第146話 教会の少女④
騎士サトシは乗馬を屈とうさせ、尻もちをついた難民たちを威嚇した。周りは神聖騎士団によって住居となったテントを破壊され、火もつけられている。
「よく聞け!もはやこの教会の町でお前たちを養うことはできなくなった!早々に立ち去れ!明日の朝、まだいるようなら!」
サトシは、馬上で剣を抜き放ち、天に掲げた。
「壁画教神聖騎士団の名に懸けて、お前たちを神の元に届けると誓う!女子供であろうと容赦しない!わかったら立ち去れ!」
サトシは騎馬隊を引き連れ、難民たちのテントを押し倒し、火をつけて回った。その炎は夜遅くになってやっと鎮火した。
翌朝。教会の町の門の外。
難民たちが殺到していた。門をドンドンと叩いている。
「教祖様!お助け下さい!」
「白の御使い様!お願いします!中に入れて下さい!」
「食料を!」
報告を受けた騎士サトシは、神聖騎士団を連れ門に到着した。部下の兵士たちに次々指示を出していく。そしてサトシは門の監視櫓へと登った。
「難民の諸君!私は昨日君たちに忠告したはずだ!朝までに、ここから立ち去れと!」
そこで一旦言葉を切り、右手を肩の上まで上げる。ザッ!と音がなったかのように門の左右、壁の上に騎士たちが立ちあがった。そして、
「構え!」
サトシの号令で弓に矢を番え、下へと向けた。標的となった難民たちから驚きの声が上がる。門の内側では、弓箭隊が並び上空へと構えていた。
「もう一度言う!今すぐ立ち去れ!立ち去る気配がないと判断すれば、矢を射る!」
サトシは従者から弓と矢を受け取り、自らも難民へと弓を引き絞った。
「御使い様!お助け下さい!」
「教祖様!我々を見捨てるのですか!?」
難民たちは一向に立ち去る気配がない。兵士たちはどうするのか、視線をチラチラと門の上のサトシへと向けた。サトシは一度目を瞑る。なぜか、壁に祈るハルカの姿が脳裏によぎった。
「立ち去れ!」
もう一度の警告に従う難民は誰もいなかった。
「騎士団構え!」
サトシの号令に緩みかけた弓を再度引き絞る。
「射よぉ!」
叫んだサトシは矢を発射した。それは狙いたがわず、女性の眉間に突き刺さった。半白遅れて壁の上と門の内側から、シュ!シュ!と風を切る音が鳴る。
「ぎゃああ!」
門の外で悲鳴が立ちあがった。
「構え!射よ!」
サトシの号令が続く。難民たちが悲鳴を上げながら倒れ、門から逃げて行く。矢に倒れる者、躓き倒れそのまま難民の踏みつぶされる者、離れ離れになる親子。断末魔と悲鳴が入り乱れ、それは祈りの部屋で神へと祈る教祖ハルカにまで届いた。
「神よ!なぜですか!?なぜですか!?」
ハルカは床に頭をぶつけ、泣き叫んでいた。