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第51話 父と子と・・・⑤

ドンッ!


音と共に部屋中を揺るがす振動が部屋を包んだ。

タキが杖を突いて椅子から立ち上がっていた。周りの鱗騎士たちがざわついている。


『言わせておけば・・・ならば、タケルよ!我が協力するに足りる男か、それをここで証明してみせよ!』


タキは、タケルの前で青く輝く光を杖で指した。


『そなたからも見えるように、剣があるであろう。それが開祖に与えた力の結晶、青の剣だ。それを見事使って見せよ!我が認めるくらいに使えるならば・・・』


タキは笑顔でタケルを見つめた。


『我も母イズ同様、タケルが道を外れぬよう、ともに歩むと誓おう!』


その言葉にタケルは頷き、青い光の中に左手を伸ばす。そして剣を掴んだ。


「グアアアァ!」


タケルは悲鳴を上げた。

手から何かが皮膚を、体を突き破りながら入り込む・・・

激痛だ。


『やはりやめるか?タケル、そなたの人を守りたいという話、それは口だけか?』

「うぐ・・・ぐぅ・・・」


タケルは唇を噛みしめ、悲鳴をこらえる。唇から血がしたたり落ちた。激痛が腕から胸を過ぎ、全身を包んだとき、タケルは見た。



青髪の英雄だった。

湖のダンジョンを踏破し、タキに出会った。

人々を助けたい、魔物を一掃して幸せに暮らせるようにしたい。その思いが通じて青の剣を手に入れ地上に戻り、地上に巣くう魔物を撃退した。人々は英雄と祭り上げた。


魔物がいないと聞きつけ、人々が集まり、自然と村になり町になった。

腕利きの少年がいると話題になった。それは赤い髪の少年だった。共に戦い、名を上げていった。赤髪の少年は青年へと成長し、生まれたところをこの町のようにしたいと、踏破するためイの塔に向かった。


青髪の青年は中年となった。結婚もして、子供も大きくなった。

この子にすべてを与えたいと思い始めた。

すべてとは何だ?この町か?いやもっとだ。

領土を広げるよう人々を戦いへと誘導していった。町は拡大していった。だが、その勢いは鈍っていった。


自分の声は、人々に届かなくなった。孤立し始めた。子供も青年になろうかとした頃、妻が死んだ。

拡大主義を掲げる青髪の英雄についてくるものはいなかった。子供のためにと戦っていたはずなのに、子供にまで距離を取られていた。


ある日、赤髪の英雄がイの塔の踏破に力を貸して欲しいと言ってきた。踏破できれば、あなたが治めればいい、そう言って。共に塔を登り、魔物を駆逐していった。気付けば一人だった。魔物に囲まれていた。さっきまで威力を発揮していた青の剣は、普通の剣になっていた。


なぜこうなったんだ。俺は人々を幸せにするために戦っていたはずだ。そうか、途中からこの力で人を支配し、すべてを手に入れたくなっていたんだ。子供に渡すなんて、都合のよい言い訳だったんだ。ただ、この力で世界を手に入れたかったんだ。


だから、この力が子孫には引き継がれないよう頼んだんだ。

体を引き裂かれながら・・・子供や孫たちが俺のようにならないように・・・

力なんてなければ、こんなつらい思いはせずにすんだんだ・・・

力なんてなくても、みんなと一緒に小さな幸せを得ていればよかったんだ・・・


だから、タキ様、この青の剣は、もう誰にも与えないようお願いします。

俺のような人間が二度と生まれないように・・・


それでも、お前は力を手に入れたいのか!?俺のようになるかもしれないのに!?



流れてくる青髪の英雄の言葉に、タケルの心は反発した。


力なんかなくても人は権力に溺れ、人々を不幸に導く!父がそうだ!

父は北の湖の町を破滅に導こうとしている!それを黙って見てはいられない!それを止められる力がこの青の剣なら俺は手に入れる!


でも俺は力にも、権力にも溺れない!だって、仲間がいるから!同じ境遇の仲間たちが!

俺は一人じゃない!仲間たちが必ず間違わないようにしてくれる!

俺だって仲間が間違わないようにする!タキ様だってそうでしょう!?


タケルは青の剣を左手に掴み、立ち尽くしていた。

さっきまで痛みに耐えるように震えていたのに、今は静かにただ立っているのだ。青の剣を包んでいた光もいつの間にか治まり、消えていた。


「タキ様、俺は人々を守ります。だから力に溺れて人々を不幸にするようなことはしません。仲間たちと共に歩み、力を間違って使わないと誓います。だから」

『わかった。母イズに誓おう。我はタケルが人として道を外れないよう導くことを』


タケルは青の剣を抜いた。スザが見ている間に、刀、レイピア、槍・・・と剣の形が変わっていく。


「使い方はわかります」

『そうだな。それを抜けただけで、そなたが青の剣を使いこなせるとわかっているよ』


タケルはタキに大きく頷き、スザたちに振り向いた。


「お待たせしました。行きましょう、父を止めに・・・」


3人は戻るため、来た道に向かって歩き始めた。


『タケルを頼む』


その声に、スザとクシナは振り向き、頷く。


「仲間です。力の使い方を間違えさせるようなことは絶対にさせません!」

あっ!


スザは頭をカキカキしながら、


「すみません、タキ様。イズから必ずするようにと言われていることがありました。お側に行ってもよろしいですか?」

『母上からか?よい、こちらへ』


ちょっとごめんねと2人に言って、スザはタキに向かって歩き始めた。中々浮いている感覚になれないので、ゆらゆらとしながらだが。やっとタキの元に近づいたとき、


「あっ!」


スザはバランスを崩した。倒れまいと、とっさに手を伸ばす。

バイーン・・・とは音はしなかったが、手にとてつもない弾力とふくらみを感じた。


『・・・これが、母上がしてこいと言ったことか?』

「えっ!?」

『おー、繋がった!さすがスザ!こいつ、ずっとこちらからの信号を拒絶していたから、話すには接触する必要があったんだよ!ありがとさん、スザ!』


部屋全体に、イズの場違いな言葉が響いた。


『母上、お久しぶりです』

『おー、久しぶり。ん?何か怒ってる?』

『母上がこのスザなるブック保持者に私の胸を触れと言われたのですか?』

『胸・・・あー、あれよ、あれ・・・昔からよくいたじゃない、そういう運を持って現れるやつが・・・』


タキは、キッとスザを睨みつけた。

あ・・・死ぬ・・・

右手に持っていた杖の玉が尋常じゃないくらいに青く光った。


『このラッキースケベが!』


スザはその場から吹き飛ばされ、3人一緒に元来た道へと正に飛んで戻って行った。タケルとクシナはタキに手を振っている余裕はあったようだ。


スザはぐるぐると回転しながら、手が離れた時に薄い布がはがれて、その巨大な本物を拝むことができたことは黙っておこうと心に誓っていた。

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