第140話 裂き乱れる兄弟愛⑯
またブックマークをいただきました。
ありがとうございます。
2021.8.9一部手直し実施しました。
流れに変化はありません。
翌日の昼過ぎ。
関係者がショウタの館大広間に集められた。一段高い床の間には、力ない老人が肩を落とし座っている。トクジュたちの父テルだ。もう寿命が尽きかけているようにしか見えない。
父テルの前には、トクジュを先頭に、その下手にショウタとショウジが座っている。ショウタとショウジは縄で体を縛られていた。さらにその下手には側近たちが控えている。スザたち5人はそれを右横から見る形で座っていた。
「トクジュよ。よくぞ自分の村だけでなく、2つの町も守った」
テルは小さく咳をした後、力を振り絞って胸を張り、トクジュを称えた。
「わしの眼力は正しかった。遺言通り、わしの後継者はトクジュである。これからはトクジュを国主として、この社の国を守るのだ」
「ハハア!」
トクジュだけでなく、ショウタとショウジの側近たちもテルの言葉に頭を下げた。
トクジュは立ち上がり、父テルを支え、大広間からテルを退場させた。そのまま父テルの座っていた場所へと座る。
「皆の者、今父より話があったように、私トクジュがこの社の国の国主となった。これからも皆の変わらぬ働きに期待する」
「ハハア!」
ショウタとショウジ、そしてスザたちを除いた大広間の全員が頭を下げた。
トクジュの目が、縛られた2人に向かう。
「ショウタ、ショウジ」
名を呼ばれた2人だが、顔は正面を向いたままだ。
「2人はツクシマ様の前で父の書状に書かれている内容に従うと誓ったが、その誓いを破った。さらにショウジは町を救った私を切ろうとした」
ショウタは驚き、隣のショウジを見る。ショウジはギリリ・・・と歯を食いしばったままだ。さらにトクジュの言葉は続く。
「そしてショウタは父の説得、籠城案にも耳を貸さず勝算もないまま門を開け、攻めを強行し、兵士だけでなく、この町の住民を危機にさらした」
ショウタは視線を戻し、皆の視線を逸らすように顔をうつむかせた。
「2人のこれらの行いは極刑に値する!」
2人は何も言わず、その言葉を認めるように、ただ頭を下げた。
「トクジュ様!いえ、国主様!お待ちください!」
側近たちが座る中から一人が膝立ちし、少しだけ前に出て頭を下げた。
「何だ?マキ」
トクジュの側近、マキが国主となったトクジュに待ったをかけたのだ。
「ショウタ様とショウジ様の行いにご立腹はごもっともです。しかし、お2人ともテル様の元、この社の国をここまで大きくされることに尽力されました。その功を持って罪を償うことになりませんでしょうか!」
「私はショウジ様を導くことができませんでした。私もショウジ様の罪を償いますので、どうかお命だけはお助け下さい」
「私も!ショウタ様を!」
ショウジやショウタの側近が同様に頭を下げ、自ら罪をかぶり、元の主人たちの助命を嘆願した。
「お前たちはそう言うが、2人はまだ私を国主と認めてなどいない。そのまま生かせば、またこの国は内乱へと向かい、魔物に滅ぼされるかもしれないのだぞ?」
トクジュは頭を下げたままの2人を指差しながら、側近たちに問いかけた。
「ショウタ様!トクジュ様をお認め下さい!」
「ショウジ様も!」
2人は肩を震わせるだけで、その声に従わない。
「では、決したな」
そう言ってトクジュは立ち上がった。
「・・・ます・・・」
何か聞こえた。トクジュは一歩出した足を止めた。
「み・・とめ・・ます・・」
トクジュは戻り、席に座った。
「何か言ったか?」
2人は畳にドンッ!と頭を打ち付けた。
「・・・私、ショウタは・・・トクジュ・・様を、国主と認めます」
「・・俺は!ショウジは!トクジュ様を国主として認め、従います!」