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第3話 赤く染まる街③

「大丈夫!大丈夫だから!さあ、塔か北の門に向かって!」


クシナは教室を経て集合部屋から道へと飛び出し、逃げようと部屋から出てくる仲間たちに身振り手振りと大声で指示を出している。

混乱の中、クシナの視線がふと塔に向かう。


「大丈夫なの?スザ・・・」

「クシナ!」


その声に振り向くと、帯剣した赤髪中年が部下を従え立っていた。


「父さん!」

「大丈夫だ!お前はみんなと一緒にここから離れなさい」


一瞬、泣きそうな表情をクシナは見せた気がしたが、


「わかったわ。ご武運を!」


取り戻した笑顔と共に、右握りこぶしを突き出した。その姿に父は大きく頷き、


「南門へ!侵入者をたたき出すぞ!」

「おう!」


掛け声に兵士は応じ、父を先頭にして南門へと走り出した。

その姿に気づき、侵入者たちも応戦しようと駆け寄り始める。

走る父の周囲に陽炎が立つ。


「フレイムアロー!」


その陽炎から無数の炎の矢が侵入者たちへと向かって噴出した。着弾と同時に先頭集団を弾き飛ばす。


「抜刀!突き崩せ!」


その隙を逃すまいと、部下たちは父を追い越し、混乱する先頭集団に切り込んだ。切り伏せられていく侵入者たち。


「5・4・・」


父のカウントダウンが始まる。


「・・1・ゼロ!」


その声に兵士たちは一斉に左右に分かれ、身をかがめる。


「フレイムランス!」


無数の炎の槍が剣を振りかぶった集団に襲い掛かった。焼かれる集団に再び部下たちが切り込む。突き崩され、じりじりと後退する侵入者たち。感嘆の歓声が街から沸き上がった。


「さすが父さん!」


まだ子供たちを逃がしているクシナも喜びに飛び上がる。

さらに追い込もうと二度目のフレイムランスが放たれた時、先頭集団に人影が躍り出た。


「くだらん!」


その声と同時に、無数の炎の槍が消し飛んだ。


「なに!」


父と部下たちの動きが一瞬止まる。チンッ!と音が鳴り、剣を鞘に納めた男はニヤリと笑って居合の構えを見せた。不敵な笑みを浮かべる男の左頬には大きな傷があった。


「魔法を切った?斬撃?」


父は知らないうちにつぶやいていた。


「いいのか?止まって?」


一陣の風が吹いた。チンッ!と鞘に納めた音が鳴ったと同時に、前線にいた兵士たちの上半身がずれ、二つに分かれながら倒れていく。


「父さん!?」


ゆっくりと膝をつく父の姿がクシナの目に入ってきた。さっきの剣勢で腹が裂かれていたのだ。父の腹から血が溢れ、内臓がずるりと飛び出した。

父の目前に頬傷の男がゆっくりと近づく。もう剣は抜いていた。その剣が天を指す。振り下ろそうとした動きが、ピタリと止まった。


「どけ」

「いやっ!」


剣を構える男の目の前に、父を背にかばったクシナが立ちふさがったのだ。


「クシナ・・・」


父の呼びかけに、クシナは振り返りガバッと父に抱き着いた。


「父さん!父さん!」


父は冷や汗を流しながらも優しい笑みを浮かべていた。ゆっくりと血だらけの手でクシナの頭をなでる。その手は震えていた。


「大丈夫だ。必ずご先祖様がお前を守ってくれる・・・」


つぶやきが聞こえたと同時に、クシナは体に流れてくる何かを感じた。


「父さん!?きゃっっ!」


頬傷の男はクシナの腕を掴み、バッと父から引きはがした。そのままの勢いでクシナはゴロゴロと地面を転がる。顔を上げたと同時に、目の前にドサッと何かが落ちてきた。

それは父の笑顔に包まれた頭だった。


「いやあぁぁ・・・」

「成人した男どもは全員殺せ!」


クシナの叫び声は、頬傷の男の虐殺命令にかき消された。



夕暮れがイの塔の街にもやってきた。


街は朱色に染まった。

地面や壁の朱色は夕暮れだけではない。中央広場には、死体の山が築かれ、炎で焼かれていた。兵士や年寄りの姿が見えるが、男の死体だけだ。


女性は広場の講堂に集められていた。その中で成人と少女に分けられ、少女たちは用意された数台の馬車に順次乗せられ、日が高いうちに街の外へと移送させられていった。


馬車の中では少女たちは不安の表情を浮かべていたが、誰一人しゃべることはない。その中に気を失ったクシナの姿もあった。


少年たちは死体の山のすぐそばに集められていた。後ろ手にされ、両手を縄できつく結ばれている。周りを侵入者たちに囲まれ、監視されていた。

こちらもしゃべるものは誰もいない。侵入者に盾突いた少年がボコボコに殴られたのを全員が見たからだ。


イの塔の英雄物語は終わった。


残った女性たちも、馬車の中の少女たちも、監視され続けている少年たちも言葉に出さないが理解していた。

でも誰もが望んでいた。


「赤髪の英雄」が再び現れ、イの塔の街を、そして自分たちを救うことを。

新たなイの塔の英雄。その出現を祈っていた。

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