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第18話 ダンジョンの町“カナヤマ”攻略戦⑦

2021.8.4一部手直し実施しました。

流れに変化はありません。

「おら!お前はそんなもんか!?ナギ!そんなもんなのかぁ!?」


サユリは一歩下がって、大声を張り上げた。ナギも下がり、大きくため息を吐く。


「あの、姉さん」

「なんだぁ!」


威勢のいい返事と共にサユリは、さっと小盾を胸まで上げる。


「声だけじゃないですか・・・ずっと盾で受けてるし・・・」

「お前だって大した打ち込みなんてしてないだろ!」


実際ナギは剣で打ち込みはしたが、徹しきれない自分がいることも分かっていた。その結果が、サユリでも防げる剣戟だった。それでもサユリは防戦一方で、盾で受けるのが精一杯。反撃まではいけない状態だ。


「それなんだ!」

「え!?」

「それが答えなんだよ!お前は自分でわかっているんだよ!ナギ!」

「姉さん、何を言って・・」

「まだ自分を偽る気かい!?あんたがギンにかける未来は、肉親を殺してまでも手に入れたいものではないんだよ!」


ナギの目は大きく見開かれ、体は一瞬固まった。



大きく踏み込んで振るった剣は空を切る。二度三度と連撃しても風切り音が鳴るだけ。そこにいると認識して剣を振ってもまるで当たらない。気づくと剣が届かない位置に少年は立っているのだ。


「ちょこまかと・・・」


ギンはつぶやき、ステップバックして剣を鞘に納めた。

スザの目には、ギンの能力が映っていた。力・気力・均衡が“同”、機敏が“低”、体力・技巧が“高”。長時間戦うことができる、技を多用する剣士といったところか。


これで機敏が“高”だったら瞬殺されていたかも・・・。でも今、戦えている。自分の機敏がギンより勝っているからだろう。


ギンは柄に手を当て、身を低くする。


『あれよ!』

クシナのお父さんや街の兵士を切ったやつだ!


スザは腰から小剣を抜き、素早く投げる。柄を離し手甲で小剣を叩き落とした後、斬撃を飛ばした。


「チッ!」


斬撃はスザが立っていた場所周辺の地面を吹き飛ばしただけだ。スザの姿はすでにそこにはない。ギンから見てほぼ左90°の位置に移動していた。


『逃げてるばかりじゃ勝てないわよ』

わかっている。なんのために同じような位置を移動していたか、俺の仕掛けを御覧じろっ!


ギンがスザに向かって踏み込んだ瞬間、


「なっ!?」


叫び声と共にギンの体が浮き上がる。足元が爆発して体が跳ね上がったのだ。

ギャン!という金属音と共に火花が飛び散る。


スザの突撃から突き出された短剣をギンは剣で受け止めていた。バックステップして構えたスザは、乱れた空中姿勢を着地と共に立て直す。距離を取ったギンが大きな隙を見せなかったため、追撃することはできなかった。


「素早い突撃と搦め手の攻撃。赤髪の英雄より強いんじゃないか?」


ニヤリと笑ったギンは、剣を鞘に納めた。またあの斬撃か!?スザは身構え、すっと重心を落とした。その時、遠く背後から押し寄せる気配を感じた。


「お前を強者と認め、新たに手に入れた力を見せてやろう。なぜ俺がこの町を、さらにお前たちのイの塔の街まで手に入れたのかを!」

『街は渡してないわよ、このバカ!』

そうだけど、ここは流しましょうよ。


気配がどんどん中央広場に近づいてくる。魔物だ。ダンジョン“カナヤマ”から魔物が大量に現れたのだ。


「なになに!?あれは・・・」

「姉さん、ギン様はカナヤマのダンジョンマスターを殺し、新たなダンジョンマスターとなられたんだ」


炎に照らされ現れたのは、生き物ではなかった。鉱物の塊。


「ゴーレム・・・」


サユリの目には、中央広場を埋め尽くそうとダンジョンから溢れ出てくる土色のゴーレムたちの姿が映っていた。


ダンジョン“カナヤマ“からは、鉱物が取れた。それはダンジョン内に現れるゴーレムを倒すと落とすアイテムだった。”カナヤマ“は鉱物のゴーレムしか魔物として出現しない特殊なダンジョンだった。そのため取れた鉱物を加工し、武器や道具を生産して食料と交換していた。


しかしギンはダンジョンマスターとなり、ゴーレムの製造はそのままにして、意志通りに動かすようにした。つまり命を持たない、魔物の軍隊として存続させたのだ。


「もうわかるだろう?俺はこの均衡した地域を崩す力を手に入れた。そしてイの塔の街を手に入れて食料も確保した。まだ北にいる奴らもこの力で勢力下にする。そして魔物を排除した後、この周辺地域に平和をもたらすんだ!」


スザの背後には、ゴーレムの集団が中央広場からダンジョンまでを埋め尽くしていた。ギンの背後には、遠巻きにするカナヤマの町民たち。崩れた講堂側から少し離れたところで、サユリとナギがにらみ合っていた。

揺らめく炎に照らされ、ギンが悦に浸っている。


「ギン!お前は本気で言っているのか!?」


真顔に戻ったギンは視線をスザに戻す。


「本気も何も、既に八割方は思い通りになっている。俺が平和をもたらすのは確定だ」

「平和だと!?町長を殺しておいて何を言う!」


サユリの叫び声に、ギンの背後に集まっていた町民たちはザワザワし始めた。

行方不明じゃなかったのか?殺した?え!?

顔を見合わせ、こそこそと話し合う。町民たちは町長が殺されたことを初めて知ったのだ。


「本当なのか!?町長を殺したのか!?」


町民の声が一斉にこだまする。その声に振り向いたギンの顔には感情がなかった。


「もちろん。あいつはダメだった。今までのやり方に従えという。この力をカナヤマだけじゃなく、イの塔の街にも、北のやつらのためにも使えと。そう!古い考えに従えと!平和を手に入れることができるのに反対した。それだけじゃなかった。俺を殺そうとしたんだ!だから俺は、あいつを殺した。そして古い考えに縛られた奴らを殺すと誓った!」


最後にニヤリと笑顔を見せたギンに、町民たちは沈黙した。


「おまえは!」


その声に殺気を感じてギンはスザに体ごと向き直った。


「そんなことで、俺たちの街の大人たちを全員殺したのか!?」


スザの声は、カナヤマの町民に新たな事実をもたらした。


「古い考えに縛られた奴らは、新しい考えに染まることはない!俺と共に新たな道を歩むことはできない!そんな奴らなど・・」


ギンは視線をスザ、サユリ、背後の町民たちへぐるりと動かし、最後に再びスザを見てニッと笑った。


「俺の新しい世界には不要だ」

グアアアアア!


ゴーレムの沸き上がる叫び声が一斉に中央広場を包んだ。

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