第13話 ダンジョンの町“カナヤマ”攻略戦②
2021.8.4一部手直し実施しました。
流れに変化はありません。
スザは、暗くなると移動をやめ、休憩に入った。安全な太い幹の木に登り、女性たちにもらった保存食を食べ、水筒の水を飲んだ。一呼吸ついた後、体をロープで固定し寝ようとする。
途中、イズの指示に従って道から外れた場所にある遺跡みたいなものに近づいて、ちょこっとひねったり、ちょこっと突起を押したりする操作をさせられた。そうすることでイズの言葉が途切れないようになるらしい。実際、今のところイの塔から離れてもイズの声はきちんと聞こえている。勢力範囲なら指示を出せると言っていたが、まあそういうことなんだろう。
日が昇り始めたらすぐさま移動するから、さっさと休めとイズは言うので、寝ることにした。昼からずっとの移動で疲れていたのだろう、スザはすぐさま眠りに落ちた。
イズの声に起こされたスザは、朝焼けが照らし始める山々を見ながら、カナヤマを目指す。
近くよ、とのイズの声と同時に、木々の隙間から煙が見え始めた。さらに進むと柵が見えてきた。
朝の炊飯の煙だろう、カナヤマの町の各所から立ち上っている。スザは朝の早いうちに近くまでくることができた。木に登り、生い茂った葉っぱの間から、街の様子をうかがっている。
戦場の空気はない。
倒した相手が次の日に攻め込むなんて思っていないのだろう。予定通り町に潜入して情報を集めよう。背負い袋の中から持ってきていた兵士の胸当てを取り出し、取替える。マントも兵士感がしないので脱いだ。持ち物を木に固定して、下に降りる。
『敵情視察よ。こっそり忍び込んだ後は、人の往来に乗じて堂々と町を見歩きましょう。重要施設の場所を頭に入れるのはもちろんだけど』
クシナたちでしょ。わかってる
『強敵の情報もよ。だから新たに“鑑定”を能力に入れたんだから』
等級が上がったためか、ブックの熟練度が上がったためかは不明だが、選択可能能力が6から10まで増え、そして常時発動能力として2つの能力を別に設定できるようになっていた。
常時発動能力の一つは、気配遮断を設定し、残りの一つに鑑定を設定した。
視界に入れて、知りたいと思うとあら不思議、色々と注釈や能力値を教えてくれる。
まだ使いこなせないのか、能力値は高・同・低の3段表示だ。ユウの能力値を見ても、すべて“低”表示だった。ユウの力の値は30代で“低”表示で俺の力:44だから、5~10程度低い能力値が“低”表示されるのだろう。ということは、“高”表示も同じだけ離れているということだ。
まあ、あんまり数値を考えても仕方ない。“低”表示なら勝てる可能性が高く、“高”表示ならなるべく戦うな、逃げろということだろう。“同”表示なら、頑張りなさいだね。
スザは気配を遮断し、高速で柵を飛び越えカナヤマの町になんなく潜入した。
カナヤマは、普通の町とは違う構造だ。
細長い三角形に近い形で、入り口が一番広く、奥まっていくほど細くなっている。三角形の底辺が森に面しており、柵と門で形成されている。三角形の二辺は切り立った山となっており、町は谷にできていることがわかる。奥に行くほど地面は低くなっていき、奥の方の斜面には洞窟のような入り口がいくつも見える。その洞窟では個人の鍛冶師がカナヤマで採れる鉱石を使って色々な武具を作っていた。
一番奥の、一番低位置にある巨大な洞窟。
それがダンジョン“カナヤマ”だ。
町は、カナヤマの魔物が落とす鉱物を武具や農工具に加工しており、他の場所で作られた農作物と交易することで生活が成り立っていた。
ダンジョン付近には柵と門、兵士たちの詰め所があり、外部からの敵よりもダンジョンから出てくる魔物を警戒していることがはっきりとわかる。
少女たちは、町の中ほどの斜面に作られた大きな建物に連れてこられていたことがわかった。中央広場を挟んで逆側の斜面には、行政を司る建物があった。この中央広場が魔物の最終防衛線のように見える。この中央広場から入り口までの間は民家が並んで建てられていた。
兵士たちの情報はあまり手に入らなかった。外に出ている門番などは全員能力が“低”の評価。詰め所やダンジョン内にいる兵士などは見ることはできず、実際の戦闘になったとき、その場での勝負になることが決定的だ。
町民の兵士を見る目がどうも冷めているように感じたし、避けているようだ。あまり良好な関係ではないと思われる。隙があるとすれば、これくらいだろう。
午前のうちに見て回ったスザは、一旦町から退避した。イズから連絡が入ったからだ。
『5人の兵士が乗った馬車一台がイの塔へ向かって出て行ったわ。追いつける距離よ』
今、イの塔に行かれると、もしかして再度占領ということもあるかもしれない。
懸念事項は自分で消すことにして、スザは馬車を追いかけた。
カナヤマの町から少し離れたところで追いつき、5人を倒した。全員“低”だったためだろう、等級は上がらなかった。死体は道から離れた森の奥に移動させた。馬車は無理やり道から外れたところに移動させ、手綱を木に固定した。うまくすれば少女たちの移動に使えるかもしれないからだ。
ねぐらにしていた木に戻ってきたのは、昼を大分過ぎてからだ。遅めの食事を保存食で取り、休憩をとる。勝負は夕方から始まる。そこから全力で動けるように休む必要があった。
『少しは休めた?』
山々が朱色に染まるころ、スザは体を起こした。
少しは仮眠をとれたと思う。そんなに腹は減ってないが、無理やりにでも腹に入れておこう。
まだ日が残っているうちに兵士の恰好から、暗殺者の装備に戻した。
『まずはクシナの救出よ。一緒に少女たちを先導しながら騒ぎを起こして戦力を分散。あんたは頃合いを見て戦力を引き付け、倒しながら敵の頭を探して倒す。あとは気配を消して逃げて、クシナたちに合流』
じゃあ、準備に入るか。
『ことを起こすまでの間にどれだけ準備ができるかで難易度が変わるわよ。準備を怠ると・・・』
わかってる。みんなを救うためにも、しっかりと準備をするよ。
『あんたならやれるわ。さあ!すべてを取り戻すわよ!』
はい!もちろん!
スザは夕やみにまぎれて、再びカナヤマの町に潜入していった。
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