第26話 ダンジョンの町“カナヤマ”攻略戦⑮
ゴーレムたちはダンジョン内へと戻り、スザ達3人は地上へと戻った。朝日が山の間から燻り続けるカナヤマを照らし始めた。
ドワアァァア!
声にならない歓声が上がり、町民たちがダンジョンカナヤマの入口に殺到した。スザは引きつった笑顔のままサユリに背中をバンバン叩かれ、町民たちにもみくちゃにされている。クシナはそれを見て大笑いしていた。スザはあの怖い顔よりよっぽどいいと思いながら、我慢し続けていた。
朝日が昇りきった後、歓喜の祭りは終わりとなった。スザとクシナはサユリの家に招かれ、ご飯をごちそうになった後、倒れるように眠ってしまった。
スザとクシナが目覚めたのは、次の日の朝だった。サユリが出してくれた朝食を平らげ、2人は町へ向かった。がれきを片づけている中、サユリに聞いた場所を訪れた。
それはなんとか残った兵士の宿舎だった。部屋の前に一人の兵士が立っている。スザとクシナは扉を開けると、ナギが扉に向かい、正座で座っていた。じっと目をつむっている。
「お昼からサユリさんたちと会議をするので、出てもらえませんか」
クシナの言葉を聞いても反応はない。
「寝てるんですか?」
スザの言葉にナギは目を開いたが、それだけだ。
「青空の下、中央広場で公開の会議です。イの塔の街とカナヤマの町、ダンジョン内での出来事などを全員に説明します。ギン側の代表者がナギさんしか残っていないので、出てもらい説明をお願いします。一連の出来事をすべて白日の下にさらし、今後どうするのかを決めたいのです」
「・・・わかりました」
中央広場、急いでがれきだけが撤去され、適当に長机と椅子が持ってこられた。そこにはサユリ、スザ、クシナ、兵士の代表者が座り、ナギが両手を後ろ手に縛られ連れてこられた。町民たちが地べたに座って周りを囲んでいる。
サユリが口を開き、宣言した。
「今回の騒動の真実を確かめ、今後どうするかを決めたいと思います!」
まずサユリがスザとクシナに聞いたダンジョンについて話し始めた。ダンジョンマスターは存在し、ダンジョンを管理していること、独立したダンジョンではなくイの塔の下に位置付けられたこと、イの塔のサブダンジョンマスターのスザから委任され、カナヤマのダンジョンマスターとこの町の代表者が話し合ってダンジョンをどのようにするかを決めることになったこと、現状のダンジョンは休止中であることが報告された。
一瞬ざわついたが、それだけだった。
続いて、イの塔の街について、クシナが話し始めた。突然のギンたちの襲撃、成人男性の虐殺が語られると、各所で「本当なのか」と小さい声が上がり始めた。
「すべては本当です」
ナギの言葉に、町民たちは黙った。一様に下を向いている。
スザが話を引き取った。スザがイの塔のダンジョンマスターと協力して街を解放したこと、その際にすべての兵士を殺したことを報告すると、「やりすぎじゃないのか?」という声が上がり始めた。
「結果だけ見ればやりすぎと思われるでしょう。しかし、老人を含め成人男性すべてを殺され、未成年の私の友人たちは広場に集められていた。自分たちは武器もない。その状態で戦い、街を解放するのに手加減などできなかった。私が兵士たちを殺さなければ、私が殺されていました」
スザはそう言いながらも、町民に頭を下げた。
謝罪の言葉は出していない。
謝罪することではない。
自分の肉親を殺されたという恨む思いがあるだろう。スザは町民たちの心を思い、ただ頭を下げたのだった。
「では次に私だ!」
サユリは空気を換えるように大声を出した。そしてギンが町長を殺し、自分を監禁したこと、行政を牛耳り、冒険者と共に兵を脅して軍を掌握し、イの塔の街に攻め込んだことを報告した。
ナギは間違いないと証言した。
最後にナギがギンについて話し始めた。
「ギン様は、この町のこと、町民が生きることをいつも考えられていた。ダンジョンにしがみついてしか生きられないことを変えようと思っていた」
ギンはダンジョンを踏破しようと戦い続け、地下五階の守護主を倒して地下六階のダンジョンマスターと対峙した。現状を打破するため力を貸すようダンジョンマスターを説得したが通じず、殺してしまった。
そこでギンは何か変わってしまった。
冒険者たちから慕われていたギンはもういなかった。ひたすらに力を求めた。意見の合わない町長を殺し、サユリを監禁し、イの塔の街で虐殺をして占領した。カナヤマをよくしようとの思いはもう見えなかった。
力による支配。野望は更に燃え上がっていくように思えた。
「ギン様はどんどんと力による支配にのめりこんでいった。最初の理想はもうなかった。でも俺はギン様を止めることができなかった」
すみませんでした、と頭を下げたまま。ナギはそのままの姿で頭を上げることはなかった。頭を下げたまま、証言を終えたナギは兵士に連れられていった。
「今後の方針を、スザさんどうぞ」
「イの塔のダンジョンマスター、イズより皆さんにお願いがあります。今から言うことを皆さんで話し合い、どうするかを明日の昼までに報告してください。サユリさんよろしいでしょうか」
「結果を明日の昼までにスザさんに話せるよう、意見をまとめます」
サユリは大きく頷いた。
「ではイズからの言葉を伝えます。ダンジョンはすでにイの塔の配下に入りました。皆さんについては、特にどうこうすべきとの事項はありません。今まで通りの協力体制を維持してもらいたいのです。しかしながら、現状では互いの成人男性の数が減っており、圧倒的に労働力が足りません。お互いに愛する人を殺し、殺されて打ち解けることなどできないかもしれませんが、今までよりも更に交流を深め、人がもっと行き来できるようになるべきだと考えています。
よって、イの塔の街、カナヤマの町を合わせ、生き残った全員が幸せに暮らせるよう、ひとつに、“イの国”として一つになることを望みます。認めていただけるのであれば、今までイの塔にしかできなかった祝福、つまり農作物の成長促進や野生動物の増殖等の力をこのカナヤマの町にも行います。一つの国として生きていくか検討をお願いします」
夜。スザは一人、ナギの元を訪ねていた。
「ナギさん、俺たちは明日にはイの塔の街に戻ります。そこでお願いがあります」
ナギは頭を下げ、正座したままであった。
「俺の副官になってもらえませんか?」
ピクンと頭が小さく動いた。
「俺、知らないうちにサブダンジョンマスターなんてものになってまして・・・今まで街での仕事なんて手を抜いてばかりで、よくわからないんですよね」
ハハハ・・・と頭をカキカキ、空笑い。
「たぶん、今から忙しくなるし、書類仕事もこなせる自信ないし、魔物との戦いもありそうなんですよね・・・できれば、俺が生き抜くために力を貸してもらえませんか?」
でも、苦労するからやりたくないですよねぇ・・・俺もだけど・・・と呟く。沈黙。
「明日の昼には出発するんで、気が変わったらサユリさんのところにお願いします。でも苦労しそうだから嫌ですよねぇ・・・」
スザは頭を下げ、部屋から出ていった。
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