第131話 裂き乱れる兄弟愛⑦
トクジュはすぐさまスザたちを連れ、ショウタの元から離れて自分の村に移動した。やっぱり気が変わったと言われても、手元にいないのでは手が出しようもないからだ。
夜にはトクジュから歓待を受け、5人は1つの部屋に通された。スザたちを見ているようだが、声が聞こえるような距離ではないことを気配感知でスザは理解している。
「トクジュか?彼は切れ者だ」
イズは皆を集めて開口一番そう言い切った。その言葉に他の4人も大きく頷いた。
村は兄2人に比べると小さいが、門も塀も手入れがされ、戦いに備えている。兵士も統率が取れており、村民から尊敬の念を抱かれているのが人々の態度から理解できた。兵士の装備も兄2人とそん色ない。村の人々も笑顔で活気に溢れていた。
「そして人々を思いやる心」
スザは思い出していた。夜の食事を侍女が出した時だ。
彼女たちは、日ごろと同じ食事を出して申し訳ございませんと呟いていた。トクジュは館の皆と同じものを毎日食べており、今日も客人がいるのに全く同じものを出すようにと言ったらしい。侍女や料理人は反対したが押し切ったそうだ。魚料理を中心に、季節のものとその日に取れたものを中心に同じ食事をとる。権力を持った人間で、このようにできる人は中々いない。
「剣術か武術か、身のこなしを見ると中々のものだと思います」
ナギの言葉にスザは頷いた。ちょっとした所作に無駄がなく、キレがある動きだ。そんな話をしている中、気配が近づいてきた。もちろん隠れて近づいてきているのではない。
部屋の外で、声が発せられた。
「皆さん、少しよろしいでしょうか」
今話していたトクジュだ。
「どうぞ、お入りください」
スザの声を受け、トクジュは部屋の中に入った。
「明日のことなのですが、村の市場をご覧頂いた後、港へ行って船で沖に出たいのですがよろしいでしょうか?」
スザたちは顔を見合わせ、トクジュに向き直る。
「船でどこかに行くのですか?」
スザの問いに、トクジュは大きく頷いた。
「我々の国がなぜ社の国と呼ばれているか、皆さんに見て頂きたいのです」
イズは何も言わない。トクジュはスザの答えを待っている。
「わかりました。ご案内ください」
トクジュは頭を下げた後、
「何があるかもわかりませんので、武装はしておいてください」
「わかりました」
「トクジュさん」
「トクジュぼっちゃん」
「トクジュくん」
市場を歩くと、村人から商人から、子供から大人まで、トクジュに気軽に声をかけてくる。トクジュは話しながら、作物などの話を聞き、スザたちに立ち食いできるものを買いながら、一緒に食べ歩きや話を続けた。
「おやっさん!」
「おう、トクジュ!今日はどうする?」
色黒の筋骨隆々のおやっさんと呼ばれた禿おやじが船を下り、トクジュに話しかけてきた。そしてスザたちを見て、
「こりゃまたスゲーのが来たな。守り神様に会いに行くのか?」
「ええ。社までお願いします」
「わかった!」
目の前に島が見える。そして海の中に朱色の構造体が見えた。
「大きな鳥居ね」
イズの声に、
「え?ご存じなのですか?」
イズは、驚くトクジュに頷いた。
「その言葉を知っているのはびっくりです。守り神様と話をしなければ、あの朱色の構造体が鳥居という名だと、私は知りませんでしたから」
知っているのは兄2人と父テルだけだと、トクジュは言っていた。
天気も良く、島と近いため潮の流れは穏やかで、おやっさんが漕ぐ小さな船でも問題なく島の港に着くことができた。おやっさんは船を着岸させ、ここで待っているとのこと。
「では行きましょう」
トクジュの案内の元、船を降り、鳥居を右手に見ながら奥に見える朱色の巨大な建物に近づいていく。
「これが、守り神がいらっしゃる社です。この社があり、守り神が我々を守ってくださっているので、我々の国は社の国と言われています」
一歩一歩近づいていくごとに、違和感の正体がわかった。
「これは・・・」
スザの言葉をイズは引き継いだ。
「そう、ダンジョンね」