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第35話 北の脅威④

2021.8.4一部手直し実施しました。

流れに変化はありません。

翌日木の実や肉で朝食を取り、スザたち4人は森ダンジョンに向かう。

少女の救出とダンジョン踏破が目的だ。森ダンジョンの入り口で気配を探り、魔物がいないことを確認して土壁を取り払う。


「行こう」


スザの声に全員が頷く。ナギを先頭にその後ろにスザ、更にその後ろにクシナとミナミが並んでいる。ナギとクシナ、ミナミを頂点とした三角形で、その真ん中にスザがいる形だ。


森とダンジョンの境界線を越えると、景色が一変した。

広い平野が続いている。足元には草が生い茂っているが、ほんの少し数cmの高さだ。ブーツに引っかかることもない。


平野にところどころあった茶色の塊が動き出し、ゆっくりと立ち上がった。それは何十体ものオークだ。一瞬、奥の方に洞窟のようなものが見えたが、オークたちの姿で隠れ、もう見えない。


「あいつらの後ろに洞窟みたいなものが見えた。そこに少女がいるのかもしれない」

「じゃあ、速攻で突破するわ!」


クシナは宣言し、ナギより前に走り出た。


「行けぇ!」


周りの陽炎から噴き出る炎の刃。いくつもの半月型の炎の刃が横並びのオーク群に襲い掛かった。首や胴体、足や腕に直撃したかと思うと、切断し更に炎を噴き上げる。

見えるすべてのオークが切り裂かれ、炎に包まれ、倒れていく。


「すごいですぅ♡」


キャッキャッ♡というミナミの声に苦笑いしながら、


「アースウォール!」


スザが自分たちの進行方向、燃え上がるオークたちの前に土壁を作った。


「アースハンマー!」


さらにその壁に地面から柱が飛び出してきて、壁にぶち当たった。と同時に柱は粉々になり、壁は前に倒れ始める。

燃え上がるオークたちの上に壁が倒れ、ズズンッ!という地響きと共に道ができた。


「スザ様、さすがですぅ♡」


4人は炎の川の上にできた土壁の橋を走り抜け、遠くに見える洞窟を目指す。

あともう少し!突如洞窟から影が現れた。


「停止!」

「アースウォール!」


ナギの指示とスザの魔法は同時だった。


ドガアッ!


音と共に地面から現れた壁が、瞬時に砕ける。石、いや岩を投げてきたのだ。すぐさまスザは二重の土壁を背後に出現させ、振り返りながら、


「2人は隠れて!」


すでにナギは壊れた土壁の右に回り込み、剣を抜きながら敵に接近していた。

スザは土壁の左から回り込む。


見えた!


2mを超える魔物。皮の鎧を胴体にまとい、右手に大剣を、左手には小さな岩を握っていた。潰れた鼻と下顎から生える二本の牙。オークより一回りでかい。


魔物名:ハイオーク 特徴:オークよりも高い知能、身体能力を持つ。食べることで怪我が回復する 備考:肉が美味


ナギの鋭い剣戟を、大剣を振るってはじき返す。勢いでナギはたたらを踏み、態勢を崩した。その隙を逃さずハイオークはナギを両断しようと大剣を大きく上に掲げ、振り下ろす。


「マドゥ!」


足元で生じた泥沼のせいで軸がぶれ、大剣がナギの横にドスンと力なく落ちた。


「一旦引いて!」


スザがハイオークの右横に瞬時に現れ、鞘抜きから右斜め上に剣を振るう。スパッ!と腕が切断され、大剣を握った右腕が二の腕の中ほどから地面に落ちた。その隙にナギは地面を転がり、ハイオークから離れる。

スザはハイオークの右肩を蹴った反動で飛び退りながら、


「サンダー!」

ガガピシャッ!


轟音と共にハイオークに雷が落ちた。体が煙を上げ、プスプスと音を立てながら小さく痙攣している。スザにとっては大きな魔法で魔力が大きく減ってしまった。


「グアアアァ!」


ハイオークは天を見上げ、咆哮した。直後に地面を大きく蹴り、後方の洞窟前まで飛び退る。左手の岩を地面に落とすと、洞窟にその左腕を突っ込んだ。

左腕が姿を現すと、そこには何かが握られていた。


「きゃああぁ!助けてぇ!」


胴体をぎゅっと握られた少女だった。腕と足をバタつかせながら、泣き叫んでいる。その声を聴き、クシナとミナミは土壁から顔を出してしまった。


「まずい!」


着地したスザは少女の声を聴き、地面を蹴った。ハイオークは握った少女を顔の前まで持ってきた。


「間に合えぇ!」


スザは剣を手に、閃光となってハイオークに突っ込む。

ゴリ、バギ、グジュッ!


剣が届く前にハイオークはよだれを垂らしながら、上半身にかぶりついていた。

少女の声は聞こえなくなった。下半身が口から出たまま、左腕を振るい飛び込んできたスザを弾き飛ばす。


「グハァッ・・・」


地面にたたきつけられたスザは、そのまま背中を強打し最後はゴロゴロと転がって止まった。痛みに耐えながら上半身を起こしたスザの目に、右腕が生え続け、焦げた肌も元に戻りつつあるハイオークの姿が映った。


そのままバキッ!ゴリッ!・・・と音を立てながら足まで食べつくしたハイオークは、完全に元通りに戻ってしまった。


「クソッ、助けられなかったなんて・・・」

「イヤアアァ!」


地面に座り込んで、ミナミは天を仰ぎながら慟哭していた。クシナは泣き叫ぶミナミの肩を抱く。


「クシナ姉さん、何のために私はいるの?なんのために!」

「ミナミ・・・」

「私は、わたしはっ!スザ様もクシナ姉さんも、他の人も助けたい!助ける力が欲しい!」


ミナミは心の底から叫んだ。その叫びに呼応するように杖の魔石が光る。光は大きくなり、ローブごとミナミを包んだ。


「何が起きてるの?」


クシナは疑問に思いながらも、光に包まれたミナミを離すまいとしっかりと抱いていた。

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