第69話 イの国の南側①
本日の予定では20時頃の更新予定だったのですが、昨日20時に更新したので、12時に変更しました。
内政が終わり、旅に出る話になっていきます。もう少し先ですが。
2021.8.5一部手直し実施しました。
流れに変化はありません。
イの国全てを舗装した道で繋いで、8日経った。
今日は、新たな港村で集団見合いだ。湖の町や東の村、カナヤマの町、塔の街から若者と未亡人、元兵士たちが集まっている。もちろん結婚したい女性も各場所から集まり、豪勢な食事をとりながら、男女で会話して伴侶を見つけようとしていた。スザ、クシナ、ナギはそれを遠くから見ている。
「ナギさんはいいんですか?それにサユリさんの姿も見えませんけど・・・」
「そんなこと、サユリさんに言ってはダメよ!」
クシナに怒られた。
ナギはハハハと乾いた笑いをして、
「今のところはまだ妻を得ようとは思いません」
へぇ・・・スザとクシナはただ頷き、それ以上は聞かなかった。
翌日、8割方伴侶を得て、各地に散らばっていった。独り身の元兵士に人気だったのは東の村だった。ダンジョンで鍛えつつ、兵士にまた戻ることも考えているのだろう。ゴーレム馬車を見て興味を持った人や、カナヤマの人を伴侶にした人は鍛冶師になろうと、カナヤマに向かった。
農業や孤児の教師、中枢で政治をしたい人などは塔の街へ。もちろん塔の街の人と結婚した人もだ。元の場所では死んだ夫を思い出すという人は、新たな伴侶と共に、この新たな港村で農業や漁業をすることを選んだ。
スザは当分の間、新たな港村に住むことにした。軌道に乗るまでは、細かい手直しが必要だろうし、まとめ役がまだいないからだ。クシナは塔の街と行ったり来たりだ。塔の街では新たな人に孤児院の運営の仕方を教え、こちらでは農業の指導を行っている。
スザは朝に前日の問題点を聞き、土魔法を使って改善を加える。ナギはその横でスザの護衛だ。漁については、カイさんの部下が船と共にこちらで漁をすることになった。カイさんも時々現れて、新たに漁師になった人を部下と共に指導している。タケルから頼まれたのだそうだ。
5日もすれば、スザもやることがほぼなくなった。
「あとは、村長とこの村の名前だけど」
「スザ、知らないの?」
クシナも孤児院が落ち着いたようで、スザの元にいることが多くなった。ミナミもクシナと孤児院を手伝っていたので、今は4人が新たな港村にそろっていた。
「スザ様、鈍感♡」
スザは首を傾げる。
「みんな、スザの村って呼んでるわよ」
「えっ!?」
スザの驚く顔に、3人が呆れた。
「そりゃ、国王が率先して村おこしをして、着きっきりで開発していればそうなるわよ」
クシナのため息交じりの言葉に、ナギもミナミも大きく頷く。
「自分の名前が付くなんて、ちょっと微妙だけど・・・」
「もう諦めなさいよ」
「いい名前の村ですぅ♡」
今更変えられなさそうなので、スザは諦め、そのまま呼ばせることにした。
「あとは村長だけど・・・」
「みんなのまとめ役なら、スザもわかるでしょう」
スザは頷きながら、
「早くからみんなの意見をまとめて、俺に伝えてくれていたな・・・ハジメさんだな」
「本人と話をしてみましたが、部隊長だったと言われてました」
「湖の町の軍でも上司、部下から信頼され、今は村の人からも信頼されているんだ・・・」
クシナも笑顔で、
「私も何度か話をしたけど、私たちに敬意を払って接してくれているし、村の人たちにも穏やかに、優しく丁寧に接していたわ」
スザは全員の顔を見て、よしっと呟く。
「後からハジメさんを訪ねて、依頼しよう。了承を得たら、明日の朝、みんなの前で任命しよう」
午後、開墾をしているハジメを訪ね、村長の就任を依頼した。
ハジメは少し考えたが、
「わかりました。このスザの村の村長になります。宜しくお願いします」
スザとハジメは握手した。その手はコツゴツして暖かかった。
翌日朝、スザの村住民の前で、
「本日より、このスザの村の村長として、ハジメ殿を任命する。みんなとよく話をして、この村を暮らしやすく、よい村にして行ってくれるよう望む。みんなもハジメ殿に協力して欲しい。宜しくお願いする」
ハジメは、スザの隣に来て、頭を下げ了承した。
「みなさん、非才な身ですが、一生懸命努めますので協力をお願いします」
ハジメの宣言に全員拍手で答えた。
もし何かあったら、塔に連絡してノブとマイを頼るように伝え、スザたち4人は村を離れた。
スザたちは昼前に塔の街に戻ってきた。
昼食後、4人で孤児院を訪ねる。クシナが顔を出して欲しいと言ったからだ。午前中の農作業を終え、今は座学中だ。
孤児院には、顔見知りが少なくなっていた。元は30人程度いたが、ユウは4人の仲間を連れ西の村へ、ノブとマイも仲の良かった者たちと行政府で仕事をしている。ヒカルはカナヤマの町で修行中だ。他の仲間たちも孤児院を出て、この街で主に暮らしている。
ここに残ったのは、クシナと孤児院の運営、手伝いをする数人だ。カナヤマの町や東の村、この街の中の新たな孤児たちを合わせて、50人を超えていた。先生も増え、農業に加え、剣術なども実際に教えるようになるらしい。
「サユリさんやユウと話をしていて、カナヤマの鍛冶研修やダンジョン研修も考えているのよ。でスザの村が落ち着いたら、漁業研修ね」
満員の教室を出て、クシナは思いを語った。そしてスザを見ながら、手を合わせて、
「見てもらったように、教室が狭いし、寝床もぎゅうぎゅう詰め、剣術も今は座学しかできていないの。だから、もっと広くするため、ここを立て直して欲しいの。私もイの塔に移るから、元の我が家をぶっつぶして、全部孤児院にして・・・ね!」
「私もイの塔に住みますぅ♡」
「イズ様には許可をもらっているわよ」
ミナミもコックリ♡と頷いた。
「どんな孤児院にするかは?」
クシナはニコッと笑い、
「もう先生方の了承は得ているわ。あと、イの塔で説明する」
クシナは生徒や先生に、明日ここを立て直すことを説明し、朝自分の荷物を外に作った小屋に置いて農作業に行くよう伝えた。魔法を見たいとの意見が出たため、最低限の農作業をして戻ったのを確認してから建てることにする。
クシナは午後いっぱいの時間を使って、荷物を移動させた。父の思い出の品が量も多く、かさばったようだ。ミナミは荷物も少なく、直ぐに移動が終わった。
部屋はたくさんあったので、クシナは二つ使用し、ひとつは荷物置き場にした。料理を作りたいと呟いていたら、いつの間にか広い台所ができていた。
その日は、スザ、クシナ、ナギ、ミナミの4人で塔内初の食事となった。
翌日朝、孤児院に来たスザたちは、私物が外に出ていること、中に誰もいないことを確認し、魔法で壁をぶち抜いた。中の机、椅子、台や台所の品々を土魔法で移動させた。物が置いてある地面の表面を薄い石の板にして、その下の土の中に石の円柱を作り出し、孤児院の外まで円柱の床を作って、土魔法で勢いを与えて外に出したのだ。
その機転に、手伝おうと来ていたマイは感心して大きく頷いていた。
ミナミの風魔法で壁と屋根を巻き上げながら、クシナが焼き尽くしていく。そしてその灰をスザが土魔法で固めた。見ていた孤児たちが一斉に拍手した。
今までは平屋だったが、今回は3階建てにする。L字型の建屋で、一番上の3階すべてが孤児たちの部屋になる。申し訳ないが4人部屋だ。1階のL字型の一辺が2つの教室で、もう一辺に調理場と食堂が設けられた。調理場の上、2階が男女別の浴室、教室の上の2階は開けており、今後の人数によって孤児たちの部屋にするのか、教室を増やすのか決めていくことにした。
建屋の外、L字型の開いた空地は柵で囲い、剣術などが教えることができる広場にした。
一気に立ち上がる建屋を見て、孤児たちは口をぱっくりと開け、目を見開いていた。
外に出していた机や椅子、台、台所の品々を壁に穴をあけ、逆の工程で戻していく。午前中ですべてが完了していた。
孤児たちは大喜びで私物を持って新しい部屋に入り、外で昼食を取って午後から新しい教室で勉学に励んでいた。
それを見届けたスザたちは、カナヤマの町へとゴーレム馬車で移動した。
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