第55話 父と子と・・・⑨
空に散った水が渦巻くようにまとめられ、キョウの体に降りてくる。
違う、キョウの鎧が吸い寄せているのだ。
全てが左胸の透明の球に吸い込まれ、球が青く輝く。更に球が輝き、ドンッと青い稲妻がほとばしった。タケルもすぐ後ろにいた旗持ちと槍持ちもその勢いに吹き飛ばされ、ゴロゴロと転がった。兵士たちもその衝撃波に体勢を崩し後ろに倒れている。
土煙が薄れていく。影が1人。いや違う、ズラズラと影が増えていった。風が吹き、土煙が晴れていくと、そこには白と青がまだら模様を描いた鎧武者1人と青の鱗を全身にまとった魔物4体が立っていた。
「おおお!力が溢れる!これならイの塔の街を滅ぼせるぞぉ!」
まだら模様の鎧武者は天を仰ぎ、気勢を上げている。顔と兜、鎧が全身一体で、鱗で覆われていたが不思議と声が聞こえる。キョウの声だ。
「もう、いらぬ。我と共に歩まぬ者たちなぞ、いらぬわ!」
その声に反応したかのように、青鱗の魔物が突如反転し、尻餅をついている兵士たちに正対した。魔物の両腕の鱗が伸びている。巨大な剣のようだ。4体の魔物すべての腕の鱗が、地につきそうなほどの長さになっていた。
タケルは兵士を守ろうと鎧武者となった父の横を抜けようとしたその時、鋭い剣戟を受けて、後方に跳ね飛ばされていた。右手が鱗の大剣へと変化していた。かろうじて青の剣で受けられたので、自分への被害はない。
「くそっ!まずい!」
タケルが見ている前で、4体の魔物が分かれ、尻餅をついたまま動けない兵士たちの目前に立っていた。大剣の両腕が大きく開かれる。腕を閉じるように振り下ろされたとき、
「アースウォール!」
スザの声と同時に、ガガガッと4体の魔物から音が響いた。スザの作った土壁に鱗の大剣が食い込んでいた。
「アースハンマー!」
土壁から巨大な土の柱が飛び出て、4体の魔物を吹き飛ばす。タケルとキョウの頭上を飛び超え地面にたたきつけられる直前、水の塊が現れ、バシャァッ!と音を立てて飛び散った。4体の魔物は何もなかったかのように地面から立ち上がる。
「水魔法!」
「見た目通りね」
スザの声にクシナは静かに応じた。確かに全身鱗の魔物だ。タキのところにいた鱗の騎士たちとは全然違う。鱗は青で、醜悪な顔は魚ではなく、トカゲのように見える。
魔物名:リザードマン 特徴:挙動に合わせて水魔法を使う。鱗の形状を自在に変えることができ、武器にも防具にもなる。 備考:鱗で作る防具は性能が高い
リザードマンたちは横一列で5m程度の間隔を保ったまま立ち上がった。リザードマンの背後でタケルは父キョウとにらみ合っている。
「基本隊形!」
ナギの声で、瞬時に隊列を組む。ナギが先頭で壁となり、その後ろにスザ、さらに後ろにクシナとミナミが並んだ。スザは鑑定でわかった特徴をクシナたちに教える。そして、
「撃破!左!」
スザは一番近いリザードマンへの攻撃指示を出す。
「ハアッ!」
クシナのフレイムランスが陽炎の中に沸き立ち、ゴウッ!と音を立てて左のリザードマンへと突き進む。
「ギョギョ!」
リザードマンは奇声を発しながら両手を前に出すと、水の塊が飛び出てフレイムランスとぶつかった。
「えっ!?」
クシナはランスが消え、そのまま水の塊が自分に飛んできていることに驚き、足が止まった。
「アースウォール!」
スザの土壁に水がぶつかり、消え去る。
『あー・・・魔法には相性があるのよ』
久々、イズの声
『同じ威力の場合、水と火がぶつかったら、水が勝つわ。だから、ちょっとクシナはこの戦いに不利かもね。基礎知識だけど、言っておくと、水は火に強く、火は風に強く、風は土につよく、土は水に強い。もちろん魔力や知能によって不利をひっくり返すことはできるけどね』
イズに教えてもらったことを皆に伝えた。
クシナは唇をかみしめ、
「不利も何も、絶対にひっくり返す!」
正に目が燃え上がっていた。
「ストーンバレット!」
スザは何度も呟きながら、右手を迫りくるリザードマンへと次々に向けた。その指先から高速で石が吹き飛んでいく。リザードマンの体に石がガンッとぶつかり、血を流す。
ギャギャ・・と叫びながら、当たるたびに一瞬体の動きが止まるが、致命傷ではない。他の3体のリザードマンは集まろうと近寄る動きを取っているが、スザの土魔法で動きが鈍っている。
ナギが左のリザードマンに切りかかった。小ぶりな動きで剣を素早く振る。リザードマンは両手でその剣を受け止めていく。ぶつかるたびに、ギンッと金属音が鳴り、小さく火花が飛び散っている。
ナギは弧を描いて動きながらリザードマンの動きを制御して、背後をスザたちに向けさせた。
背後に赤い点が浮かび上がる。
バチッ!
スザの剣が輝いたように見えた。ナギは、リザードマンの胸から剣が稲光を帯びて突き出るのを見た。
ギャアァァ!
リザードマンが叫び声をあげ、バタッとうつ伏せに倒れた。その仲間の姿を確認したと同時に、リザードマンたちの体が一瞬硬直した。
「ハアアァ!」
クシナは気合の声を発しながら、右手を下から突き上げる動きをした。一番近くにいたリザードマンの足元から突如火炎が吹きあがる。
「ギャハッ!」
リザードマンは両手を下に向けると、足元に水の塊が出現した。火炎が水でふさがれてしまう。
「まだまだぁ!竜巻ィ!」
炎が回転し始め、リザードマンの足元から周囲に飛び散り始めた。その勢いに、他の2体のリザードマンは集合する動きを止めた。
「まだあぁぁ!」
クシナの声に合わせるように、炎の回転がどんどん速くなる。リザードマンが出す水の塊の形がどんどん崩れていく。そして炎と接している部分が小さくわかれ、瞬時に蒸発し始めた。リザードマンの体を蒸気が渦巻き、包みこんでいく。
ギャァッギャァッ!・・ギャ・・
リザードマンの叫び声がどんどん小さくなる。蒸気によって蒸し焼きにされているのだ。突然、ドンッと炎がリザードマンの体を包み込んだ。
「ひっくり返したぁ!」
クシナの声と同時に、炎の竜巻が消え去る。そこには何も残っていなかった。リザードマンが死んだ直後、水がなくなって一瞬で燃やし尽くされたのだろう。クシナは少し肩で息をしながら、残りの2体を睨みつけた。
リザードマンたちはその気迫に押され、後退りを始めている。
「ダメ♡!逃げちゃ♡」
2体のリザードマンは、背中に衝撃を受けて初めて気づいた。風だ。風が後ろに下がるのを止めたのだ。そして自分たちが渦巻く風の中心にいることを理解した。2体は背中合わせになり、両手を突き出した。水が飛び出る。しかし風に阻まれ、飛び散るだけだ。渦がどんどん速くなり、縮まっていく。
ギャッ!
2体とも手を引っ込めた。血だらけだ。縮まる風の渦に当たっただけで、両手がズタズタに切り裂かれていた。逃げ場がない!?いや、上だ!2体は同時に空を見た。遥か高くまで渦は立ち上っていた。飛び超えることなどできそうもなかった。風が止んだ。
血まみれの2体のリザードマンは、どっと膝をついた。まだ生きている。
「ナギさん、私、これ以上無理っ♡」
ミナミはじっとナギを見つめる。ナギは無言で動けないリザードマンたちに近づき、首を刎ねた。
「さすがナギさんっ♡!」
ミナミのポニーテールがぷりん♡と揺れた。
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