第1話 赤く染まる街①
ダンジョン。その形は様々だ。
洞窟や地下迷宮、森であったり、湖であったり、塔や城であったりもする。どのようにしてかはわからないが、ダンジョンからは魔物が生まれ、ダンジョン内で収まりきらなくなると、ダンジョン外部へと溢れ出す。そして人々を襲い、食い、繁殖していく。魔物を殺し、ダンジョンの外へと魔物が溢れないようにすることが、人々が生きていく上で必要なことだった。
「イの塔」と呼ばれているものも、かつてはそのダンジョンだった。
塔の外壁はまるで今作られたばかりかと疑うほど白く、太陽の光をキラキラと反射している。何百年も前から塔がそこにあるとは思えないほどの綺麗さだ。直径は30mを超え、高さは背後の小さな山よりも高い。およそ60mくらいだろう。巨大な円筒の塔だが、上に向かっていくほど徐々に直径は小さくなっている。
「イの塔」は、長い間ダンジョンとして機能していたが、赤髪の英雄によって解放された。赤髪の英雄はダンジョンマスターと交渉し、ダンジョンとしての機能を停止させ、塔の勢力範囲で人々が暮らせるよう魔物の発生を止めさせた。そしてその代わりに肥沃な土地の醸成と野生動物の育成にその力を回すようにしたと言い伝えられている。
イの塔の街は、その名が示すように解放されたイの塔を起点として広がっていった街だ。
イの塔の背後には小さな山があり、その裏は海で、北面・南面・東面には平野が広がっている。平野の真ん中には川が流れており、これを中心にして街は形成されていた。イの塔を要として、扇形に街は広がり、端には木で作られた柵が設置されている。南の端は河口があって海に繋がり、東の端は山々が連なっている。北面は遠くまで平野が広がり、小高い山とその先には見えないが海かと思えるほどの大きな湖が平野に流れる川へと繋がっている。
人々が増えるに従って街は外側へと向かって拡張されていったが、北面はまだまだ手付かずの平野が残っている。
言い伝え通り、イの塔が解放されてから長い年月塔からは魔物は生まれていない。耕せば必ず大地は実り、どんどんと増えていく人々への食料が不足するということは起きなかった。
外敵がなくなれば、人々の関心は内へと向かう。肥沃な大地をめぐって周辺地域の人々と小規模な戦闘が何度も生じた。赤髪の英雄とその子孫はイの塔の街を守ることで自然と人々を吸収し、図らずも大きな街を形成することになった。
周辺地域からイの塔の街への人々の流出は止まらず、それは敵意となってその地に残った人々に蓄積されていった。
村や町の長たる人々は、イの塔の街人たちが自ら戦いを仕掛けることがないことを、勢力を拡大させるためには戦わないことを、食物の育て方や狩りの仕方を教えてくれることも知っていた。しかし、それを知らない、わからない人々がほとんどだった。自分たちの暮らしと比較し、ただ嘆く。頭を下げて教えを請わず、助けてほしいとも言わず。
自分たちの身の惨めさ。
物が豊富で笑顔の街の人々、生きるのも苦しい貧困にあえぐ自分たち。羨望と妬みがただ頭の中で渦巻き、無限に沸き上がる。それはただ憎しみしか生まなかった。
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