第157話 帰還②
夜遅く、スザはイズの待つイの塔の地下室を訪れた。
「お疲れぇ」
胸の成熟した金髪の美少女が座る横から、金髪のつるペタ少女が椅子を飛び降り、スザを出迎えた。
「なんか今、失礼なことを思った?」
「イイエ、ソンナコトハゴザイマセン」
スザは、カクカクと首を横に振って、席に着く。なぜか、2人のイズに挟まれて、両手に花的な感じだ。
「長かったわね」
ペタイズが呟く。スザ、ペタ及びバインイズが見る壁の画面には、スザが旅し、イの国の仲間となった地域が映し出されていた。9か月前のイの国の、20倍超えの勢力範囲となっていた。
ゴーレム馬車の生産は続いており、繋いだ街道によって人も物資も早く、大量に輸送できている。まだすべての地域で同じ暮らしができているとは断言できないが、当初のスザの思いが叶うのも時間の問題だろう。
「でも、初めは最悪1年以上かかるかもって言ってたし、もっと最悪なら生きていないかもしれなかったから、たった9ヶ月で戻れたのはとてつもなく良いことだと思ってるよ」
「そうね・・・本当に、そうね・・・」
魔物に攻め込まれながらも人は生きていた。人々を救い、仲間もたくさんできた。でも、失った仲間もいた・・・。
たくさんの魔物と戦い、町を、村を復興させ・・・
「でも、ギンの思想を受けたと思える敵はいなかった」
「キドウマルは違うわね」
バインイズの呟きに、スザは頷く。
「最後の教会の町には、リザードマンの大群が現れた。もしかして・・・」
「その案件について、話をしたかったのよ」
ペタイズが椅子の上から、壁の画面に向かって手を上げた。画面の地図が少し縮小し、もっと広い地図が映し出された。
教会の町の海の向こう、南側に巨大な島がある。北にも大地が続いていた。南側の巨大な島から海を渡って教会の町に赤い矢印が画面上に現れ、同様の矢印が北の大地からも教会の町に現れた。
「教会の町から見た、リザードマンの動き」
ペタイズが補足説明をした。イの塔の街の北、北の町の更に北がぼんやりと黄色に光る。
「タケルからの情報。ここに人々が住んでおり、突然助けを求めてきたと報告があった」
赤い矢印が東から黄色に光る地域に現れる。
「突如大量の難民がやってきて、人々の生活が脅かされているらしいわ」
「それって、教会の町と同じじゃあ・・・」
スザの言葉にペタとバインのイズは同時に頷いた。
「難民曰く、突然ヌメヌメとした青色の鱗の魔物が現れて、町や村から逃げるしかなかったと・・・」
「リザードマン。まったく同じだ」
そして、黄色に光る地域への赤い矢印と、教会の町の北側の赤い矢印の根本の周辺が赤色で点滅を繰り返す。
「ここに何かいるのかもしれないわ」
ペタイズの言葉に、スザはもちろん思い当たった。
「突如現れ、サブダンジョン核をタケルの父キョウから奪い、消えたドラゴニュート」
ペタバインイズがスザを見て、大きく頷いた。そして、同時に口を開く。
「私は、この矢印の先がこちらに向いてくると思っている。そのための前哨戦がすでに教会の町で行われたんだと・・・」
3人は黙って画面を見続けていた。