第142話 裂き乱れる兄弟愛⑱
2021.8.9一部手直し実施しました。
流れに変化はありません。
「一回死んだと思って、俺たちの国で新しく生き直しませんか?イの国は2人を歓迎しますよ」
にこやかに話しかけたのは、もちろんスザだった。
スザたち一行はもう魔物がいないことを確認し、7人がゆっくりと横になれる小屋を土魔法で建てた。中で火を焚き、焚火を囲んで車座に座って、明かりと暖を取る。
肉などを焼いて食事をとりながら、スザは胸から書状を取り出した。そしてショウタに渡す。ショウタは受け取り、中を開いた。ショウジと2人で目を通していく。それはトクジュからの書状だった。
父テルがあの後すぐ息を引き取ったこと、死に目に会わすことができずに申し訳なかったこと、社の国はイの国の一部となるが、独立は認められトクジュが今のまま国主として統治することなどが、事務的に書かれていた。そこから目を下にやると、
ショウタ兄様、ショウジ兄様、2人を追放して申し訳ありませんでした。2人の部下たちの面倒はきちんと見ますので安心してください。2人がこの国にいると2人を担ぎ出して権力争いをする者が現れるかもしれないと思い、このような決断を下しました。これからは、この国に縛られることなく、2人の思うがままに生きて下さい。
2人の弟トクジュより
ショウタとショウジは読み終わり、目を上げた。
「イの国は、このイズ様を守り神として周辺を統一、魔物を駆逐しながら南下してきました。今まで通ってきた町や村は、もうイの国の一部として生きていくことを選んでいます」
スザは2人にゆっくりと話しかけていた。
「イの国に住む人々が同じように幸せに生きていくことが望みなんですけど、まだまだ発展途中で、人も足りていないんです。俺は2人が統治してきた町を見て、ショウタ殿とショウジ殿が優れた人材なのを理解しています。どうでしょう、俺たちの国にその力をかしてくれませんか?」
夜遅くまで皆で話し合った。
次の日の朝、朝食前にショウタとショウジはスザたちに頭を下げ、
「イの国で働かせてください」
スザたちは笑顔で見合い、
「喜んで。共に良い国にして行きましょう」
スザはショウタ、ショウジとしっかり握手した。
「そこで一つお願いがあります」
「何でしょう」
ショウタとショウジは互いに顔を見た後、
「名を新しくしたいのです。できれば名付けをしてもらえないでしょうか」
「・・・なぜ名を変えたいのですか?」
「ショウタとショウジはここで死にました。生まれ変わったのです」
ああ・・・という表情で皆がスザの顔を見る。キョロキョロして、スザは自分を指差すと、皆が大きく頷いた。
「わかりました」
スザは顎に手を当て、うーんと唸る。
「えーと・・・ショウタ殿にはイの国が幸せで豊かな国になる手伝いをして欲しいので、ユタカ!」
ショウタは笑顔で大きく頷き、頭を下げた。
「ありがとうございます!」
「えーと・・・ショウジ殿にはイの国が魔物に侵略されることなく常に勝ち続け、皆が生き残れるように軍を率いて欲しいので、カツ!」
ショウジも笑顔で大きく頷き頭を下げた。
「ありがとうございます」
ナギとミナミはショウタ改めユタカとショウジ改めカツを連れ、西へと戻って行った。ユウたちと合流し、2人をイの国に送ってもらうのだ。
ユウとマイはイの国化部隊を抜け、2人と共にイの国に戻ることにする。土魔法のナナミ、風魔法のミサ、2人の護衛でトラの3人でやれると言う判断だ。イズがそうなるように連絡したと教えてくれた。
スザ、イズ、クシナは4人と別れ、トクジュが治める町へと戻ってきた。7日くらいは父テルの葬儀などで忙しいとのことなので、スザたちは社の国の道路整備を行うことにした。
旧ショウジの町、旧トクジュの村、旧ショウタの町の道路を整備したところでほぼ7日になったので、スザたちはゴーレム馬でトクジュの元に戻ってきた。これからは海上輸送だけでなく、陸送でも大量の物資を輸送できるだろう。
さらに今、こちらに向かってナナミたちが道を整備しているので、これが繋がると、社の国の豊富な物資がゴーレム馬によってイの国中に届くようになる。これに伴って貨幣経済も広げていく必要があるだろう。スザは、ショウタ改めユタカの頑張りに期待していた。
久しぶりにあったトクジュに兄たちのこと、道を繋いだことを報告した。トクジュは大いに喜び、
「私も兄たち同様生まれ変わりたい。私にも新たな名を付けてください。カッコいいやつで」
「おま・・難しいこと言うなよぉ・・・」
スザは文句を言いながら、顎に手を当てうーんと唸る。
「えーと・・・社の国だけでなく、イの国の人々の陽となり、影となり、皆が幸せになるように俺たちと共に歩み、導き、支えて欲しいので・・・カゲ!」
「ちょっと、スザ。カゲってどうなの?人の上に立つのよ?」
「いい!」
「えっ!?」
クシナはスザに文句を言っていたが、名付けられた本人は喜び立ち上がっていた。
「カッコいい!カゲ!いい!ありがとうございます!」
スザの前に飛び込んで座り、手を握ってブンブン振りだした。
「い、いやぁ・・・喜んでくれて、俺も嬉しいよ」
テルの死の喪が明けた次の日、トクジュは改名と、イの国との同盟(配下なのだが、影響が大きそうなので同盟ということにした)を発表した。一緒に新たな町や村の名も発表された。トクジュ改めカゲが住む旧ショウタの町は、社の町、旧トクジュの村はカゲの村、旧ショウジの町は、絆の町という名に変更された。
そこから10日後、ナギとミナミはトラ、ナナミ、ミサを伴ってスザたちに合流した。出会って早々、ミナミはスザの胸に飛び込んでいた。それを見て、クシナもナナミもミサも何か物欲しそうな顔をしていた。もちろん、声には出していない。
スザたちはカゲの館に近い場所をもらって、イの国の大使館を立てていた。もちろん他と連絡が取れるようにモニター完備。カゲのところにもモニターを設置している。
「これからの予定だけど・・・」
スザがイズを見ると、イズは画面に地図を出した。この辺周辺を現している。過去の地図だが大きな変化はない。
「目標は、ここから東へ徒歩20~30日程度のここがいいと思う」
イズは画面上の一部を指す。
「ここら辺は、ちょうどイの国の、山を挟んで反対側に当たるのよ」
イの国から山に垂直に交わる線を引くと、目標とした地域になっていた。
「ナナミ、ミサ、トラも合流したので、これからはイの国化を進めながらこの目標地点へ移動を考えているんだけど、どうだろう?」
スザの言葉に、全員が頷いた。
「では、出発は3日後。食料の確保など必要なことを済ませておこう」
「えっ!?もう行くのですか?」
カゲはスザから報告を受け、残念な表情だ。
「まあ、カゲにはいろいろと旅の最中でも相談するだろうから、その時は頼むよ」
「わかりました」
カゲは笑顔で頷いた。
そして予定通り、スザたちはゴーレム馬、ゴーレム馬車に分かれて乗り、カゲや住民に感謝されながら社の町を出発した。食料などの必要品は、結局カゲがすべて無料で提供してくれた。お世話になったから当然との言葉。スザは十分にお礼を言っておいた。
スザたち一行は予定通り、東に向かって海岸線を進んで行った。