第70話 イの国の南側②
2021.8.5一部手直し実施しました。
流れに変化はありません。
夕方前には着き、サユリに挨拶した後、国王府に入る。馬車は共同鍛冶場に置いてきた。その時、明日トシさんとヒカルに朝から時間をもらうよう依頼しておいた。サユリからは、鍛冶見習いが増えたよと報告を受けた。嬉しそうだったのが印象的だ。
朝から共同鍛冶場で馬車を作っているトシを訪ねた。
「これは?」
トシは受け取ったものをひっくり返して少し見た後、スザに視線を向けた。
「イズからもらったお湯の製造魔道具です」
四角い筒の上に魔石がついている。スザが受取り、魔石に手を置いて、
「お湯出ろ」
というと、その筒からお湯が出てきた。お湯止まれと言うと止まった。
「これを作れってことか?」
スザは頷く。
「いずれは各家に浴室を設けたいのですが、まずは皆が入れる公共のお風呂場を作りたいなぁって思って・・・」
トシは魔道具をヒカルに渡す。
「魔石に命令が刻むことができればいいんですよね?」
「ヒカルの言う通りだが、魔石の品質が低いと高度な命令はできねぇし、すぐに魔力が尽きる」
トシはヒカルの持つ魔道具を指差し、
「この魔石、この前お前らが持ってきたのと同じくらいの品質だ!そんなに簡単に転がってないぞ!」
ヒカルから魔道具を奪い取り、
「それにこれはすごい技術が使われてるぞ!自動で魔力を取ってくるように命令されている。できるか!」
トシをなだめ、どこまでできそうか話していくと、ゴーレムの劣化魔石なら簡単に手に入る、その魔石でも水を出す・止めるなら刻める、魔力はすぐなくなるので、水を出すときは誰かが魔石を触っておく必要がある、水を出す止めるの命令を、熱を出す・止めるに変えることはできる・・・とのことだ。
「お風呂場を作るのじゃなくて、水出し場を作ればいいんじゃない?そこに熱を出す魔道具も置いて・・・」
ヒカルの視線を受けて、トシは、
「今は川に水を汲みに行って、薪で湯を作る家がほとんどだ。その頻度が半分くらいに減りゃあ喜ばれるだろうよ。やってみる価値はあるかもしれねぇな」
スザは少し考え、
「魔石があればできるのですね」
トシは頷く。
「で、これを研究させてもらわねぇと、まったく同じことができるかは保証できねぇ」
スザたちはターリを訪ねることにした。
ターリは外の様子を見ていたようで、マスター部屋を開けると飛びついてきた。それをクシナとミナミに阻まれ、3人がスザの前で、ぐぬぬ・・・と押し合いをし始める。
「・・・あのぉ・・・もういい?」
スザの呆れ声に3人は動きを止め、黙って元の位置に戻った。
「スザ!よく来たわ!今日は何の用?」
ターリは銀色のローブをバッと跳ね上げ、金髪をかき上げながら満面の笑みだ。さっきのはなかったことにしたらしい。この辺はイズにそっくりだ。スザは、公共浴場を作るため、魔石を手に入れたいと説明し、可能かをターリに尋ねた。
「命令もすべて刻んだ、同じ魔石を作ることは可能だわ。だけど、ひとつ条件があります」
クシナの左眉がピクンと上がった。
「何でしょう」
「これだけは引けない!スザの魔力が必要なの!今日一日ここで私と二人っきりで過ごさなきゃだめ!」
ギャーギャー言い出すクシナとミナミを落ち着かせ、スザは、
「どれくらい作れるの?」
「今日、今から一緒なら、明日の朝には4つ作れるわ。その代わり、ゴーレム馬は本日分はなしね」
「・・・その魔石はこれと同じもので作れる?」
ターリはイズの作ったお湯製造魔道具を見せた。ターリは魔石に触り、頷いた。
「母上の作ったものね。これくらいは作れるわ」
4つなら、カナヤマ、東の村、スザの村、湖の町に作れる。塔の街はイズにもらったものがあるし、まだ必要ならイズに頼めばいいだろう。
スザはナギを見て、
「今日は今からターリとここで過ごすんで、3人で国王府に行ってもらえませんか?」
「なっ!?」
「ダメッ♡!」
ナギはわめこうとする2人の手を即座に掴んで、マスター部屋から連れ出した。3人の前で扉がドンッと閉まる。クシナとミナミは扉を開けようとドンッドンッと叩いているが、開きもしないし、返事もない。むなしく首を垂れる2人の姿をナギは見つめていた。
次の日の朝、スザはげっそりとした表情で国王府に現れた。きちんと手に入れた4つの魔石を3人に見せる。クシナとミナミは、聞いているナギが引くような勢いでスザに質問を浴びせかけたが、スザは何も言わず、答えず、朝食を取った後トシに魔石を渡しに行った。
午後には4つのお湯製造魔道具がトシから手渡された。
スザは土魔法で中央広場の北側に共同風呂を作った。トシとヒカルはそこに水場を作るらしい。
ヒカルとトシが更に改良した新ゴーレム馬車をもらい、スザたち4人はその日の夕方、塔の街に帰ってきた。
次の日の昼前には、新たなゴーレム馬車で東の村に着いた。振動は更に小さくなり、乗り心地が良くなっていた。ヒカルは4輪の内、前輪2輪を独立にして、板バネの形状をフニャフニャと言っていたが、話が長かったのであまり聞いていない。とにかく人も荷物の移動にも十分に使用可能な馬車になっていた。
スザは行政府の隣に斜面を利用して共同風呂を作った。タロウさんに説明し、住民に連絡してもらった。その後、ユウと軍について話をしに、ダンジョンの中へと入った。
「マサさんとテツさんのお2人が色々教えてくれるから、何とかやれてるよ」
湖の軍からタケルが引っ張って連れてきてくれた人たちだ。20代前半の、将来有望な人たち。マサとテツが各々22人ずつ部隊をまとめており、10名ずつを見る2人の小隊長がその下に配置されている。
基本は8人が槍と剣を使う中・近接戦担当で、2人が弓の遠距離担当となっていた。元からいた4人はそのままユウの直属としている。ユウを入れて合計51人の部隊で、これにマイが魔法担当で応援にくる形を取っている。
「元は湖の軍の人たちだから、きっちり統制が取れてるし、すでに軍隊の動きだよ。俺たちの方が足を引っ張るかもしれないので、こうやって元の5人でかたまって動くようにしているんだ」
小隊長を入れた11人が最小単位で4つの部隊として分けて行動ができ、状況によって2つにもなるし、1つにもなるという形だ。マサとテツの連携がこの部隊の生命線だろう。ユウ達5人は膠着状態を破る最終決戦部隊という感じらしい。もちろん途中で近距離でも遠距離でも応援できるように準備はしているとユウは言っていた。
ユウとマサ、テツはよく話し合い、個人戦や4部隊戦、2部隊戦、1部隊戦等ができるように日によってイズに出てくる魔物の数を変えてもらっているとのことだ。もちろん人数が少ないので、誰もが槍も剣も弓も使えるようには訓練している。
訓練終わりにユウが4人の戦いを見せてほしいと言ったので、部隊全員が見ている中、イズに頼んで10匹のオークを出現させてもらった。オーク10匹であれば、通常2部隊20名で戦うようにしていると言っていた。
「基本隊形!」
ナギの命令に3人が瞬時に動く。いつものようにナギの後ろにスザ、その後ろにクシナとミナミが並んだ。
「分断!」
スザの声にクシナが横一列になったオークのど真ん中にフレイムランスをぶち込んだ。一瞬に内に3体のオークが炎に包まれ、爆散する。
「マドゥ!」
スザの土魔法で残りの7体の足元がぬかるみ、オークがジタバタしているが足を取られて動けない。
「ハアッ!」
ナギの気合を聞き、左側3体のオークが身構える。しかしそれも遅く、その右端のオークがナギの剣の軌跡に合わせて、血をまき散らしながら袈裟懸けに切り離れた。
残り2体の動きが一瞬止まったかと思うと、首を落としながらうつ伏せに倒れ伏す。その背後にはスザが血を振り落として納刀していた。
「風切り♡!」
「ハアァツ!」
ミナミは杖を右側の4体のオークに向ける。杖の先から何か光が出たと見えた次の瞬間、右端の2体の首が後方に飛び、血を噴き上げながら、仰向けに倒れていった。
その横で炎を上げながら、2体のオークの首が爆散し、同じく仰向けに倒れる。クシナは右手を下ろして、小さくフッと息を吐く。
ナギの命令が発せられて10秒も経っていない。あまりの速さに、驚きの声さえ発することができないようだった。
「・・すげぇ!すげぇよ!スザ!」
静けさを破ったのはユウの声。そしてスザたちに走り寄る。
「クシナもミナミも、もちろんナギさんもすげぇ!」
ユウの声に、残りの兵士たちも歓声を上げて4人を褒め称えていた。
次の日は午前中にスザの村、夕方前に湖の町で共同浴場を建設して、次の日の午後過ぎて塔の街に戻ってきた。
塔の街にもイズからもらったお湯製造魔道具でもちろん共同浴場を中央広場付近に作った。
その日の夜、スザはイズがいる地下のモニター室を訪ねた。
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