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第129話 裂き乱れる兄弟愛⑤

2021.8.9一部手直し実施しました。

流れに変化はありません。

次の日、朝から隊長案内の元、馬で走り昼前にはショウタの町に到着した。途中、ショウタとショウジの町のちょうど中間くらいに村が遠くに見えた。海辺の村が三男トクジュの治める村とのことだ。スザたちはそこには寄らず、ショウジの書状を胸にショウタの町の門の前に到着した。ショウジの隊長はすでに引き返している。


ゴーレム馬を下りた後、門がギギギ・・・と音を立てながら開いた。現れたのは、昨日助けたショウタの隊長だ。


「約束通り来て頂き、ありがとうございます。こちらにどうぞ。主ショウタの館まで案内致します」


ゴーレム馬を引きながら、隊長の後を追う。


「減点1」

「同じく」

「同じですぅ」


呟いたイズの言葉にクシナもミナミを大きく頷いていた。長男ショウタさんはショウジさんとの対応の差で、女性陣には不評を買ってしまったようだ。

しかし町は活気に満ち溢れていた。人々が右往左往しながら、笑顔で満たされていた。物資も豊富で、作物も肉も大量に積み上げられている。


「ここは貨幣経済性を施行しているのね」


イズの言葉に、スザたちはぽかんとした表情だ。


「ああ。私たちのイの国は基本物々交換よね」


スザは頷きながら、イズが指し示す人々の手元を見ていた。物を受け取る時、小さな何かを渡している。金属か?


「ええと・・・基本、我々は自分が欲しいものと余っているものを交換する。でもここは物と物を交換するのではなく、物と貨幣を交換するのよ」

「貨幣?」


イズはうーんと唸る。


「例えば、芋と魔肉を交換しようとするとしましょうか。魔肉一抱えには芋10本で、いや芋9本で・・・て感じで交渉して、お互い納得する量で交換するわね」


スザもクシナも頷く。


「欲しい物を交換するのに、ここでは貨幣を用いているのよ。貨幣というのは、権力者が認めた価値あるもの。例えばスザが魔石を価値があり、これは魔肉1抱えに相当すると周知すれば、スザを信じる人々は魔肉1抱えを魔石1つと交換できるよね。そして芋10本は魔肉1抱えと同じ価値だとスザは皆に知らせると、芋10本も魔石1つで交換できる。だから、魔石を持っておけば、魔肉にも芋にも交換できるってわけ。これのいいところは、貨幣となるものを持っておけば、自分が欲しい物と交換できるということ」


クシナは頷いた。


「そうか。物々交換だったら、欲しくないものは交換できないか、量が減ったりするけど、これだと欲しい物と交換できるんだ」


クシナとミナミは目を合わせ、おお!と感心した顔をしている。


「そうなんだけど、問題もあるのよ」


クシナとミナミはイズに視線を向け、言葉を待っている。


「貨幣をたくさん持った人間がすべてを独占して、平等に物が行き渡らなくなる可能性がある。今のイの国は食料が少ないこともあって、物を譲り合い、助け合って生きている。そのおかげで餓死者が出ることもないし、皆ががんばって働いて、その成果が平等に分けられている。でも、貨幣の多大な恩恵を受けた者次第で、貨幣を持っていない人は物を手に入れられず、餓死してしまう可能性もある。まあ、物々交換でもその可能性があるけどね」


クシナとミナミはうーん・・・と困った様子。


「もう少し物が増えていけば、あなたたちが主導して独占が生まれないようにしながら、やり方をまねてもいいかもね」


スザも入って3人がうーん・・と唸っている。


「まあ、この国を見て判断していけばいいんじゃない?よいと思えば優秀な人を雇ってイの国で指導してもらうということも考えていけばいい」

「そうだな」

「でも、とりあえず言えるのは、この町を維持しているショウタもショウジ同様優秀ということよ」

「政治に手腕を発揮できるショウタと軍事を司るショウジ。2人が手を取り合ってこの国を運営できれば、非常に良い国となる」


スザの言葉にイズは頷き、


「だから、父テルの元で、このように繁栄してきたのよ。でもこのまま、この国を支えてきた2人が争うようなことになれば、国は衰退して行くでしょうね」


イズの言葉を聞きながら、スザは見えてきた2階建ての赤壁の大きな屋敷を見た。ショウジの館と同じようにゴーレム馬を止め、侍女に足を洗われ、案内されるまま木の床を歩き、大広間の前まで通された。


「来られました。お通し致します」

「ああ、入られよ」


侍女によって襖が開かれ、そのまま通される。一段上がった床の間に座っていた細い青年が台を前に座ってスザたちを迎えた。


「減点」


イズの呟きに、クシナもミナミも小さく頷いた。

床の間の下座に5人分の台が置かれている。隊長が先導し、


「さあ、お座りください」


手を振り、スザたちに座れと催促する。クシナとミナミはスザを見た。スザは何も言わず、真ん中に座る。その左にイズ、右にクシナ、イズの左にナギ、クシナの右にミナミが席に着いた。


『さらに減点』


イズ様からは減点される一方のようです。


「我々を助けて頂いた旅の方々です」

「うむ。この度は兵士たちを助けて頂き、感謝する。私はこの館の主であるショウタである。そのお礼に馳走をしようと思って、ここまでご案内した。堪能して下され」


スザは礼をした。


「心遣い感謝します。私はスザ、左からイズ、ナギ、右のクシナ、ミナミと申します。ショウジ様からこれを預かっております」


スザは胸から書状を出した。隊長がそれを受け取り、一段上のショウタに頭を下げながら差し出した。ショウタは受け取り、書状をバラリと広げる。ショウタはスザたちと書状の間で視線をチラチラと移動させていた。バサッと乱暴にまとめ、左側の床に置く。


「隊長」


ショウタの呼びかけに隊長は頭を下げる。


「ショウジからの書状には、彼らは魔法を使って魔物を倒し、さらには兵士たちの傷を治したと記載があった。それはお前たちの報告とも一致している。これらの言葉に相違はないか?」


隊長はさらに頭を下げながら、


「相違ございません。オーガ3体、ゴブリン多数を一瞬のうちに魔法で倒され、ショウジ様の兵士から受けた兵士たちの槍傷を治して頂きました」


ショウタは目を細め、顎に手をやりながら、隊長からスザへと視線を移動させた。


「ショウジの書状には、父上の病状を治せるかもしれないと書かれていた」


スザは、疑いの目を受けながら、


「ショウジ様にも言いましたが、まずはテル様を見せて頂けないと、魔法で治るかどうかはわかりません。傷や怪我なら治りますが、病気は治らない可能性が高いのです」


ショウタは何か言おうと口を開きかけたが、やめた。少し考えるようなしぐさをした後、


「そのことについては、館内で話をしてどうするかを決めよう。さ、まずは食事だ」


侍女たちが饗応を始めた。食事が終わって早々にショウタは引き上げた。側近と今後について話をするらしい。スザたちは、ショウタの考えを聞くことはできなかった。逆に考えると、人同士で争うなという言葉をすでに聞いていて、そのことで問い詰められるとまずいと思い、逃げた可能性もある。その可能性の方が高いとイズは考えていた。


弟のショウジの人柄がざっくばらんだったため、ショウタの態度が余計に傲慢に見えてしまい、女性陣へのショウタの評価はすこぶる低くなっていた。

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