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第137話 裂き乱れる兄弟愛⑬

ウオオオォォ!と歓声が小さく聞こえた。その歓声がどんどんと大きくなる。館の前から響く歓声。目の前の、酒の入った杯をグッとあおり、剣に手を伸ばす。掴もうとした時、


「ショウジ様、おやめください」


静かに諫める声に、ショウジの手は一旦止まる。しかし、手は再び伸びて剣を掴んだ。立ち上がったショウジの前に、側近たちが立ちふさがる。


「我々は救われたのです」

「門が破られるところだったのです」

「感謝せねばならないところを、なぜそのような暴挙に出ようとなされるのか!」


ギリリ・・・。歯を食いしばった後、


「どけ!俺は!」


ザッ!と大きな音を立て、襖が一斉に開かれた。


「ショウジ兄上!」

「トクジュウゥゥ!」


側近たちをなぎ倒し、鞘走ろうとした手が軽く押さえて付けられていた。びくともしない。


「グッ!?」


歯を食いしばり、剣を抜こうとするショウジの目の前に、スザの顔があった。


「仲の良い兄弟に戻れないのか?」

「戻れるものか!」


目が血走り、口から唾液が飛びまくる。


「あれほど気にかけてやった弟が!力もないのに!俺を差し置いて国主になると!?」


ギョロギョロとその目を倒れている側近や、スザの後ろにいるトクジュへと向けて、


「お前は国主の器ではない!俺こそが相応しい!俺が!」

「助けてもらった礼もせず、さらには自分の意にならないからと弟を切ろうとする男の方がよっぽど国主の器とは思えないが・・・この国は俺の常識とは違うのか?」


イズに鍛えられた口撃が生かされたようだ。


「う、うるさい!」

「ショウジ兄上!至らない点もあると思います。兄上の助けが必要です。共にこの国をよくして行きましょう!」


トクジュの必死の呼びかけに、ギッ!と鋭い視線を向け、


「ならば俺に国主の座を譲れ!俺が全部一人でやってやる!俺ガアァッ!?」


ショウジは足から砕け、畳の上にバタッと倒れた。


「大丈夫。顎をちょんとやっただけ。気を失っただけだよ」


トクジュへの言葉だったが、それを聞いて側近たちも大きく息を吐いていた。

トクジュは気を失った兄を確認し、腰砕けのままの側近たちへ目をやる。


「お前たちも兄同様、私を認めることはできないか?」


側近たちはハッとして跪き、頭を下げた。


「いえ。トクジュ様そして守り神ツクシマ様に従います」


その言葉に頷き、トクジュは立ち上がる。


「急ぎ転進!まだショウタ兄の町が魔物に攻められている!一刻の猶予もない!行くぞ!」

「オオ!」


陽は傾きはじめた。ショウタの町に着くころには確実に夜になっているだろう。さらにトクジュの兵士たちは2連戦して疲労の極致かもしれない。でも、ここで休んで、明日攻めるとなれば間に合わず、町は魔物に蹂躙されているかもしれない。トクジュは心を鬼にして攻め上がることを決していた。それは兵士たちも理解していた。



夜の帳が下りようとしていた。

門はまだ破られてはいない。トクジュの村が魔物による攻撃を受けたと聞いて、罰が当たったと喜び帰ってみれば、少し遅れてこの町も魔物の攻撃を受けていたとは・・・。ショウタは深く一つため息をついていた。


「ショウタ様!」


ザッと襖を開き、側近の一人が入ってきた。眉間にしわを寄せたその表情、急ぐ様から見ると、良い知らせでないことは容易に想像がつく。ショウタは一段上がった床の間の上に座ったまま、面白くなさそうな表情で顎をしゃくった。


「矢が尽きようとしております」

「魔物の数は?」


側近は首を横に振る。


「一向に減る気配はありません。組織的な攻撃がないことと、ゴブリン主体の攻撃なので、まだこの町は陥落せずに済んでおります」


側近はじっとショウタを見つめている。まだ言いたいことがありそうだ。


「続けてよい」


ショウタの言葉に側近は頭を下げ、


「物見の兵士が言うには、後方にオーガの集団が控えているとのこと。これが動き出したら、この町がどのようになるかは想像できません」


いや、まずい結果を想像しているのは、確かだ。


「・・・ショウジ様、トクジュ様へ援軍を・」

「言えるか!」


ショウタは床をドンッ!と拳で叩き、叫んでいた。


「ツクシマ様に言質を取られた挙句、捏造だと決めつけて逃げてきたのだ!どの面下げて、誰に援軍を請うと言うのか!?」


ギリリ・・・と歯を食いしばり、虚空を見つめるショウタの、左手側の襖がゆっくりと開いた。


「・・・次の国主に頭を下げればよかろう」

「えっ!?」


ショウタはその声に目を向ける。


「ち、父上!?」


今、病床から起き上がったようで、側近に支えられながらショウタの前に進んできた。ドカッとそのままショウタの横に座る。


「わしの遺言状については、ツクシマ様の前で読まれたと聞いている」

「・・・はい・・・」


がっくりと落としたショウタの肩を、テルは掴んだ。少し震えているのがショウタにはわかった。


「ショウタ、お前もショウジも優秀だ。しかし自尊心が高すぎる。例えそれが足を引っ張っても、お前たち2人であれば、わしくらいのことはできるとは思っていた。でもそれはわし程度のことしかできないということだ」


ショウタは顔を上げ、父テルの目を見つめる。父はショウタではなく、誰かを見ていた。


「でも、トクジュは違う。トクジュは、あの年齢ですべてを見て、先を読み、熟考し、感情に流されない判断を下せる。根底には優しさがあるので、冷徹な判断にも人が付いてくる。あの村を見て、わしにはわかった」


父テルの目が、ショウタを見つめた。それがショウタにわかった。


「この魔物の世界で民が今よりもっと幸せに暮らすには、トクジュが国主にならなければならない。すまない」


テルはショウタに頭を下げた。


「わかりました、父上」

「ありがとう」


ショウタは肩から父の手を優しく外し、にこやかに笑いながら立ち上がった。


「出るぞ!門から打って出るのだ!」


テルも、下手で頭を下げていたショウタの側近も驚き、叫ぶショウタを見上げていた。


「父上は病で気がお触れになったのだ!私がこの魔物どもを蹴散らせば、そんな世迷言など忘れ、私がこの社の国を継ぐことを泣いて喜ぶはずだ!」


ショウタは床の間を下り、側近の側を通って部屋の外へ出ようとする。


「ショウタ!このまま籠城だ!トクジュとショウジに援軍を請うのだ!」


ショウタは振り返り、必死に叫ぶ父テルを見て、


「トクジュもショウジもすでに魔物に食われています。私が魔物を蹴散らし、この社の国の後継者だと皆に示しましょう」

「ショウタ!」


テルの呼びかけにも答えず、そのまま部屋を出て行った。


「狂ったのか!?ショウタァ!」


困惑する側近を引き連れ、ショウタは戦場へと歩みを進めるのだった。

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