第128話 裂き乱れる兄弟愛④
2021.8.9一部手直し実施しました。
流れに変化はありません。
ショウジ様の町へ行きながら隊長の話を聞く。
どうも互いの偵察部隊が偶然にあの場所で遭遇したらしい。ショウタの部隊はショウジの町を偵察するために直線的に近づくのではなく、一回西に大回りで動いて、そこから回り込んで偵察しようとしていたのだ。
なぜそれがわかったのかというと、ショウジの部隊も一度西に大回りして偵察に行こうと動き出して、1日たった時に偶然ばったりと出会ってしまったらしい。平野と言っても起伏もあり、さらに5人程度の少人数のため、目の前に現れるまで気付かなかったとのことだ。
ゴブリン、オーガと戦った場所から歩いて1日。翌日昼前にスザたちは兵士たちとショウジの町に着いた。
隊長が声をかけるまでもなく、門の扉がギギギ・・・と音を立てながらゆっくりと開く。
兵士たちの鎧より立派で、青のマントを付けたガッチリとした青年が現れた。隊長と兵士たちは膝をつき、頭を垂れた。
青マントの青年は近づき、スザたちに頭を下げた。
「兵士たちを魔物から助けて頂き、感謝します」
そしてゆっくりと顔を上げる。口と顎に髭を生やしていた。よく見ると、目・鼻は優しそうな印象だ。
「これは・・・兵士から聞いていたより遥かに・・・」
スザを見ていた髭の青年は、ハッとして再び頭を下げる。
「申し訳ございません。我が屋敷へどうぞ。ささやかながら、お礼の宴を準備しております。どうぞこちらへ」
髭の青年と隊長の案内によって門をくぐる。門周辺ということもあり兵士が多い。その全員がきっちりと頭を下げていた。
「よく統率されています。士気も高い」
ナギがスザに近づき、耳打ちする。スザは小さく頷いた。槍も鎧もくたびれてもなく、兵士たちの表情は自信に満ちているようだ。もちろん、町民たちも笑顔でわいわいと動いていた。髭の青年へも頭を下げている。町自体が笑顔で活気にあふれている印象だ。
「魔物によって困窮している様子はないようね」
イズの呟きに、スザは同意した。
木造の2階建て、紺色に塗られた屋敷の前で髭の青年は止まり、部下が馬を預かるというので任せた。武装はそのままだ。
侍女たちにブーツを脱がされ、足を洗われ奥へと通される。よく手入れされた木の床の上を歩いて、襖が開かれた。
「ほう、これは畳」
イズの声は髭の青年にも届いていたようで、
「おや、ご存じでしたか。これは我々の守り神によって製法を伝授され、一般的になった畳です。素足で歩くと非常に気持ちいいのです」
緑薫る畳の床を、髭の青年は先導し、スザたち5人を大広間に招き入れた。
「ちょうど昼食に良い時間です。準備いたしました。さあ、どうぞ」
一段上がった床の間には何も準備はされていない。入り口から遠い側に一列5席の小さな台が置かれていた。その対面、入り口に近い側の真ん中に同じ大きさの台が一つ置かれている。
髭の青年は自ら入り口の近い側の台のそばに立ち、5人にどうぞと遠い側の台へと手を振る。
イズがすっと動き、指示を出す。髭の青年の対面にはスザ、その床の間側にはイズ自身、スザを挟んでイズと反対側にはクシナ、イズの隣にナギ、クシナの隣にミナミを座らせる。
全員が座ったことを確認し、髭の青年は台の前に出て座り、スザに頭を下げた。
「この度は兵士たちを救って頂き、ありがとうございました。この館の主ショウジと申します。感謝の印として慎ましやかながら、宴を設けました。堪能して頂ければと思います」
ショウジは顔を上げ、手をパンパンと叩いた。華やかな女性たちが手にたくさんの料理を抱え、空の小さな台の上に載せていく。ショウジは飲み物の入った杯を持ち、
「それでは、皆さんへの感謝と新たな出会いに乾杯!」
ショウジは杯を掲げ、グィッと飲んだ。スザたちもそれをまね、一気に飲む。ナギは酒だが、他の4人はさわやかな甘みと酸味のある飲み物だった。
「おいしいですぅ♡!」
「ほんと!」
ミナミとクシナの声に、イズもスザも大きく頷いた。スザは杯を置き、
「こんなに立派な宴を催していただき、ありがとうございます。私はスザ、左がイズ、右がクシナ、イズの隣がナギ、クシナの隣がミナミといいます」
スザの紹介に合わせて、各々が頭を下げる。
「我々は、ここより遠いイの国から南下、そして東に進んでここまで来ました」
「イの国とは?」
ショウジの疑問に、スザはイの国の成り立ちから旅、魔物との戦い、ダンジョン五重塔の制覇、そして先ほどの戦いまでを説明した。イの国化とその恩恵については伝えなかった。
「戦闘用の魔法と、怪我を直した魔法を使われると聞きましたが、それは本当でしょうか」
「はい」
スザは頷いた。別にショウジは疑ってはいない。すでに隊長にも兵士からも報告が入っている。この5人は、後継者争いをしているショウジ、ショウタにとって勝負を決する駒となるだろう。彼らの協力を得ることができれば・・・
「我々を仲間にできれば、戦いに勝てる」
箸をおいた金髪の美女が、鋭い目に反する優し気な口調でショウタの思考を中断させた。
「そう思うのは勝手だが、それに巻き込まれるのは迷惑千万ですわ」
なんか口調が丁寧なんですけど・・・
イズはギロリとスザを睨んだ。
「我々の目的は魔物からの人々の解放。後継者争いを解決するのは我々の目的ではないわ」
「ハハハハ!」
ショウジは自分の後頭部をバシバシと叩きながら大笑いした。
「そうですね。人同士で争うのではなく、魔物と戦えと、隊長にそうおっしゃられたとお聞きしております。面目次第もございません」
ショウジはまた頭を下げた。
「なぜ魔物と戦うのではなく、兄弟で争うことになったのかお聞かせ願えますか?」
イズの言葉に頭を上げたショウジは、頷いて話し始めた。
内政の兄ショウタ、軍事の弟ショウジ。父テルは2人を両輪としてこの国をまとめていた。テルの下で2人は協力して魔物を倒し、村から町へと発展させ、人々が暮らしやすいように各地を開発していった。
しかし、父テルは兄ショウタを後継者として指名しなかった。そのまま病気に倒れ、今は意識不明のままだ。
兄ショウタは人を見下すようなところがあり、小さな不平不満が父テルの元に届けられていた。弟ショウジも見下されていたと感じていた。一番下の弟トクジュは父テルにも死去した母にも可愛がられていたため、さらに冷たく当たっていたらしい。トクジュは何も言わなかったが、部下たちがそれを報告していた。ショウジのところにも情報は来ていた。
弟たちですら見下すような男が、この国を治めることができるのか?ショウジはどんどん疑問に思うようになっていった。そして、父テルが倒れた中、誰に相談するでもなく、自らを後継者と認めるよう圧をかけてきたため、ショウジは自らが後継者になると決めたのだった。
「お聞かせ下さり、ありがとうございます」
イズはショウジに頭を下げた。
「どうでしょうか。私の味方について頂けませんか?」
イズたち4人はスザを見る。スザは少し考えた後、口を開いた。
「隊長殿にも言いましたが、ショウジ様の兄上であるショウタ様にも会うと言っています。お二方に会い、話をさせてもらい、できれば良い仲に戻って頂きたいと思っています。人同士が協力しないと魔物には勝てません」
ショウジはガクッと落胆した。
「このような宴を催して頂いたのに申し訳ございません」
スザの言葉にショウジは頭を振った。
「明日、ショウタの町まで案内しよう・・・そうだ!怪我を治す魔法!あれを父テルにかけてもらえませんか?父が意識を取り戻し、後継者を決めるのが一番なのです!」
スザはミナミを見る。
「まずはテル様を見せて頂けないと、魔法で治るかどうかはわかりません。傷や怪我なら治りますが、病気は治らない可能性が高いのですぅ」
がんばったが、最後にミナミの地が出た。
「父テルと会えるよう書状を書きましょう」
スザは首をひねる。
「テル様はどこにいらっしゃるのですか?」
「・・・兄ショウタの館です」
ギリリ・・・と歯を食いしばった音が漏れた。