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第145話 教会の少女③

「教祖さまぁ!」

「白の御使いさまぁ!」

「私たちに食料を!」


今日もハルカは神聖騎士団に守られながら、教会前の広場で人々の治療を行っていた。


騎士サトシに選ばれるのは傷を負ったものばかり。ハルカの治癒魔法では病気は治せなかった。体の治癒能力を引き出すことで病気に対抗することはできる。そのためにヒールをかけていた。しかし、人々は慢性的な栄養不足で引き出す体力、治癒能力もほとんどなかった。


今日も魔力も気力も使い果たし、教祖は神聖騎士団に支えられながら教会内部に引き上げていく。

次の日も、その次の日も、毎日毎日ハルカは人々を治療し続ける。しかし、治療を請う者は減ることはなく、増えていく一方だった。


「食料を!」

「もう飢え死にしてしまう!」

「白の御使いさま!せめて、この子供だけでも!」


ハルカは必死に治療を続けた。しかし、日に日に人々の顔に不満がたまっていくのがわかった。

午後、いつものように午前中の治療を終え、体力の回復を待って壁画に祈りを捧げる中、背後に気配を感じ、振り返った。そこには司教と騎士サトシが立っていた。ハルカは祈りを中断し、立ち上がって2人に正対した。


「司教様、騎士サトシ様、どうかされましたか?」


司教が一歩前に出て、


「今日を最後に、明日以降、すべての治癒活動を取りやめます」

「えっ!?」


驚くハルカにサトシが続く。


「町の住民より抑えきれない苦情が届いた。この教会まで来た難民たちが壁の外に出て行かないのだ。町民たちは何とか暴力沙汰になる前に外へと難民を誘導しているがもう無理との声が上がった。明日以降、門を閉め難民を入れることはない」

「司教さま!?」


ハルカは司教に走り寄り、左手を両手で握って、


「いけません!この魔法は神が私に皆を治療せよとお与えになったのです!やめることは神の意志に背き、さらに外の人々の不満を高めることになります!司教さま!」


司教はハルカの握っていた手をつかみ、力強くガッと外した。


「もう町の支援者たちと話し合い、決めたことです!」

「しかし!」


司教はパン!とハルカの頬を叩いた。その勢いでヨロヨロとよろめき、ハルカは床にペタンと尻もちをついていた。


「聞き分けの悪い子ですね!あなたはただ治癒魔法を使える難民の子です!教祖と祭り上げられ勘違いしたのですか!?今、ここで不自由なく暮らせるのもあなたが治癒魔法を使えるからだけなのです!勘違いせず、私たちの言うことに従いなさい!」


ハルカは頬に手を当てながら、ただうずくまっているだけだ。


司教は、フンッと大きく鼻息を吐いて、大きな足音を立てながら祈りの部屋から出て行った。騎士サトシは動かないハルカに一瞬近づこうとした。しかし踏みとどまり、振り返って司教の跡を追うように祈りの部屋から出て行った。


朝、いつものように侍女により食事が運ばれてきた。量も質も変わりはない。いつものように神に感謝の祈りを捧げ、朝食を頂く。頃合いを見て侍女が食器を下げに来た。いつもは教祖の厳かな服を着るのを手伝うのだが、今日はそれがなく、ただ食器を下げ部屋から出て行った。


ハルカは小さく息を吐き、肩を落とす。昨日司教が言われていたように、治療は行わないのだ。

ハルカは侍女が持ってきてくれた水で顔を洗い、口をゆすいで立ち上がった。これから祈りの部屋に行って神に祈ろうと言うのだろう。


部屋の扉に近づこうとした時、窓の外から何かいつもと違う音が聞こえたように感じた。キィィ・・ときしんだ音を立てながら窓が開かれる。小さく、ゴッという音とキャァという悲鳴のような声が聞こえた。小さい音なのは遠いせいだろう。ハルカは窓から身を乗り出した。


町の壁の外、何かが動いている。人々が暮らすテントが倒れていく。そして火の手が上がった。それは一個所ではない。門の周辺から外に向かって広がっていくのだ。何かが動いていく。旗だ。白い旗。それはこの教会を表すもの。


「神聖騎士団!?」


ハルカはそれに気づき、ダッと走り出した。

ドンッ!と勢いよく部屋の扉を開け、階段を駆け下りて行く。そして祈りの部屋にたどり着いた。横切り、巨大な扉へと突進する。勢いよくぶつかり、


「ン・・・グゥ・・・!」


扉を開けようと踏ん張るが、びくともしない。


「教祖様」


その声に振り向くと、侍女が立っていた。


「ああ!騎士サトシ様を!サトシ様を呼んでください!」


ハルカの声に侍女は無反応だ。


「サトシ様をよん・・」

「サトシ様は、今壁の外で任務を遂行中です」

「えっ!?」


侍女の言葉に、ハルカの動きが止まった。


「今、サトシ様が先頭に立ち、外の難民どもを排除しております」

「な・・・なにを・・・?」


侍女は頭を下げ、ハルカの前から去って行った。


「誰か!誰か開けて下さい!開けて下さい!誰かぁ!」


巨大な扉を、ハルカはドンッ!ドンッ!と叩く。何度も、何度も・・・


手の皮膚は剥がれ、扉が血まみれとなっていた。どれくらい叩いただろう。


「・・・あぁ・・・・」


ハルカは扉の前にうずくまり、肩を落とした。

その頬には涙がつつ・・・と流れて行った。

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