第16話 ダンジョンの町“カナヤマ”攻略戦⑤
2021.8.4一部手直し実施しました。
流れに変化はありません。
スザはギンとナギの会話が終わった窓から離れ、階下へと壁伝いに移動し、窓から内部に入った。
物置部屋のようだ。館内の気配を探る。さすがにこの町の中までは、イズは探知できない。今のところはだが。
新たに能力に設定した“構造把握”に気配感知を同調させた。まあ、ただうーんとうなって集中しただけだが。3階は2人。ギンとナギだ。声だけでは鑑定できないが、会話で今回の首謀者とその副官の居場所を確定できただけでもよしとするべきだろう。
スザのいる2階には人のいる気配はない。1階は2人。入り口に1人と、部屋に1人。さらに地下があった。館から斜面に繋がっている。横穴を利用した地下室だろう。そこに3人の気配を感じた。
『たぶんクシナはそこね』
俺もそう思う。他の2人は監視人だろうな。クシナを助けたら、ドカンと花火を打ち上げようか。
スザはイズと話し合い、新たに設定した職業を頭に浮かべていた。『工作員』という職業だ。この職業を英雄の職業に設定している。そして選択能力には、これに関連して爆破罠設置と罠効果増加という2つを新たに設定していた。
スザは物置部屋を出て、2階の小部屋を回る。そして音を立てずに階段を下りて、地下室へと向かった。もちろん入り口の兵士と部屋の人間には気づかれてはいない。
地下室へと降りた階段の下に兵士が一人いた。奥は鉄格子。ということは、
『クシナと別にもう一人囚われていると考えるべきでしょうね』
ですよね。敵の敵は味方になるのだろうか。まあ、あまり深くは考えず本人に聞いてみよう。
監視兵は船を漕いでいる。まあ何もないし、ご飯を食べた後は暇だと眠くなるよね。
でもそれが永遠になるけど。
クシナは、「誰?」と小声で誰何する隣の女性の声に意識を地下牢の入り口に向けた。鉄格子の向こう、マントの人影の足元に監視兵が倒れている。ゆっくりと近づく人影が、
「大丈夫?クシナ」
と声をかけてくる。
「スザ?」
口に人差し指を当てながら、しぃーしぃーと言っているのは前髪で目を隠したいつものスザだった。
ガバッと鉄格子に掴みよったクシナに、
「はい、開いたよ」
と、監視兵からカギを奪ったスザが鉄格子を開けた。どんっとクシナはスザに抱き着いていた。スザは何も言わず綺麗な赤髪をゆっくりとなでる。泣いているようだ。
『泣いている女の子には、黙って胸を貸すのが男よ、男』
とイズが言うので、その通りにしているのだ・・・というよりは、ただ何もできなかっただけだけどね。
「あの・・・取り込み中申し訳ないけど、こっちも開けてもらえないかしら・・・」
壁を隔てたもう一つの鉄格子の隙間から、女性が申し訳なさそうに声をかけてきた。
「きゃっ・・・すみません、サユリさん」
サユリの声にびっくりして、クシナは飛び跳ねるように体を引き離した。顔が真っ赤だ。
「サユリさん?・・・もしかして町長補佐をしていた人ですか?」
「そうそう!」
サユリの顔が鉄格子にガッと近寄る。ちょっと腰が引けた。
「スザ、サユリさんも助けてあげて。私より先にここに連れてこられてたのよ」
サユリは手短に自分がなぜ囚われているかを説明した。ギンが町長を殺害したその場にいて、ギンたちに反対、抵抗したため、囚われたらしい。
「私は今回の件に反対の立場です!」
小さい声ではあるが、はっきりと宣言した。
「ギンさえ抑えることができれば、町民含めて元のように戻るはずです。そう私が行動します」
「私もカナヤマとイの塔の関係を元のような協力できる関係に戻したいと思っているの」
2人が協力して元のように戻すと考えているのはわかった。だがそこまでうまくいくだろうか。
「ちょっと、俺の話を聞いてほしい。手短に話すから」
スザはイの塔の街は成人男性が虐殺されたこと、街を取り返すために兵士たちを皆殺しして、イの塔を解放したことを話した。2人は驚きの表情ながらも無言で聞き続けた。
「言葉は悪いけどお互いさまという状況になったのね」
「カナヤマの町民が兵士を殺されたからと言って暴動を起こすことはない。私がさせないわ」
「私たちがしっかりと説明すれば、元の関係に戻れるのではないでしょうか」
クシナの言葉にサユリはそうなるように行動すると宣言した。
『今、あんたがここで深く考えても仕方がないことよ。どうなるかは互いの住民同士の考えで変わるわ。その頭に立つ二人が協力してどうにかしようとしているのだから、任せればいいのよ』
そうだな。今は考えることをやめよう。まずはクシナと街の少女たちを救出して逃げることだけを考えないと。失敗するわけにはいかないのだから。
『そう!一つのことに集中して突破!そのあとのことは、その時考えればいいのよ!』
「了解。サユリさんも助ける」
「おお!少年!おっとスザくんだったか?ありがとう」
スザはサユリ側の鉄格子に近づき、カギを開けた。
「僕はこれからクシナを連れ、講堂に閉じ込められた街の娘たちを救出します。サユリさんはどうするのですか?」
鉄格子から出たサユリは倒れている兵士から剣含め諸々を奪いながら、
「・・・町長を慕っていた人たちがいるわ。その人たちと連携できるよう働きかける。そのあと、私は一人話さなければならない奴がいる」
「ギンですか?」
サユリは腰に剣をぶら下げながら、首を横に振る。
「違うわ。弟よ」
「弟?」
「ええ、弟のナギ。今、ギンの横に立って用心棒みたいなことをしているわ」
そういえば、美人で銀髪なところは、姉弟と言われてしっくりくる。
一発ぶん殴って正気に戻さなければ・・・ぶつくさと言っている。
「わかりました。では3人でまずこの館を出ましょう。その後で一旦分かれるということで」
先を行こうとするサユリは振り返り、コクリと頷く。
スザはクシナに振り返り、
「この館を出た後、ちょっとやることがあるんだ。協力して」
少しでも「おもしろい」、「続きが気になる」と思って頂ければ、ブックマークをお願い致します。
またページ下部の☆を押して評価頂けたら、とっても励みになります。
気軽に評価☆を押してもらえれば幸いです。