第138話 裂き乱れる兄弟愛⑭
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がんばります。
夜の帳はすでに下りていた。
町全体には煌々と明かりが灯されていた。ガチャガチャと鎧の音が門の周辺に響き、止まった。
一人の武将が前に出て振り返る。
「皆のもの!決戦だ!」
槍を天に掲げ、気勢を上げる。ショウタだ。
「火を灯せ!火矢を魔物に浴びせかけ、炎の槍を魔物に突き刺すのだ!」
ショウタを先頭に、側近が続き、その後ろには兵下たちが100人程度列を組んでいた。油と火が配られ、兵士たちの槍の刃に順次油が塗られ、火が灯されていく。
「弓兵!火矢を射よ!三連射!」
「オウッ!」
ヒュン!ヒュヒュン!壁、監視櫓、壁の内側から門の外側周辺に向かって火矢が撃ち込まれた。2回火矢をつがえ、射る。
「開門!出るぞォ!」
「オオオ!」
「勝つ!勝つ!勝つ!行くぞォ!」
「カツ!カツ!カツ!オオ!」
火槍を水平に構え、ショウタを先頭に開いた門から一気に駆け出していく。
開いた門から入り込もうとしたゴブリンは火槍の噴流に貫かれ、吹き飛ばされていた。門周辺のゴブリンの軍勢に大きな穴が空く。その穴を広げようと門から飛び出した火槍の兵士が勢いのままゴブリンを串刺しにして、さらに焼いていく。その隙に手の空いた兵士がゴブリンに刺さった矢を回収していた。
矢を回収した兵士たちが門へと引き上げるころ、火槍の兵士たちはゴブリンの軍勢と均衡状態となり、それ以上穴が広がらなくなっていた。それだけではなく、その穴が徐々に縮み始める。
「ダメだ!矢を射よ!目の前の魔物どもを突き崩せ!目指すは最奥のオーガたちぞ!」
ショウタは兵を鼓舞しながら、槍をゴブリンに突き立てる。矢を食らい、槍に刺されても、どんどんとやってくるゴブリンの勢いは止まらなかった。ゴブリンたちに押され、勝ち取った門周辺の穴がジワリと小さくなる。そして一人、また一人と兵士が倒れていった。
ショウタは兵士たちが半分以下になっていることに気付いた。そして開いた門がすぐ背後に迫っているのに愕然とした。
「も、門を閉めよ!門を閉めよ!」
ギギギ・・・と音を立てながら、門が締まり始めた。
「ショウタ様!早く中へ!」
「兵士たちを先に!」
ショウタは槍でゴブリンを突き刺しながら、側近たちに叫んでいた。
「閉めろぉ!」
ショウタの叫びに、ドオオン!と大きな音を立て、門は閉められ閂がかけられた。門の外には兵士たちが30人ほど取り残されていた。その中にはショウタも側近たちもいた。
さらに迫ってくるゴブリンたちを突き、崩しながら、
「すまんな!お前たち!」
ショウタの声が槍を振る兵士たちに届いた。
「最後にご一緒できて幸せです!」
誰かが叫んでいた。
「ハハ!次は仕える主を選ぶことだな!」
また兵士たちがゴブリンによって殺され、いつの間にかショウタの槍は半分ほどの長さに折れていた。
「最後だけは、町を守る者としての矜持は示せたかな?」
ショウタは目を瞑り、誰にでもなく呟いていた。最後の数人がゴブリンの波に飲み込まれ・・
「間に合った」
ザッ!
声と音を聞いて、ショウタは目を開けた。信じられない光景がそこにはあった。ゴブリンたちが血を流し、宙に浮かんでいた。
ショウタの前には黒いマントがあった。ショウタたちの足元から土の槍が突き出て、ゴブリンたちを串刺しにしていたのだ。
「そこで見ておくといい。俺たちイの国の一員になると受ける恩恵の一部を」
炎に浮かびあがる天を突く黒剣。その先が割れ、赤く輝く。
「ハッ!」
気合と共に振り下ろされると、その延長線上に炎の道がゴウッ!と現れ、燃え上がりながら伸び、ゴブリンどもを切り裂きながら燃やし尽くす。
さらに派手に爆音を響かせながら、ゴブリンがはじけ飛んでいく。それが徐々に門へと近づいてきた。
「もう!先に行きすぎよ!スザ」
黒髪と赤髪の美少女がスザの隣にストンと降り立った。
「オーガを倒しに行く」
「ここは任せて大丈夫ですぅ♡」
「気を抜かないでね」
スザはクシナとミナミに頷き、宙へと舞い上がった。
「力を振り絞れ!」
「オオオ!」
奥から声と共に軍勢が切り込み、ゴブリンたちを背後から崩し始めた。ショウタはそれを茫然と見るだけ。
「あの辺はまだ多いわね」
「やるですぅ♡」
ショウタの右手方向のゴブリンたちが宙を舞い、さらに爆音を響かせ弾け飛んでいった。