第50話 父と子と・・・④
「ダアアァ!」
「キャアアァ!」
スザとクシナは穴の中を、絶叫を上げながら滑り落ちていた。下に光が見える。スザは腹ばいのまま頭から、クシナは座ったままの形でお尻から光の中に滑り込んだ。
2人は、ポヨン、ポヨンと何度か跳ね、宙に止まった。浮かんでいた。
「水の中!?」
でも息ができる。びっくりして横を見ると、クシナも驚いたように目を見開いてスザを見ていた。
『よく来た、我が母イズに連なるものたちよ』
正面を見た。タケルが同じように浮いている。その更に前、青い光の中に美女がいた。
スケスケの服を着た巨乳の金髪美女が。豪華な椅子に座り、右手に長い杖を持っている。杖の先には青い光を放つ玉があった。
その左右には鱗を纏った騎士たちがずらりと立っている。よく見ると、顔も鱗でおおわれていた。
『そなたたちは、そこで見ておいてもらおう。これは我とタケルの話だからな』
タケルは振り向き、スザとクシナを見て大きく頷き、また正面に戻る。
「タキ様。お招き頂き、ありがとうございます」
タケルは深くお辞儀をした。
『力を欲して、わざわざここまで来るとは・・・来るのではなかったと後ほど後悔すると思うぞ。あんな大それたこと考えるべきではなかったと・・・田舎でただ妻を得て子を成し、寿命を全うすべきであったと』
タキは動きもせず、無表情でタケルを見つめる。
『今ならまだ帰ることもできるが、どうするか?』
「無論、私は力を得るために来ました!そのためであれば、何でもします!」
『本当か?』
タケルはタキを睨みつけるように見て大きく頷いた。
ふん・・・と鼻で息をして、杖を前に押し出した。
先の魔石から光が放たれる。その光は丸く、大きく広がり、タケルの前で停止した。体を包むほどの大きさだ。その中に剣が浮かんでいた。
『タケル、そなたが望む力。それは人の力を遥かに凌駕するもの。そんな力を持った者は、心を壊し、狂い、やがて人を、自分の愛する者も破滅に導く。かつてのそなたの祖先もそうであったように・・・』
タケルは目を見開いた。
『この話は伝えられていないか・・・そなたたちが開祖と呼ぶ者、敬意を評して青髪の英雄と呼ぼうか・・・彼は最初我の理想とした統治者であった。赤髪の英雄たちと協力してこの地から魔物を一掃し、町を作った。しかし徐々に与えられた力に振り回され、飲み込まれ、魔物のみならず人をも自分の大いなる望みのために殺し始めた。イズ様と話し合い、イの塔の踏破した者こそがこの地を治める者と思わせ、イの塔の中で自らの部下や子供、赤髪の英雄に誅された』
タケルは動かない。じっとタキの言葉を聞いている。
『そなたが得ようとしているのは、そのような人を不幸にする力だ』
「私は、そうは思いません!」
クシナだ。クシナが突如タキに叫んだ。
「私は、赤髪の英雄様から父の代まで受け継がれた力を得ました。それは私にとって大きすぎる力です。でも、私は人を不幸にするような力だと思っていません!使い方次第です!炎は、寒いときには人々に暖を与え、料理にも必要です。でも、家や森を燃やし、人々を殺す一面もあります。使い方を間違えなければ、人を幸せにします!タケル殿が人の道を外れないよう私たちが導きます!」
クシナの言葉にタケルはありがとうございますと小さく呟いた。
『感動の言葉だな。しかし・・・』
その言葉とは裏腹に、タキの表情にはなんの変化もない。冷静にただタケルを見つめているだけだ。
『ブック。わが母イズが赤髪の英雄に与えた世界を取り戻す力。その力を重荷に感じた・・・違うな・・・青髪の英雄と同じように狂うと悟った赤髪の英雄は、賢明にもその力を遠ざけた。今は、そこにあるようだがな』
タキは杖を少しずらし、スザを指した。
『話がそれたな。そんな英雄と言われていた男たちが狂い、逃げ出すほどの力を得て、本当に御せると思うのか?タケルよ』
すっと手が上がった。スザだ。
「ちょっと、いいですか?イズの娘か仲間か知らないが、人を非難するようなことばかり言って!クシナも言っていたように人を不幸にも幸せにもするのは、その力の使い方次第だ!俺もクシナも人から英雄と呼ばれるほどの力を得た。その強大な力のせいで俺も変わるかもしれない・・・そうイズに言ったんだよ!イズはなんて言ったと思う?」
タケルもクシナもスザを見つめていた。
「イズはな、人の道から外れるようには絶対にさせない!そのために俺と共に歩もう・・・そう言ってくれたんだよ!」
初めてタキの表情が変わった。目を見開いた、驚愕の表情に。
「タケルが自らの意志で人を守るために変わろうとしている時に、あんたは恐れさせることばかりを言って、手を差し伸べようとかそうならないようにしようとか、そんなタケルを守ってやろうって気はないのかよ!」
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