第31話 スザ出撃す④
2021.8.4一部手直し実施しました。
流れに変化はありません。
翌日。
カーン・・・カーン
イの塔の街の監視櫓の鐘が鳴った。ゆっくりと2回。救援依頼の使者だ。
クシナは連絡が来る前に鐘の鳴った大南門に駆け付けた。
「赤髪の英雄様にお目通りを!お願いします!」
血だらけで、地面に座り込んだ青年が監視人の少年に頭を下げていた。
「クシナ様!」
少年の声に血だらけの青年が顔を上げると、そこには赤髪の美少女がゆっくりと腰を落としかけるところだった。
「大丈夫ですか?どうされたのか、お話下さい」
青年は目の前の美少女と少年とを交互に見やり、
「頼みます、赤髪の英雄様にお取次ぎを!」
「私が赤髪の英雄の子、クシナです。今はこの街の代表です」
「英雄様はどちらに?」
少年が何か言おうとしたが、クシナは手でとどめた。
「今は、私がこの街の代表であり、赤髪の英雄です」
青年の目は大きく見開かれ、がっくりと肩を落とした。
「もはや、我が村の命運は尽きたのか・・・」
その言葉に周りの少年たちが殺気立つ。
「待て!」
「ノブ兄!だって・・・」
クシナの後ろに現れたノブが体を横にずらした。スザとナギ、ミナミがその後ろに立っていたのだ。
「ミナミ、昨日の練習の成果を見せてほしいな」
スザの言葉に笑顔で、うんっ♡!と可愛く頷き、
「ヒール♡!」
持っていた身の丈よりもずいぶんと長い杖を、血だらけの青年に向かってくるんと回すと、向けた先端の魔石から光が放たれ、青年を優しく包んだ。
「おお!体の痛みが引いた!」
青年は血もずいぶんとなくなっている。傷が閉じたのだ。
「お嬢さん、ありがとう!」
中途半端血だらけ青年は、頭を下げた。
「どういたしまして♡。まだまだだし、60点だし♡」
両手を顔の前に持ってきて、右足が小さく外に跳ねる。黒髪のポニーテールがプルン♡と揺れた。
えぃっ♡と杖を前に出した時にナギの股間を杖の逆側が直撃したことは内緒にしておこう。ナギだって震えながらも我慢しているからね。
「十分です。若いのに、本当にありがとう」
「いえいえ♡まだ13歳の美少女ミナミです♡」
自分で美少女って言うんだ・・・あっ、クシナと目が合った。
クシナは小さくコホンと咳をした。
「このミナミのように、我々は若くても人々を助けられる力を持っています。私も父からその能力をすべて譲られています。力になれると思います」
その場にいた少年からすべてがクシナの言葉に大きく頷いた。それを見た青年は地面に正座しなおし、深く土下座した。
「申し訳ございません。失礼をお詫びいたします」
「謝れと言ったわけではありません。血まみれになりながらもこのイの塔の街を訪れた理由がおありのはず。言っていただけませんか?」
そのクシナの言葉に、ガバッと頭を上げた青年は、
「村が!村が突如現れた魔物によって破壊されました!何人もの人々が殺され、新たに出現したダンジョンに少女たちが連れ去られているのです!どうぞお力を!お助け下さい!」
「もちろんです!」
大声でクシナは宣言し、後ろに立つスザを振り返った。スザはクシナと目を合わせ、頷いた。
「ナギ、ミナミ!行くよ!」
ナギは大きく頷き、ミナミは、はーい♡と返事を返した。
「私も行くわ!」
クシナは立ち上がり、スザを見つめる。
「でも、この街はまだ・・」
『イの塔の街の住人よ!』
イズ様!イズ様だ!
イズの響く声に、街中からイズを呼ぶ声が聞こえる。
『今、同胞が我らに助けを求めてきた!今までこの街を守ってきた赤髪の英雄は、そういうときどうしてきたか、わかっているか?』
もちろん!救助を!助けに行くべき!救おう!
街中から女性や少年の声が上がった。
地面に座ったままの青年は、涙を流しありがとうございますと叫んでいる。
『この街が、赤髪の英雄が今まで成してきたことを行おうぞ!スザ!クシナと共にその青年の村を救うのだ!』
「ありがとうございます、イズ様」
クシナはイの塔に向かい小さく礼をした。
「準備が整い次第出発するぞ!」
スザはクシナ、ナギ、ミナミと青年を連れイの塔に戻る。ノブは後からイの塔の3階で訓練しているユウとマイを連れ、会議室に来ることになった。
クシナの号令の下、イの塔の一階会議室に食料が運び込まれた。
食事をとりながら、装備を整える。ナギはイズから剣と小さな盾、皮の軽鎧を授かった。ミナミはすでにもらった杖にフードの着いた矢除け魔法付きローブ、中には皮の胸当てとブーツを着けた。クシナは赤のマントの下に皮を赤く染めた胸当て、手甲、ブーツを身に装備した。杖は持たない。
その横でいびきをかきながら、村の青年が寝ている。場所を教えてくれた後も案内するの一点張りだったので、体を心配したクシナが食事に眠り薬を仕込ませたのだ。
『うざいわね、その前髪』
どういう意味?うざいって
『いい加減、その前髪切ったら?』
英雄に設定にする職業だけど、どうしようか?
『・・・もう・・・念願の魔法使いにして、この戦いで魔力を増やしましょう。そそるでしょ?』
だから、何そそるって・・・
『まあいいわ。いい感じになったら、途中で剣士か、騎士か戦士に変えて、最終的には魔法戦士ってどうよ』
うおおお!そそるぅ!・・・
スザが1人ニンマリしながら天井を見上げるのを、ナギもクシナも見てはいけないと思い、見ないふりをした。ミナミは一人笑顔でそんなスザを見つめている。
って、え!?そそるって言ってしまった・・・
装備はこの前と同じ暗殺者装備のままだ。死神の職業設定も暗殺者のままとした。今まで通り超近接戦をしながら、魔法を駆使できるための能力を獲得するのだ。もちろん使える魔法は使う。
村は徒歩で半日の距離だが、山の中を登っていくので、1日はかかるだろう。でもそんなに時間はかけれない。今は昼前。中速度で走っては、徒歩休憩をする。これを繰り返して夕方には村に着きたい。
夜には魔物の動きが活発化する。
村人のためにもなるべく早く着くのがいいだろう。とりあえず皮の袋に水筒と今日分の経口食を入れた。明日以降は現地で手に入れればいい。
準備が整ったとほぼ時を合わせたように、ノブがマイとユウを連れて現れた。
「クシナ、こちらは我ら3人に任せてくれていい」
「クシ姉、私ももっと魔法が使えるように訓練しておくから」
「スザ、俺も二人の足を引っ張らないよう頑張るよ」
三人は笑顔で大きく頷いた。
「ありがとう。ノブ兄、マイ、ユウくんに任せるわ」
「何かあったら、映像室に入ってイズに話して。俺に伝わるから」
スザ、クシナ、ナギ、ミナミは街の人たちに見送られ、南大門を出発した。
東の山脈地帯にある村を目指して。
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