第40話 敵包囲網を破れ①
「退却!一時退却せよ!」
北門に張り付いていた兵士たちは、その号令を聞いてゆっくりと退却を始めた。午後の戦闘開始から2時間ほどが経過していた。退却時乗じて追撃で来るような隙はまったくない。対応できるよう、殿が常に街側を向いて引き上げていた。
「とりあえず、我々も休憩せよ」
ノブが各所に連絡を回す。監視櫓だけは交代制だ。南門からユウも引き上げてきた。今、北門の少し入ったところの道路上に指令所が置かれている。簡素なものだ。ただ見慣れない箱みないたものが置いてあり、そこからイズの声が時々流れていた。この指令所にはノブがおり、その隣でマイが地面に布をひいて、ぐでぇと横になっていた。
イの塔の街は急遽周りすべてに土壁が設置されていた。イズからの命令でタケルが引き上げた後、すぐさまマイが魔法で作ったのだった。休み休みだったので、南門周辺が後回しにされたが、南門への攻勢が少なかったため、何とか土壁の設置が間に合ったのだ。
そのせいで、マイは戦闘開始して序盤ですでに休憩中である。魔力が枯渇したのだ。夕方には半分くらい回復するだろうとのイズの見込みだ。そのためにご飯や飲み物をいっぱいマイは取らされたが。
『イの塔の街の住民よ。とりあえずは敵を退けた。よく頑張った。しかしまだ敵は何の被害も受けていない。これからも十分に警戒せよ』
おおお!
イズの声に、住民は気勢で答えた。まだ戦意は高いようだ。
「イズ様、ありがとうございます」
ノブは目の前に置いている箱に声を掛けた。
『気にするでない。で、こちらの被害はどうだ?』
「今のところ、死者はいません。傷を負った者は数名いますが、大したものではありません」
『そう・・・ちょっとユウはおるか?』
「え?・・・はいっ!おります!」
ユウは椅子からシャッと立ち上がり、気を付けをした。
『ちょっと渡すものがある。イの塔に来ておくれ』
「はい!ただいま!」
ユウは指令所をダッシュで出て行った。
ユウはイの塔の1階に走り込んで、
「イズ様!ユウ、ただいま参りました!」
『いつもの映像室に来ておくれ』
「はっ!・・・失礼します!」
返事をして、映像室の扉を開けた。画面には金髪美少女のイズ様が笑顔で待っていた。
顔を赤くしながらユウは一礼して入ると、
『そこに置いている、弓と矢を持っていきなさい。ユウなら使えると思うわ』
机の上には弓が2つと、矢が10本入った筒があった。
『赤い、格好いい弓があるでしょう。手に取ってくれるかしら』
「はい!」
赤い、装飾の凝った弓を取る。握った途端、
「うっ!?何か・・・あれ?」
手が一瞬スッとした。
『それ、魔弓なのよ』
「えっ!?」
『大丈夫よ、害はないから』
一瞬手を放そうとしたが、イズ様の笑顔にほっとして握りなおした。
『なんか名前があったけど、忘れたわ。それ、魔力を矢に変えるの。だからユウの魔力が尽きるまで矢を撃ちまくれるわ。とりあえず貸すから、この戦いが終わったら返してね』
「は、はいっ!お借りします!」
イズの口調が砕けていたが、ユウは弓に興奮して細かいことは耳に入らなかった。
『もう一つの黒弓と矢。これはノブに渡して。この矢筒、時間がたつとなぜか矢が10本に戻っているのよ。あとこの黒弓は、射る相手を見て矢を放つと絶対に当たるのよ』
「・・・なんかこっちの方がいい気がします・・・」
イズは笑った。
『どっちも魔弓、優劣つけ難いわ。黒弓はこの矢とつがいなのね。他の矢では普通の弓と変わらない。矢は戻るのに時間がかかるから、前線向きではないわね。肝心なときの狙撃用よ。使いどころはノブならわかるはず』
「了解しました!」
ユウは弓と矢を掴んで、指令所へと戻って行った。
「どうだ?」
老年将校は、一心不乱に作業を進める集団に声をかけた。
「はっ!あと少しでできます!」
「よしっ!」
と声を出して大きく頷き、中年将校を見た。
「盾部隊は?」
「間に合わせですが準備できました」
老年将校はニヤリと笑う。深い皺がますます深くなり、不気味だ。
「兵士諸君!よくやってくれた!先ほどの戦いで大した戦力もないことがわかった。我らの戦いを困難にしているのは、あの土壁だけだ!それもすでに対策済みだ!北門を一気に攻めて、夜は街の中で過ごそうぞ!」
老年将校は剣を抜き、高く掲げた。
オオオオ!
それに呼応し、気勢を上げた。
その様子をイズは地下のモニター室ですべて見ていた。話す内容もすべて聞こえている。
「残念!次の手もお見通し!」
イズが見つめるモニターには、体の2倍ほどの高さがある盾を持った兵士が20人ほど映っている。そして、その横には先端をとがらせた木を何本も縛り、まとめたものが兵士たちの足元にあった。
「さあ、この戦いでスザの配下たちに自信をつけてもらいましょうかね」
「ノブ、マイ、ユウ、敵が再び攻めてくるわ。そこで対応を言います」
指令所が映る画面には、緊張の面持ちの3人が気を付けをして立っていた。
『はいっ!イズ様!』
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