第144話 教会の少女②
2021.8.10一部手直し実施しました。
流れに変化はありません。
教会の町。
その名の通り、町の中心は教会だ。海から少し離れた小高い丘に白い塔が立ち、この塔の中に歴史を記したと言われている壁画があった。これが今の教会だ。
昔、魔物がこの周辺を食い荒らしていた時、その壁画のある部屋だけは魔物が来なかったと言い伝えられており、その場で神に助けを求めて祈ったことから、この部屋が祈りの部屋となり、壁画が祈る対象になったと言われている。
この部屋から人々は魔物に対抗していき、この塔を中心に勢力を拡大していった。その戦闘集団が教祖を守る神聖騎士団の始まりであり、神に祈りを捧げていたことから宗教へと発展していき、いつの間にか壁画教と呼ばれていた。
神聖騎士団による魔物の駆逐は周辺地域を安全なものとし、それは散らばっていた人々を自然と集めることになった。この教会を中心にして人々は集まり、それは経済を動かし、人々を豊かにしていき、村から町に発展していった。
ハルカは、自分の部屋の窓から外を眺めた。
教会の塔の高いところにあり、教会の下の町も、その先の広がる平原、さらには海まで見ることができた。町には魔物避けの壁が存在する。その壁の外の平原にも幕のようなものが無数に立っていた。
難民である。ハルカ本人もそうだったように、今教会の町に無数の難民が押し寄せている。北からと東の海からの2方向からの難民だ。
ハルカは北から逃れてきた難民だった。突如魔物に攻められ、逃げてきたのだ。
町の人間のほとんどが逃げてきた。10日以上逃げるうちに魔物に殺され、この町にたどり着いたのは、1000人前後だった。
半分以上が殺されていた。成人男性は子供や女性を守るため戦い、死んでいった。ここにたどり着くことができたうちの8割が女性と子供だった。
海から逃れてきた人々も同じだった。
船が少なかったこともあり、船に乗れたのは逃げてきた人々の内、1割の100人程度だった。ほとんどが船に乗ることができず、魔物に殺されてしまったのだった。
この教会の町の人口は1000人弱。
壁の外には、町の人口より多い難民が神の加護を求め、集まっていた。教会の町よりも多い人数のため、食料の不足が深刻だった。魚を取り、野生動物を狩ることでまだ難民が少ない時は対応を取ることができた。
しかし今は、野生動物は狩りすぎておらず、魚も2倍に膨れ上がった人々を満足させるところまでは取れない。教会に貯めていた備蓄食料を出しているが、それもあとどれほど持つか・・・。
また、この町の防衛についても不安があった。神聖騎士団は100人程度であり、それは町の壁を利用して魔物から町を守るための兵力である。壁の外の人々を守る兵力はないのだ。
魔物たちは難民を追ってきたが、途中から引き返していた。海から来た難民たちも船に乗ると魔物は追ってこなかったと言っていたが、それが永遠に続くとは思えない。もし今魔物が攻めてくれば、壁の外の難民を守ることはできず、殺されてしまう。
ハルカは、自分の知り合いたちを殺されたくなかった。飢え死にさせたくはなかった。でも自分にできることはなかった。
自分は傷を治すことだけ・・・。
だから自分に魔法を授けて下さった神に祈る。
神よ、お助け下さい。迫りくる魔物から我々をお救い下さい。飢えからお救い下さい。救世主をお使わし下さい。そのためには我が身もお捧げ致します。
ハルカは毎日祈ることしかできなかった。