連れて行けと言ったんだよ」
「え!?」
3人全員が驚いた表情でスザを見た。
「あの時、突然手を握られたでしょ?あれでイズはあのマリカって娘に魔法使いの素質があるだろうと感じたんだって。つまり、大きな魔力をね。俺とイズは常につながっているから、話せるし、接触したものを感じることができる。素質のある娘が目の前で魔法の戦いを見て、自分の住んでいた村を取り戻したら」
「新たな配下になるってこと?」
クシナの言葉に、スザは大きく頷いた。
「それだけじゃないよ。イの国から離れたところに頼れる、任せられる仲間が増えるのは、俺たちにとってとてつもなく有益なことだよ」
翌日、朝食を取った後、スザたちにマリカを加えた5人で二つ川の村をきつねの村に向けて出発した。
薄暗い中に、朝日が少し差し込んだ。
崩れかけた家の中、女体が何体も上半身を折り曲げられ、尻を突き出した状態で拘束されている。足は地についているが、その間に割って入るようにギェヒヒと呻きながら、何匹ものコボルトが腰を振り、放出する。
体を抜くと、足元に大量の液体がボトボトと零れ落ちた。その中にうごめくものがある。それは、這いずりまわるうちに徐々に大きくなり、まぐわうコヨーテに近づき、かぶりついた。咀嚼する度に体は大きくなり、コボルトになっていく。また側ではコヨーテ同士のまぐわいから、新たなコヨーテが生れ落ち、どんどん増えている。女性たちはコボルトから液体を口に注がれ、恍惚の表情を浮かべていた。
ドスンという音と共に突然家が揺れ、コボルトたちが家から急いで出ていった。
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