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第54話 父と子と・・・⑧

「来ましたぁ♡」


翌朝、スザたち5人が北門を背に並んでいる。その100m程度前に、北の湖の軍が現れた。タケルはスザたちに一礼し、湖の軍へと向かう。

向こうにも動きがあった。


白いマントを風にたなびかせながら、一人の男が歩き始めた。それを追うように2人が旗と槍を天に掲げてついてくる。軍から少し離れたところで止まった。自分のところまで来いということだろう。

タケルはゆっくりと歩き、約5m程度離れて止まった。白と青のマントが風に揺れている。


「父上、これはどういうことでしょうか?」


左胸に透明の球が埋め込まれた白い鱗の鎧を身に纏い、白い鱗の兜をかぶって堂々と軍の先頭に立つ、この精悍な顔つきの男がタケルの父であり、町長のキョウである。目元が少しタケルに似ている。


「それはこっちの言葉だ。我が軍が敗退し、大切な将校が殺されたのもお前が私の命令を聞かず、さらには敵に投降したことが原因と帰ってきた兵士から聞いた。そのお前が敵の手先のようになって我が前に現れた。これこそどういうことかと聞きたい」


タケルは、表情も変えず、しらっと話す父を睨みつけた。


「話は簡単です!あなたの命令通りしたからです!イの塔の街をカナヤマの兵から解放することがあなたの命令だった!我々がイの塔の街に攻め入ろうとした時には、すでにイの塔の人々によりカナヤマの兵は排除され、街は解放されていたのです!我々の目的はすでに達成されていたにも関わらず、部下の将校は嘘だと決めつけ、街に攻め寄せた!その結果、街を攻めとることもできず、敗退し兵の半分以上が捕虜となってしまった!」


キョウはフッと鼻で笑う。


「お前が先に捕虜になり、イの塔の街のやつらに脅されて将校や兵に攻撃を停止せよと言った。これで前線が混乱し、敗退するきっかけを作ったと聞いたぞ?」


キョウはバッとマントをはためかせ、タケルを指差した。


「敗退の原因はタケル!おまえだろうが!」

「何と!?父上の命令を守るために将校を説得したが、父上からは街を攻める命令を受けていると皆から拒絶され、軟禁されました!それを赤髪の英雄クシナ殿やイの国の英雄スザ殿に救助され、カナヤマの兵はもういないことを聞きました。我々の戦いは結局カナヤマのやったことと変わらないことがわかったのです!だから戦いを止めた!あの戦いに正義はない!それだけじゃない!今、ここに軍を進めていることにも正義はないんです!」


タケルは父を見るだけではなく、その背後にいる兵士に向かっても視線を向けながら叫んでいた。


「皆の者!こやつはイの塔の街の住民になりすました、カナヤマのやつらに騙されている!タケルの言うことは嘘である!」

「違う!嘘じゃない!イの塔の街はカナヤマの勢力を追い出し、カナヤマの町の軍も倒してダンジョンの氾濫も治め、今はカナヤマの町と対等の関係を結び、イの国となっている!我々北の湖の町も対等の関係を結んでイの国になってはどうかと言われたのだ!」


キョウはニンマリと笑った。


「見たことか!嘘の塊ではないか!何がカナヤマの町の軍を倒しただの、ダンジョンの氾濫を治めただのほらを吹きよる!最後にはイの国とは!嘘の上に嘘を塗り固めておるではないか!」


タケルは、青のマントを跳ね上げ、左腰に手をやった。


「私は、嘘はつかぬ!この青の剣、タキ様の名に懸けて私は真実だけを述べていると誓う!」


叫びながら、タケルは剣を抜き、天に掲げた。剣から青い光が天に伸び、弾けた。それは水だった。水が空に散って、ぼんやりと丸く輝く。そこにゆっくりと影が浮かび上がり、1人の女性が現れた。


『北の湖の町の子らよ!私はタキ。北の湖の町を作った開祖、青髪の英雄に力を与え町の繁栄に力を貸した者であり、新たな青髪の英雄タケルに、人々を守る力を与えた。そして私が認めよう、タケルが嘘をついていないと』


兵士全員が空に浮かんだタキに目を奪われていた。


「そんなバカな・・・」


キョウはタキの姿を見て、知らないうちにつぶやいていた。


『我はすでにイの塔のイズ様と話をして、北の湖の町が対等の関係を結びイの国の一員になることを了承した。共に歩むことこそ、湖の町の住民にとって大いなる幸せをもたらすと確信している。タケルよ』

「はいっ!」

『北の湖の町の住民が幸せになるよう、そなたが中心になって導きなさい』

「必ず幸せにしてみせます!」

『そして湖の町の我が子らよ。タケルを信じついていきなさい。共に幸せになれるよう、タケルも住民も互いに協力してください。そして他の町の人とも戦うのではなく、お互いに手を取り合って協力することを願っております』


兵士たちは、口伝されていたことを思い出していた。

湖の守護主タキ様。町を作るために力を与えて下さった方。そんなことなど信じてもいなかったが、初めてその美しい姿を見て、声を聞いて、知らないうちに全員が膝をついて、頭を垂れていた。


「何を言うか!」


キョウは剣を抜き、頭上のタキに剣先を向けていた。


「今までどれだけ我慢したと思っているのだ!どれだけみすぼらしいと思ってきたと!立て!兵よ!立つのだ!立って目の前のイの塔の街を滅ぼし、我がものとするのだ!」


誰も立とうとはしなかった。


『キョウ、あなたはまだわからないのですか?』

「黙れ!今まで姿も現さず、手助けもしなかったくせに!今頃何を言うか!立て!兵よ!今こそ好機!今こそイの塔の街をほろぼ・・ガガガァアア!」


キョウは喉をかきむしり始めた。


「父上!?」


突然キョウの体が上に向き、大きく反った。


「何かおかしい!」


スザは叫び、タケルの元に走り始める。クシナたち3人もその後を追いかけた。

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