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第63話 戦場はイの国④

翌日朝から道の整備は再開した。昨日と同様に進めていく。


マイは慣れてきたようで、掘った後の傾斜の精度や石塊の寸法精度も上がって無駄な魔力が減ったこと、魔法の熟練度が上がって使用する魔力が減ったこと、そしてマイ自体の魔力も上がっていることで道を整備できる時間が増えてきていた。

夕方も余裕があったようで、


「今日は私に皆の休む小屋を作らせてほしい」


マイの言葉に、スザは頼んだよと頷いた。ミナミも姉が慣れてきたことに笑顔だった。

途中、橋の拡張等手間取ることもあったが、予定より1日短い6日間でカナヤマの町に着くことができた。


「おおスザ、お疲れ様!」


昼過ぎて到着したスザたちを、サユリは変わらない態度で出迎えた。町は復興が始まったばかり。森を切り開いた木材で住民の家を建ててはいるが、まだまだだ。

サユリも一生懸命やろうとしているが、人手が不足しているため、思うようには進めていない。


「今日はゆっくりして、明日からよろしく頼む」

「サユリさん、明日は予定通り朝からターリ殿のところに行って、その後に町を復興させていくのでいいですね?」


サユリは頷き、


「予定通り頼む。今日はどうする?」

「私は明日からのために町を見ておきたい」

「お姉ちゃんについていく♡!」


マイとミナミの予定は決まった。


「優秀な鍛冶職人を紹介してほしいんですけど」

「装備ならイズ様がくれるんじゃない?」

「ずっとイズにもらうわけにはいかないだろ?兵士にも渡さないといけないし・・・」


クシナは、そうね、じゃあ私もスザについていくわと答えた。


「私よりもナギの方が詳しいだろう?」


サユリの言葉に、


「では、今からご案内しましょう」


ナギは案内を買って出た。夜はサユリの家でということで、分かれる。

ナギ案内の元、スザとクシナは斜面にある一つの洞穴みたいなところに入った。


「トシさん、いるかい?」

「・・ああぁ!誰だ!忙しいのに・・・って、おお!ナギか!もう死んだと思っとったわ!」


ガハハと笑いながら、上半身裸で汗をぬぐい奥から出てきたトシは、ナギの肩をバシバシ叩く。


「ここカナヤマの町で一番の鍛冶職人を紹介して欲しいと言われたので、トシさんのところに連れてきた。仲間のスザさんとクシナさんだ」

「ん?・・スザ?クシナ?・・おお!ここを救ってくれた2人か!」


汗臭いまま、スザとクシナに近づく。クシナはスザの後ろにサッと隠れた。

トシは苦笑いしながら、止まった。


「すまん、すまん。で、英雄様は何の御用ですかな?」


スザは頭を下げながら、


「お忙しいところ、すみません。この魔石を見てもらえませんか」


スザが取り出したのは、ハイオークの魔石だ。それを受け取ったトシは、


「こりゃ、とてつもないやつの魔石だな。これをどうしたいんだ?」


スザは、少し考えた後、


「このクシナが使えるような盾が欲しいなと思って」

「盾?」


クシナとトシが同時に口に出した。


「ええ。彼女、魔法使いなのですが、その魔力をちょっと利用して、常に魔力を体の前で展開して、攻撃を防ぐような盾ができないかなって・・・」


トシは、魔石とクシナを交互に見る。


「今の装備が基本だな?」


クシナは頷く。


「杖は持たないのか?」

「持たないですね」

「じゃあ、こう、手をブンブン振りながら魔法を出すのか?」


トシは、両手をぐるぐる回している。クシナはプッと少し笑ったが、そんな感じですと返事した。


「盾持ちの剣士が戦うような形に変更できるか?」

「盾持ち?」


ナギが左手を胸の前に、右手は剣を握るようにして半身に構えた。


「ああ、できます。手はおまけみたいなもので、魔法想像の手助けするのに身振り手振りするみたいな感じで魔法を出しているので」


クシナの言葉に、スザはうんうんと頷いている。


「じゃあ、左手の手甲の上にはまり込む形のものを付けて、それに魔石をはめて盾になるようにしてみよう。3日くらい時間くれるか?」

「ええ、大丈夫です。明日からこの町の建物を魔法で復旧していくので、3日から5日くらいはいる予定です」


スザの言葉に、お?という顔をトシがした。


「どんな建物を建てていくんだ?」

「まだサユリさんとは詳細は決めてませんが、住民のための住居、行政府を建てていきます」


トシは少し考え、


「そこに鍛冶専門の建物を追加することは可能だろうか?」

「ええ、できますよ。でもサユリさんに許可はもらってくださいね。それと他にも欲しい人がいるなら、皆の分も一緒に建てたいですね」

「おお!ありがとう。早速仲間と話して、サユリに言うよ。その建物建設と盾の製作が交換条件ってどうだ?」


スザとトシは握手をして契約成立した。



翌日、朝からダンジョンに行った。ダンジョン入口にマスター部屋直通の扉と道を作ってある。通れるのは限られた人で、スザ、クシナ、ナギ、サユリはそこを通ってターリを訪ねていた。

扉を開けると、銀色のローブをまとった女の子・・じゃない、少女が振り向いた。


「お久しぶりです、スザ」

「・・・あ、久しぶりです、ターリ様。なんか、体大きくなった?」


ターリは、ぱっと表情を笑顔に変え、


「わかります?魔力が戻ってきて、体も大きくなったんです」


笑いながら、金髪の美少女がくるりと回ると、その回転力にたゆんたゆんと揺れています。目のやり場に困ります。隣でしらーとクシナが俺を見ています。


「ゴホンっ!じゃあ、早速話をしましょう。時間もないですし」


クシナがわざとらしく、咳をしながら少し大きな声で仕切る。


「そ、そうだね。じゃあ、始めようかね」


慌ててサユリが話を切り出した。


「ゴーレムの馬車ですか?」


スザはターリの言葉に大きく頷く。


「馬車を引っ張るための、ゴーレム。つまりゴーレム馬が作れないかなって相談なんだ。馬車の台車はカナヤマの鍛冶職人に作ってもらうけど」

「・・・まあ、できます。一気に作るのではなくて、定期的に製作ということなら」


4人は顔を見合わせ、笑顔でおねがいしますと頭を下げた。


「姿形は馬でいいとして、能力はどうしますか?」

「人の2倍くらいの速さで、台車に荷物を積んで走ることができる力が欲しいわね。速度より力の方を重視で」


サユリの言葉にスザたちは頷いた。


「命令はどうしますか?背中は乗れるように鞍を付けておいて、そこに魔石を露出させ、手を当てながら簡単な命令を出せるようにするのがいいかなと思いますけど」


ターリにスザはそれでお願いしますと答えた。


「ゴーレム馬自体、目で見てますから、危ないと判断して止まりますし、道なりに走っていくこともできます」

「安心ですね。それで定期的に製作できるのはどれくらいなのですか?」


スザの疑問に、


「1日1頭作れるでしょう。でも、一つお願いがあります」


キランッ!とターリの瞳が光ったように、クシナは感じた。


「何でしょう」

「スザさんの魔力を分けてください」

「ええ、いいで・・」

「ちょっと待ったぁ!」


スザの言葉を遮り、クシナがターリを睨みつける。


「なぜスザの魔力なのです?私の魔力じゃダメなのですか?」

「無理です。スザを通してイズ様の魔力を得るためですから」


そうだった。最初に俺の手を通してイズと会話したのだった。あれでイズの魔力を得たのか


「クシナ、最初もイズが絡んでたでしょ。大丈夫だから」


ぐぬぬぬ・・・と小さくクシナは呟き、


「・・・わかりました、ターリ様」


では・・・と言って、ターリはスザに近づき、ニヤリと笑った。ようにクシナは思ったが、その時には正面からターリはスザに抱き着いていた。


えっ!?


「ああ!最高!スザ、さいっこうっ!」

『おっ!何か、ターリの魔力が一気に上がった!ターリ、記憶戻った!?』


また、イズの声がマスター部屋に響く。


「ああ、お母様!今、お母様のデータベースからダウンロードできたわ!」

『シッ!本当にタキと言い、ターリと言い、失言ばかり!考えなさいよ!まったく・・・』

「だって、スザはブック保持者でしょ?あの時は魔力なんてほとんどカス・・・じゃなかった、少なかったけど、今はすごいじゃない?お互い様でしょ」


ええ、お互い様です。ターリ様のターリが俺の胸にたゆんたゆんと当たって、ちょっとやばいです


『魔力もこれ以上必要ないでしょ。じゃあ、もう手をつないでなくていいわ』


えっ!?


クシナがダッ!と走り寄り、スザからターリを引きはがそうと体に手を掛け、引っ張る。


『だいたい、スザじゃなくてもいいでしょうに。魔力に誰のなんてものないんだから』


クシナは目を吊り上げながら、さらに必死にターリを引きはがそうとしているが、ターリは抵抗してスザにしがみついたままだ。


ナギとサユリは3人の絡みを見て見ぬふりするよう心に決めたようで、何も言わない。

数分後、クシナの息が上がり、その場に座り込んだ。それを見て満足したのか、フフフと小さく笑いながら、ターリはやっとスザから離れた。座り込んだクシナを見下ろしながら、その場から遠ざかる。


「我が母イズに誓って、ゴーレム馬の製作を行うわ。また願いがあれば、いつでも来て。スザ、心待ちにしているわ」

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