第156話 帰還①
壁画のひびの入ったダンジョン核は、スザが触った後、ひびはなくなり球形に復元していた。すでにダンジョン核を作ったマスターの意思はなく、イズのサブダンジョンに変わっている。
スザはハルカと話し、10日かけて一回り大きく外へ張り出した壁を作り、今までの壁は取り払った。もちろんナナミとレンにも手伝わせて、土魔法の指導も同時に行っていた。
そしてイズの恩恵をこの土地にももたらし、農作物の育成促進、野生動物や魚類の増殖をこの教会の町にも行った。住民には同盟と伝えたが、独立を保ったままイの国の一員になった形だ。
ハルカも恩恵しかないことから、同意していた。
カゲの社の国からの食物の輸送も始まり、さらに希望する難民には、西にある他の町や村への移住も進めている。
神聖騎士団が壊滅し、司教もいなくなったことで、教会の組織はガタガタになってしまった。スザ一行が残って、力が回復するまでそのまま町に滞在することも考えられたが、当初の予定通りイの国に戻ることにした。イズからの強い要望だ。どうも本国で問題があるらしい。これからどうするかの話を決めなければならないとのことだ。
「私たちに任せて下さい」
スザを前に、トラ、ナナミ、ミサは胸を張ってそう答えた。神聖騎士団は難民や町の人から募集し、これから訓練していくことになるが、力がつくまで3人が残り指導することになった。さらにカイトとレンも神聖騎士団の長として参加予定だ。
教会組織は、教祖ハルカの下に若い助祭が3人いるだけ。あとはハルカの身の回りを世話する侍女や騎士団の料理人たちだ。町の運営は、4人の豪商が司教と話し合いながら行っていたので、教会を頂点とした町の運営は止まってしまった。
嘆いていてもどうしようもないので、豪商の下で町を動かしていた人たちを呼び、会議を行った。最終的には教祖ハルカを頂点とした、助祭と町の有力者たちとの議会で教会の町を運営することにした。イズはこの町が最前線にあることから、スザにカゲの力をかしてもらうよう進言し、スザはそれを了承して、カゲに協力を依頼した。
「ひと段落ついたので、明日イの国に帰還します」
スザからの報告を壁画の前で受けたハルカは、
「多大な恩恵をもたらしてくださり、ありがとうございました」
と、頭を下げた。
スザは首を振り、
「もう仲間です。そのように頭を下げなくても大丈夫です。少し時間がかかるかもしれませんが、この教会の町とイの塔の街を街道でつなぎます。そうすれば物資だけでなく、助けが必要な時は早急に救援に来ることができます。それまではナナミ、ミサ、トラが私たちの代わりにこの町の守りに協力しますので、少しの間辛抱して下さい」
朝、スザたち一行は、町の人々や難民から盛大に見送られ、教会の町を出発した。
目指すはイの国、イの塔の街。季節は夏。山脈を超え、イの国と教会の町を繋ぐ街道を作りながらの帰還だ。
土魔法で幅10m中央から外に向かって傾斜を付けるのは、イの国の街道とまったく同じ。同じ規格にしないとゴーレム馬車を通すのに苦労するからだ。
「イの国からはマイが街道を作ってくるわ。ユウとアスカが護衛ね」
イズの配慮にスザは頭を下げた。
イズの指示のもと、急こう配にならないように、山の中をくねくねと蛇行しながら街道を作る。時に山を崩し、時に川縁の高さを上げ、作ること25日。マイ、ユウ、アスカと合流した。
ユウとアスカはスザたちからゴーレム馬を借り、スザの作った街道で教会の町へ移動する。ユウはアスカを送った後、イの国まで戻ってくる予定だ。
ユウ、アスカと別れたその日の夕方、スザたちはゴーレム馬車でイの塔の街に到着した。
「スザ!スザ!スザ!」
門は大きく開放され、人々から大歓声を受けながら、イの塔の街に凱旋を果たした。秋の終わりに出発して、ほぼ9か月後、真夏の帰還だった。