第134話 裂き乱れる兄弟愛⑩
翌々日の朝を少し過ぎて、ショウタとショウジは社に現れた。
ツクシマの部屋に入室を許可されたのは、ショウタとショウジだけ。側近たちは、その外で待たされることになった。ショウタとショウジがツクシマの部屋に入ると、すでにトクジュが大きなテーブルの短辺、下手に座っていた。
兄たちを見て、立ち上がり礼をする。トクジュの部下が外の部屋にいたので、トクジュが先にいることは2人ともわかっていた。
一番の上手、テーブルの短辺にツクシマ、その左側、テーブルの長辺にショウタ、対面側のテーブル長辺にショウジ、ツクシマの対面のテーブル短辺、一番の下手にトクジュが座る。
ツクシマは3人の顔を見て、
「今日は私の招きに応え、来てくれてありがとう。書状にも書いていたように、テル殿が病気で混乱が生じているようなので、誰がテル殿の跡を継ぐか、3人の主張を確認したいと思い、来てもらいました」
ショウタが椅子の上で体をツクシマの方に向け、一礼した。
「まずは私から言ってもよろしいでしょうか」
ツクシマは頷く。
「ショウジは、父上が後継者を決めていないことから、自分が後継者としての資格があると思っておりますが、古来より社の国は長男が国主に着くのが通例となっております。父が病により後継者が誰かを残していなかっただけの話であり、ここは私が継ぐのが当然だと思います」
ショウタはチラとショウジを見て、小さくフッと鼻で笑ったようだ。ショウジはショウタを睨んだ後、同じく体をツクシマの方に向け、一礼する。
「ショウタはそう申しておりますが、父が後継者を決めていなかったのはショウタにその能力がないと判断したからだと思います。父は慣例に習い長男に移行する、という気などなく、能力で決めたかったのだと思います。それは、私に軍事を任せ、ショウタには政治・経済を任せて競い合わせながら、すべての実権は父が握っていたことからも想像できます。また父はショウタの言動を父の次に重たいような発言もしていなかった。これはショウタではなく、他に後継者を決めていたからだと思います」
「弟の分際で、兄に何を言うか!?」
侮辱されたと思ったショウタは、椅子から立ち上がり怒声を発した。それを受けてショウジも椅子から立ち上がる。
「痛いところを突かれたから怒ったか!?自分の才能も器も国主足りえずとわからないのか!?」
バチバチと火花が飛んでいるような会話が続く。突如、ショウタがトクジュに向かい、
「トクジュよ、お前も私の方が父の跡を継ぐのが正しいと思うだろう!?」
「トクジュよ、お前を疎んじ、あからさまに遠ざけていたショウタが、人々を幸せにできると思っているのか!?」
トクジュは閉じていた目を開いた。
「私は、父の決定に従います」
「お前!俺の方に!」
「トクジュ、父は目を覚ましていないのだぞ!?」
ショウタは怒り、ショウジは何を言っているのだという呆れた表情だ。
「入りなさい」
突如ツクシマが3人を無視して声をかけると、扉が開き、老齢の男性が入ってきた。病床のテルの側にいつもいる父テルの側近だ。一礼し、
「主テル様より書状を預かり、トクジュ様にお渡ししております」
ショウタとショウジの目が側近の男性から、何も言わず椅子に座るトクジュに向かった。
「その書状はツクシマ様にお渡ししております」
今度は全員の目がトクジュからツクシマへと向かう。
「先ほど申したように、何が書かれていようとも、私は父の決定に従います」
椅子に座ったまま、トクジュは頭を下げた。
「トクジュはそう申しておりますが、2人はどうですか?」
静かにツクシマはショウタとショウジに問いかける。2人は同時にトクジュを見、同時に互いを睨みつけた。
「私も父の決定に従います」
ショウタとショウジの声が重なる。
「わかりました。皆、入ってきなさい」
3人の側近たちがツクシマに招かれ、部屋の中に入ってきた。
「皆、3人がこの書状に書かれた結果に従うと聞きましたね」
全員が跪き、
「はっ!聞きました」
全員の声にツクシマは頷きパララ・・と書状を開いた。
「では、読み上げます。
ショウタ、ショウジの兄2人はとても優秀であるが、社の国を治めるには器量が足りない。互いが互いを下に見て、自らが上と思い込み、どちらを後継者としても片方はそれを認めることはないだろう。それは内戦を引き起こし、魔物の動向次第によっては、滅亡へと突き進むことになる。これは国民にとって、とてつもなく不幸なことだ。よって、後継者は三男トクジュとする。村の統治、軍の扱い方、諜報による情報管理、すべてが兄2人より優れている。己のすべてをかけ、社の国を繁栄に導くことを望む。 社の国国主テル」
ザッと椅子からトクジュは立ち上がり、
「わかりました!父テルより後継者と指名されたからには、全身全霊を持って、国主たる勤めを果たします!皆、この社の国をよくするため、協力をお願いする」
「皆さん、頼みましたよ」
「ハッ!」
跪いた側近たちは、ツクシマのダメ押しに了解の声を発していた。だが、
「認めない!」
「認めん!」
ほぼ同時にショウタもショウジも拒否の声を上げる。
「これは捏造だ!」
「そうだ!お前たち側近が父に成り代わり、捏造したのだ!」
兄2人は父テルの側近やトクジュを指差し、大声を上げ続ける。
「これを見ても、そう言うのですか?」
ツクシマは読んだ書状を掲げた。テルの名の横に印があった。テルの署名と示すものだ。
2人はそれを見ると、驚き怯んだ。しかし、すぐさま表情を抑え、
「捏造だ!」
「そうだ!捏造だ!」
そう叫びながら2人はツクシマの部屋から退出を始めた。
「この話し合いは無効だ!」
「そうだ!無効だ!」
2人の側近たちは、ダメです、守り神様を敵に回すのですか?と押しとどめようとするが、2人はそのまま押し切り外へと出て行った。側近たちはツクシマとトクジュに一礼して2人を追って出て行った。
それと入れ違いに、トクジュの部下が血相を変えて、部屋に転がり込んできて、跪く。
「ト、トクジュ様!」
肩で息をしている。急いできたようだ。
「魔物が!魔物が我らの村を攻めてきました!急いでお戻りを!」
「みろ!捏造するから罰が当たったのだ!」
遠くから兄の声が響く。どちらの兄が叫んだかは小さくてわからなかったが、トクジュはそんなことなど考える余裕もなかった。