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第38話 北の脅威⑦

2021.8.4一部手直し実施しました。

流れに変化はありません。

再びタケルが北門に現れた。


「時間になったぞ!北門からも南門からも兵が抜けていないことは承知している。では今から戦闘だ!」


青のマントをバッとひるがえそうとした時、


「待たれよ!我は街の代表、赤髪の英雄クシナの代行をしているノブと申します!」


ノブは北門監視櫓からタケルに声をかけた。


「我々はすでにカナヤマと和解し、この街を元通り管理しております。イの塔のダンジョンマスター、イズ様も復活され、我々を助けてくださると言われております!平和が戻った我が街に宣戦布告されるとはどういうことでしょうか!」


驚くタケル。


「何!?それは本当か?」

「今、赤髪の英雄はカナヤマへ最後の調印をしに行っており、今日か明日には戻ってきます。その時にあなたがこちらの言葉を信用せず戦闘を仕掛けたとすれば、どのようになるかおわかりでしょう?炎の魔法があなた方を燃やし尽くすことは確実です。それでも戦うと言われるなら、受けて立ちましょう!さあ!どうされます!?」


タケルは後ろに控えた旗持ちと槍持ちを見る。2人はうろたえるだけだ。


「・・・わかった!ひとまず休戦だ!」


それ以上何も言わず、バッとマントをひるがえし、そそくさと立ち去った。


「なんか、拍子抜けね」


逃げるように去る3人を見ながら、マイの言葉にノブは苦笑した。


「今までの赤髪の英雄様の力のおかげだよ。今まで外に出て強い力、理不尽なことに対する姿勢を見せてきた。その見えない力が抑止力となったんだ」


うっとりとノブを見上げるマイ。その横でユウはほっとしながら、


「戦ってもないのに休戦なんて笑えるなぁ。あとでスザに教えてあげよう・・・」


と、のんびりつぶやいていた。



「そんな嘘の言葉に騙され、引き返されたのか!?」


老年の男性将校がドンッと机を叩く音に、タケルは少しびくついた。

本当に老年将校は怒りに震えていた。それはタケルに対してなのか、自分に対してなのか本人もわかっていない。


門から誰も引き上げていないことがわかっていた。あとは開門させるか攻撃すればよいだけだった。でも言葉が発せられた。この状況であれば時間稼ぎととらえ攻撃を仕掛けると考えていたのだ。しかし、若様として甘く育てられていたことが、人として正常な部分を残していたのだろう。


人間としては正しい。

だが、この目の前にぶら下げられた滅多にない状況を逃さないのが支配者というものだろう。その支配者をも超える善良な人間性を軽く見ていた。自分が一緒について行かなかったのが失敗だった。一緒に行けばどうとでもできたのに。


「う、嘘とも言い切れないだろう?血気にはやって戦闘に入り、本当に赤髪の英雄が帰ってきたら、どうするんだ?北の湖の町まで彼らはやってくるぞ!?」

「赤髪の英雄が死んだことは確認しております」


タケルの右手に座る中年将校が頭を下げた。


「赤髪の英雄クシナと言っていた。それがカナヤマに出向いて和解し、今日か明日には帰ってくるというのだ」

「クシナとは娘の名です。やはりすでに赤髪の英雄は情報通り死んでおります。名ばかりの娘に力はないでしょう。攻めるべきです」


中年将校はもう一度頭を下げた。


「名ばかりの赤髪の英雄など、恐れるに足りず!攻めようぞ!」


老年将校は椅子から勢いよく立ち上がり、右手を突き上げながら椅子に座った男性たちに視線を向けた。


「攻めるぞ!」

「おお!」


タケルを除いて全員が立ち上がり、拳を突き上げ、気勢を上げた。


「そなたたちは、何を言っている?これはカナヤマの勢力からイの塔の街を解放する戦いだぞ?カナヤマの兵はもういないと言っているのだ。我らの戦いに正義がない恐れがあるのだ!もし彼らの言っていることが本当だったら、我々はカナヤマと同じことをし、更に赤髪の英雄の怒りを買うのだぞ!?わかっているのか?」


部下たちを諫めようとタケルは立ち上がり、叫んだ。

タケルを見る部下たちの目は冷静だった。老年将校が口を開く。


「無論わかっております、若様。カナヤマの兵がおれば殺し尽くし、イの塔の街を解放ではなく、我々で占領する。もし彼らの言っていた通り、カナヤマの兵がいなかったら、門を破りイの塔の街を占領する」

「どちらにしろ、我々が占領する。これはキョウ様の指示でございます」

「父上の指示だと!?」


言葉を引き継いだ中年将校は、タケルに深く頷いた。


「ダメだ!それはダメだ!人の道に外れることをすれば、我らは守護主タキ様の怒りを買うぞ!」


老年将校は笑いながら、首を小さく横に振る。


「そんな、お姿を見せられない守護主様など、誰も信じておりません」

「この髪を見よ、この髪を。言い伝えのように我はタキ様の祝福を受けているのだ。タキ様は居られるのだ!」


老年将校が机の下座に控えていた兵士に首を振る。兵士たちは立ち上がり、タケルを囲んだ。


「若様に失礼のないようにな」


老年将校はそう言って陣幕から出て行った。


「赤髪や青髪など、世迷言だな・・・」


その呟きはタケルには聞こえなかった。


「ダメだ!イの塔ではダンジョンマスターのイズ様が復活されたと言っていた。イズ様はタキ様の主だぞ!それすらも忘れたのか!」


叫ぶタケルの声は、誰の心にも届かなかった。


「さあ、我らの宿願を果たそうぞ!イの塔の街を我らの手に!」

オオオオゥ!

その声と共に北の湖の軍が動き始めた。田や畑を踏みしめ、進軍する。



その様子をイズは地下のモニター室で見ていた。

「午前中しか時間を稼げなかったなんて・・・あのタケルって子だけが何も知らされていなかったようだし、仕方ないか」


進んでくる軍隊と陣内に軟禁されたタケルの姿を見て、イズはつぶやいた。


「でも、まああのタケルって子が戦闘に参加しないのは、こっちにとって好都合。たった100人程度の軍隊よりもあの子が一番厄介だったからね」


そこに連絡が入る。


『こちらスザ。マスターの部屋らしきところに着いたんだけど・・・』

「さて、どうしましょうか・・・スザたちを戻すことは簡単。でもそれじゃあ、2人に頼るしかできない子しかいなくなるわね・・・」


均整の取れた眉が大きくゆがんで、ムムム・・・と唸っていた。

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