第41話 敵包囲網を破れ②
2021.8.4一部手直し実施しました。
流れに変化はありません。
ドンッ!ドコドコ、ドンッ!
太鼓の音が鳴る。音に合わせ、ゆっくりと北の湖軍が進軍してきた。音とその威容で圧倒する気だろう。これからが本気の戦いだと言わんばかりだ。北門の手前50mほどで進軍は止まる。そこで、声が発せられた。
「盾兵!矢じり!」
「オウッ!」
その指示に、盾を持った4人が先頭になり、他の16人が8名ずつに分かれた。そして8名が先頭から離れるに従って広がっていく。まさに矢じりの形。その真ん中に5人ずつ、10人でまとめられた木々を、ロープを介して抱えた兵士が配置された。土壁と門を破壊するための兵士、破壊兵だ。その破壊兵が盾に隠され、いや守られているのだ。
残りの兵士はそれを後ろから扇形で囲んでいる。弓が主体で攻撃を仕掛け、盾兵への攻撃負荷を減らす構えだ。
ノブがマイと共に指令所でその様子を映像で見ている。イズが黒弓の攻撃ができるようにモニターを設置したのだ。ユウは北門の監視櫓からその様子を見ている。土壁には中から弓が撃てるように細工してあり、何人かがすでに弓を構えていた。
「攻略部隊!前へ!」
ドンッ!ドコドコ、ドンッ!
中年将校の命令に盾兵と破壊兵は一体となり、太鼓に合わせて進軍する。
「構え!」
ユウは指示を出して自分も魔弓を構えた。まだ盾兵が破壊兵を隠したままだ。どんどん太鼓に合わせて近づいてくる。
近づけば近づくほど、土壁の上から破壊兵が見えてくる。盾の高さが不足しているのだ。
「放て!」
ユウは号令と共に自らも魔力の矢を放つ。破壊兵の後方、何人かが矢によって倒れた。後方の兵士がすぐさま現れ、ロープを掴んで木を抱える。
もう一度放とうとした時、後方の軍から一斉に矢が放たれた。土壁に突き刺さり、ザシュッザシュッといくつもの音を立てる。ユウたちは矢を放つ頻度が落ちてしまった。
矢じりの攻略部隊が北門の前に築かれた土壁の前に到達した。前の4人がさっと左右に分かれる。
ドコォ!
破壊兵の10人が木をロープで抱えながら突進し、土壁に激突させたのだ。
聞きなれない音に、
大丈夫なの?クシナ様ぁ・・・
街の住民がざわめいた。
『街の我が子らよ。心配するでない。我と我の信ずるものを信じてほしい。我らは必ずそなたらを守ると誓おう』
おお!イズ様!イズ様の声だ!イズ様が守って下さる!
イズの言葉に住民は落ち着きを取り戻したようだ。
先ほどの一撃で、北門を守る土壁に打撃点を中心にして放射状に広がる大きなヒビが入った。
『マイ』
「はい。イズ様わかっています。魔力も半分以上回復しました。大丈夫です。お任せください」
マイの表情に迷いはない。恐れも力みもないようだ。
ユウも事前の指示に従って既に監視櫓を下り、北門の内側に5人の槍隊と共に待機している。
破壊兵たちが一度下がり、再度突進した。
ドバコォ!
激しい音と共に北門前の土壁が崩壊した。
オオオォ!
後方の兵士たちが雪崩を打つように、北門に突進してくる。
同時に、地面が盛り上がった。
ズオオオ!
後方の兵士の前、矢じり部隊に合流する直前に土壁が立ち上がったのだ。この壁によって、矢じり部隊と後方の後詰部隊が隔絶されてしまった。
後詰部隊が土壁を壊そうと槍で突く直前、さらに土壁が地面から立ち上がる。1層、2層、3層と増え、5層の土壁が後詰部隊の前にそそり立つ。
北門と後ろの土壁に閉じ込められた矢じり部隊は、一瞬動きが止まった。そこに地面から何本もの柱が湧き、伸びる。それらは盾をぶち破り、自らも砕け散った。盾兵の態勢も崩れたところに、北門が勢いよく開いた。
「突撃ィ!」
ユウの声に槍を水平に構えた5人が真っすぐ突き進んだ。盾をなくした盾兵は貫かれ、バタバタと倒れる。槍の5人が引く。そこに後方から一人飛び込んできた。ユウだ。
ユウは盾兵の懐に入り、剣を振るい、移動してまた振い、突く。身をかがめると、引いていた槍の5人が突っ込んでくる。半分以上負傷して倒れた時、残された破壊兵と盾兵は両手を上げ投降した。
土壁の中から、
やったぞぉ!勝ったぞぉ!オオオオオ!
勝どきが上がった。
老年将校は中年将校と共に部隊を引き上げさせた。
夕暮れ、陣に戻ってきた老年将校は、自分の椅子を蹴り上げていた。
北の湖の軍は、この1日で100人のうち30人以上を失ってしまったのだった。
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