第23話 ダンジョンの町“カナヤマ”攻略戦⑫
2021.8.4一部手直し実施しました。
流れに変化はありません。
何もない巨大な空間。その先にいた。スザの腰ぐらいの高さのゴーレムが10体と、その背後に2mを超える巨大なゴーレムが1体。
「よく来た、人間よ」
声が響くが並んだゴーレムたちは発していない。この空間に響いている。
「私は、カナヤマのダンジョンマスター。前のダンジョンマスターを殺してくれたことには感謝しよう。しかしこれより先には行かせない。たった3人で何ができようか。もし私の子供たちを倒し、我が元にたどり着けたとしたら、話だけは聞いてやろう。たどり着けたのならばな・・・」
声は消えた。
「3人って言ったよね?」
「どういうことなの?」
2人はダンジョンマスターの言葉を最後まで聞いていなかった。ギギギ…と音を立てながら入ってきた扉がしまっていく。その扉が閉まりきる前、影が滑り込んできた。
「お前!」
「ギンの仇を取りに来たの!?」
それはナギだった。ナギはガバッと身をかがめた。
「へ?」
2人は動きが止まる。目の前でナギが地に頭をつけて土下座しているのだ。
「私は、この町を立て直したかったのです。でもギン様との願いはすでに潰えました。ギン様の仇を取るとか、そんな思いはありません。私は死を望みましたが姉に生かされました。それはこの氾濫を止めるためだとわかりました。天啓です!」
2人はナギの一気に流れ出る言葉を止めることができず、ただその思いを聞くだけしかできない。その土下座には2人を飲み込む力があった。
「信頼などできないでしょう。不要です!私はこのカナヤマの町のためにこの命を捧げ、この氾濫を止めて見せます!私はお二人の前で、最前線で体を張ります!命を懸けます!魔物を倒します!お二人の前に立つことをお許しください!」
そう言い切ると、ガバッと立ち上がった。
うっ、と身構える2人。そんな2人を無視して突如ナギは両手を上にあげ、ピンと伸ばした。
「すみません!それではお2人の前に行きます!」
そのままの格好で走り出した。唖然とした2人はナギの走りを止めることはできず、ナギは2人の3mほど前方で立ち止まり、剣を抜いてゴーレムたちへの構えを取った。
「来ます!」
その声にはっとする2人。ナギは10体の低ゴーレムが突っ込んでくる、そのど真ん中に走り出した。
低ゴーレムが横一直線からナギを真ん中に、左右が折れてくる。ナギを包囲しようと動く低ゴーレムたち。小さい体のため、動ぎが速い。
「死ぬ気!?」
「俺ひだり!」
「了解!」
ナギが中央の低ゴーレムに両手で剣を振るう。右肩上から銀色の光が流れ、正面の一体が砕け散る。反動で銀髪がフワリと浮き上がった。
左側の2体の低ゴーレムに短剣が突き刺さる。と同時に爆発!体の半分が吹き飛んだところに魔石が貫かれ、倒れ行く低ゴーレムたち。スザはさらに風となって突き進む。
ゴウゥッ!風切り音が鳴ると同時に右の低ゴーレム3体が炎の槍に貫かれ勢いで飛んで行く。壁にぶつかったところで爆散した。
ナギは体を回転させ、剣に勢いを乗せながら右へ左へと剣を振るい、更に2体の低ゴーレムを砕いた。ナギは形を保ったまま倒れ行く2体の低ゴーレムを目の端にとらえた。少年の通った後ろには合計4体の低ゴーレムが転がっている。確か、クシナさんはスザと呼んでいたな。
おっ!
ナギはステップバックする。と同時にナギのいた場所を疾風が通り過ぎた。
ボゴォ!
地面がはじけ飛び、砕けた石が舞う。
右腕を地面に撃ちつけた長身ゴーレムが素早く体を起こそうとした時、距離を詰めたナギがその右腕へと剣を振り、砕き割った。体を起こしかけた長身ゴーレムが中途半端な体制で停止する。胸を砕きながら剣が飛び出てきた。長身ゴーレムはぐらりと体制を崩し、ナギの目の前で前方にズズンッと倒れ伏した。
勢いでバラバラと砕け散る長身ゴーレムの背後にはスザが立っていた。
「君がやったのかい?」
ナギは剣を腰に納めながら、前髪で目が隠れているスザに、わかっていながらも確認してしまった。自分が動きを察知できなかった。左にいたと思ったら、ちょっと目を離した隙に長身ゴーレムの背後に回って急所を一突き。目の前の、何もできなさそうな少年がそれをやった。
「ナギさん、スザです。ええ、背後から核である魔石を突きました」
右手には取り回しの良さそうな長さの剣を握っている。業物だ。存在と技、装備がちぐはぐすぎる。スザのこの得体のしれない殺傷能力。このスザという少年がギンと自分の希望を打ち砕いたのだと理解した。
「ちょっと、どういうつもり?」
全てのゴーレムを倒したと確認できたクシナは、2人のところに近寄ってきた。
ナギは再び両手を上げた。
「先ほども言ったように、私が前線で体を張ります。私が敵を引き付けている間に敵を倒して下さい。私の存在は無視してもらって問題ありません」
両手を上げたまま、直立不動のナギ。スザとクシナは視線を交わした。
「ナギさんが前線で戦うのは反対しません。我々2人は前線向きではないので」
スザの言葉にクシナは大きく頷く。
「本当にこのダンジョンの氾濫を防ぎたいんですよね」
「もちろんです」
クシナに顔を向け、ナギはコクコクと何度も大きく頷く。
「恨みはないですか?」
「ありません」
今度は真顔でスザを見つめる。
「じゃあ、協力して頂ける?」
「え?」
クシナの言葉に、ナギは呆けた表情を向けた。
「あなたの動きを無視して敵と共に葬るなんて私にはできません。それに、私は魔法での中遠距離専門で、スザは超近接戦特化。私たちに欠けているのは、前線で敵を引き付ける壁役なんです。ナギさんの動きこそ今の私たちにとって必要なのです。私たちが戦い、勝ち抜く。それはすなわち、このダンジョンの氾濫を防ぐことです。だからナギさん、恨みがないなら協力して欲しいのです。最低でもこのダンジョン内は」
だねっ、とスザは同意した。
「私は、戦っている魔物たちと一緒に魔法で吹っ飛ばされてもいいのです。・・・私があなたたちに危害を加えると思わないのですか?」
プッとクシナは吹いた。
「最初から、その恰好を私たちの前でする人が?それもあんなに素早く剣を振ってゴーレムを一撃で葬る人なら、この部屋に入る前にいくらでも背後から殺すことはできたでしょうに」
両手を上げたままナギの顔が赤くなった。この格好は恥ずかしい。でも、一つ反論することはある。背後から2人を殺すことはできない。スザくんがそうさせない。殺されるのは自分。もちろん口にはださないが。
黙って顔を赤くしたナギに、
「ちょっといいですか?」
と突然スザが右手を上げた。スザは、話さなければならないと思った。このタイミングを逃して一緒に戦うと、何か騙しているような気がして・・・。ナギは頷いた。
スザはイの塔の街の現状をナギに話した。スザが街を解放したこと、兵士を全員殺したこと、今朝追加で出た兵士も途中で殺したこと、初めての話にナギは驚愕した。クシナはお互いのまちの関係ない人々が殺されてしまったと一人つぶやいた。それはナギの耳にも届いていた。
話を聞き、静かに考えたナギは、
「危害を加えないと誓います」
と2人に再び宣言した。
頷いた2人は、両手を下げさせた。話し合い、3人の戦闘配置を、ナギを頂点とした三角形にすることに決した。スザかクシナが戦闘中は指示を出すが、経験が多いナギは積極的に意見を言うことになった。
「では行きましょう」
ナギは扉を開き、先頭を歩いて地下二階に降りていく。
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