第21話 ダンジョンの町“カナヤマ”攻略戦⑩
二つになったギンの体は地面に落下し、燃え上がっていた。ナギは腰を抜かしたように地べたに座り、がっくりと首を垂れた。剣は右手を離れ、足元に転がっている。
「サユリ姉さん・・・」
「なんだい?」
サユリは弟の小さくなった背中を見つめた。
「もはやこれまで・・・首を刎ねてくれ・・・」
無言でサユリは近づき、肩に剣を当てる。観念したようにナギは項垂れたまま首を差し出した。
「・・・いくよ・・・」
「迷惑をかけてごめんなさい。カナヤマの皆、すみませんでした」
力ない、小さい声にサユリが振る剣の風切り音が重なった。宙を舞う銀髪。
「え!?」
強烈な拳骨が頭頂を直撃し、銀色の頭を抱えたナギが地面を右に左に転がっていた。
「バカ言ってんじゃないわよ!自分の口で皆に謝れってんだ!」
サユリは涙を流しながら、右手をブンブン振っている。
「それで皆が死ねというなら、その時に私が引導を渡してやるよ!」
その声にクシナと身を起こしたスザは2人へ視線を向けた。
「だいたい私はその長い銀髪が嫌いなんだ!なんで私の毛よりも綺麗なんだ!ふざけるな!」
頭を押さえて転がるナギの横で散らばったナギの銀髪をくそっくそっと言いながら、ガシガシ蹴っている。スザとクシナは視線をそらした。
そのスザの目に、炎の壁を突破したゴーレムたちの姿が映った。炎の壁が小さくなっている。どんどんと壁を超えるゴーレムの数が増えていた。壁の効果時間が終わったのだ。
『おかしい・・・おかしいわ!』
なに、何?イズどういうこと?
突然止まったスザにクシナはどうしたのかという目で見つめている。
『普通はダンジョンマスターを倒したら、その人間、今はスザとクシナに権限が移るのよ』
スザがクシナを見る。首をかしげるクシナ。揺らめく炎の光を反射して美しい顔に陰影がつく。そして赤髪がまるで燃えているように輝いていた。綺麗だ。初めてスザはそう思った。一瞬胸の鼓動が大きくなった気がした。
『ラブコメ童貞野郎。話をすすめるぞ!』
ラブコメ?ドウテイ?
『・・・あー、権限が移ると魔物たちは一旦動きが止まるのよ』
でも止まってない。
『この中央広場でダンジョンマスターであるギンを倒した。ここはダンジョンの外。だから権限が委譲されず、ダンジョンは新たなダンジョンマスターを誕生させて、それに権限を移したんだと思う』
炎の壁はもうほとんど消えていた。どんどんと中央広場に進出してくるゴーレムたち。サユリが町民たちを誘導して町の入り口に向かって後退していた。スザとクシナも後退し始めた。クシナは炎の槍でゴーレムたちを爆散させてはいるが。炎の壁はスザによって一時的に出さないようにという指示が出ていた。もちろんイズの指示だ。
『前のダンジョンマスターは願い通り、人々を繁栄させるためにゴーレムを出していたけど、どうも違うと思う』
ゴーレムたちは近くにあるものすべてを破壊しながら前へ前へと進んでいた。
『このままじゃ氾濫は収まらない。ダンジョンマスターを倒すしかないわ』
わかった。
「クシナ、俺は今からダンジョンに潜ってくる。たぶん新しいダンジョンマスターが生まれて、そいつがこのゴーレムたちを支配していると思うんだ」
「わかったわ、そいつを倒せばいいのね」
前のめりのクシナ。
「じゃあ、道を切り開くわ」
「ちょっと待って」
肩を掴まれたクシナはえっ!?ていう表情で振り向いた。
「クシナはカナヤマの人たちを守るために、ここに残って」
スザの目をじっとクシナは見つめた。小さくフッと笑い、
「・・・スザ、あんた一人じゃ無理よ。近接戦闘であの数を倒すのは難しい。私の魔法が、この炎の魔法がダンジョンマスターにたどり着くには必要だわ」
その声は静か。でも説得力があった。
『スザ、2人で行きなさい』
でも・・・
「どうした?」
サユリが駆け寄ってきた。体は町の入り口側へ向いたままで駆け足は止めていない。さらに来い来いと手を振っている。
「ほぼ原因を掴めたので、このゴーレムの氾濫を止めます」
「そのためにダンジョンに入るわ。2人で」
真剣な表情のクシナを見て、スザは折れた。
「俺たちでダンジョンマスターを倒すまで、どうにか逃げ切ってください」
スザの言葉に、クシナは笑顔で大きく頷いた。
「そんなことできるのかい?・・・て、ギンを倒したんだったな、あんたたちは。なら同じことができるか・・・」
駆け足をやめ、一瞬だけ考えたが、深く大きく頷き、
「わかった。あんたたちならできるよ!私たちはその間ここから離れておくから、私たちのことは考えずに、バンバンやっちゃって大丈夫だからね!」
じゃっと敬礼もどきをした後、サユリは駆け足で去っていった。
「あっさりだったね・・・」
「・・・まあ、引き留められるより話が早いから・・・」
少し間があったが、2人は行くぞと声を出し、ダンジョンへと駆け出した。
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