第139話 裂き乱れる兄弟愛⑮
オーガたちは、突如自分たちが炎の壁に取り囲まれていることに気付いた。その炎の壁が渦巻き、一瞬でオーガの軍団を包み込む。炎に焼かれ、もがき、あがき、倒れる。しかし、その炎の壁を突破した魔物が2体いた。
魔物名:オーガジェネラル 特徴:大鬼。オーガの上位種。オーガを軍団として指揮できる。大剣を使う 属性:火属性に若干弱い 備考:鎧に見えるが、実際は皮膚を硬化させている。
魔物名:オーガキング 特徴:鬼の王。オーガの最上位種。配下のオーガ種の能力を上昇させる。大剣と魔法を使う魔法剣士 属性:火属性にほんの少し弱い 備考:鎧に見えるが、実際は皮膚を硬化させている。
スザは2体の前に降り立つ。
「ガアア!」
オーガジェネラルは手足に少しだけ炎を纏わせながら、大剣を天頂から振り下ろした。大剣はスザには当たらず、地面にドウッ!とめり込む。
オーガジェネラルの上半身がゆっくりとずれ、地面に落下した。下半身が血を噴出しながら、その後を追って倒れる。
アヤメの剣を振りながらオーガジェネラルの横をすり抜けたスザは、炎の壁を背後にゆっくりと歩いてくるオーガキングと対峙した。右手には大剣を握っている。体がボワッと光ったように見えた。
ボゴオォッ!
スザが飛び退った後の地面が音を立てて爆発する。振り下ろされた大剣が突き刺さっていた。
オーガキングの顔がパッと上を向き、宙を舞うスザを捉える。スザが気付いた時には、右足がスザの胴を薙ごうとしていた。
空中で交錯する影。
両者とも放物線を描き、地面に着地する。瞬時に振り向き、
ガカァッ!
大剣とアヤメの剣が両者の顔の前でぶつかり、ギリギリと鍔迫り合い。オーガキングの鼻からは血が流れ出ている。スザは蹴りをかわすためにオーガキングに向かって飛び込みながら、左腕の小盾を顔面に打ち付けていたのだ。
拮抗して動かない両者。突如スザの黒マントがフワリと浮き上がる。無数の何かがマントの背から噴き出た。それは魔力の矢。弧を描きながら上向きから下向きへと変え、オーガキングの頭、肩、背に雨となって降り注ぐ。
「ギャアア!」
鎧化した皮膚を貫き、血の華が咲き乱れる。一瞬だけ力が緩んだ。スザにはそれだけで十分だった。
大剣を跳ね上げ、短い振り下ろしで首筋にアヤメの剣を打ち込む。血を噴き出しながら、半ばで止まった。
「ガアア!」
口から血を吐き、叫びながら、オーガキングは最後の力を振り絞って大剣をスザの左肩へと振り下ろす。その大剣はスザを切り裂くことはなかった。巨大な円錐が右わき腹から心臓を貫き、背中まで突き出ていた。
大剣はすっぽ抜け、ドスッと地面に突き刺さる。ガックリと力がなくなった体は円錐に貫かれたオブジェとなった。
スザはアヤメの剣を首から抜きながら、フウゥと小さく息を吐く。
キドウマルほどではないが、力も早さもキレもあった。
体が光ったように見えたのが、この力の秘密を解き明かすもので、それは鑑定に書かれていた“魔法剣士“と関係があるとスザは考えていた。
トクジュの軍が残ったゴブリンたちを攻め立て、戦場はトクジュたちの勝利へと近づいていく。それからほどなくして、オオオオ!と勝どきがトクジュ軍から上がった。それは町にも広がっていった。